あれは遡れば長く遠く、だけど今でも鮮明に覚えてる、私が高校一年の夏休みの出来事。
ある暑い日、私とカナ、そしてメコで肝試しをしようって話になった。
カナは中学からの友人、メコとは夏休みに入る少し前に仲良くなった。
カナは好奇心に溢れてて、俗に言うノリのいい子だった。
メコは学校では真面目で、大人しい子。
だけど一つだけ普通の子とは違っていた。
実家がお寺で『見える子』であり、また『見せられる子』だった。
詰まるとこ、霊感が強かった。
そんな二人が一緒にいたら「肝試し行こ
うよー」は自然の流れなんだ。
私はというと、…極端にビビりだけど、
オカルトは好きっていう困った人間だ。
とにかくその夜0時くらいに地元では最も有名な場所に向かった。
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その場所はというと、一週一キロくらいある広い公園。
真ん中には大きな池がある。
昼間はランニングしてる人や、釣りをしてる人、遊具で遊ぶ子供達なんかで結構賑やかだった。
しかし夜になるとこれでもかって位怖い。
夜は来ないでよ、と公園が言ってるかの如く『雰囲気』がある。
そんな広い公園で一番出ると言われているのが北側にこっそりある使われなくなった集会所だ。
高校で一番のやんちゃな男子が集会所に行って直ぐに、泣きながら逃げてきたという話は地元では結構有名だった。
本人はもう二度と行かない。と真顔で話たそうだ。
そんな場所に行こうというのだから、カナの好奇心には困ったもんだ。
私もまぁ…興味あったけど…
そんなこんなで私達は集会所に着いた。
外観は真っ白なちょっと大きい一軒家。
ただ、噂に相応しく暗い雰囲気と迫力があった。
うわぁ…と圧倒されてると突然静かにしていたメコが「あ…」と声を漏らした。
メコは普段、見えていてもいちいちリアクションは取らない。
見えるのが普通だから、反応なんてしないって聞いた事があった…はず
私とカナは顔を合わせて同じ表情をした。
「やばい。」
何故なら普通反応しないのに、今回は反応したって事は、普通じゃないって事だから。
カナが興味津々って顔で質問する。
「何なにっ、何が見えたの??」
メコは困った様な顔で一瞬考えたあと私達に向かって答えた。
「見てみる?」
そう、メコは『見せられる子』なんだ。
そもそもメコと仲良くなったきっかけがこれだ。
夏休みに入る少し前、メコが授業中にいきなり「なんなの?!」と叫んだ。
普段大人しい子だった事もあって、先生や生徒皆が唖然とした。
「なんでもないです、すみません。」とメコが平然とした態度で謝ると、その場は何事もなかったかの様に授業は再開した。
しかしカナだけは放課後に誰もいない教室にメコを呼んで、持ち前の好奇心でグイグイとメコに絡んでいった。
「さっきどうしたの?」とか「絶対なんかあったでしょ?!」とか。
あまりにもキラキラした目で質問攻めするもんだから、メコも面倒くさくなり、本当の事を話した。
どうせ信じないし…と思ったみたいだけど、相手が悪かった
「白い男の子がつついたり、机に座ったり、髪の毛を引っ張ったり、ストレスを駆り立てる様な事ばかりして、キレた。」
普通なら「変なやつ」で終わる(実際こういう事言って離れてく友達も多かったみたい)ところが、カナは更にグイグイと質問した。
私もオカルト好きだったので楽しくなって「そんなのいるなら見てみたい」と冗談で言ったら「見てみる?」と返された。
カナも私も「見れるのっ?!」と驚き「見たいっ」と即答した。
その後幽霊を見るためのレクチャーを受けた。
といっても、すごい簡単な事だった。
メコの手を繋いで、目をつむる。
それだけ。
メコが念というか気というか、そんな様な力を手に込めて「いいよ。」と言われたら目を開ける。
そしたらメコが見ている幽霊が見えるということ。
はてさて目を開けると確かにそこに白い男の子がいた。白と黒だけ。まるでモノクロ写真の中から飛び出した様な男の子が、どう考えてもあり得ない間接の動きでぐちゃぐちゃ動いてた。
半信半疑だった私はビビりな事もあって、驚いて変な声だしてメコの手を離してしまった。
その瞬間幽霊は見えなくなった。
カナは未だにキラキラした澄んだ瞳でキャーキャー言いながら幽霊を見詰めてる。
気になってもう一度メコの手を握ったけど、もう見えなかった。
一度手を離すと見えなくなるみたい。
話しがそれたけど、そういう力がメコにはあるってこと。
その力を使って今の幽霊を見てみる事にした。
ただ、見る前にメコは言った。
「今回のはちょっとトラウマになるかも…」
多少不安になったけどカナの好奇心は止まらない。早くっと急かせて儀式に入る。
目を開けるとそこには集会所の上で四つん這いになってる女の人がいた。
しかもでっかい
三メートルはある。
良く良く見ると足が腕。長く細い腕が肩と股下から伸びている。
まるでクモみたい…
気持ち悪いフォルムだったけど、それ以上にソイツの行動が気持ち悪かった。
ニヤニヤして時に奇声を発しながら首をグルグル360度でたらめに回転させてる。
その度に長い髪の毛が降り乱れ、左右で大きさが全く違う白目がこちらを見つめる。
正直今すぐ逃げたかったけど、メコの手を離すと見えなくなるので、必死で堪えた。
前の経験で、すぐソコに見える幽霊が、いきなり見えなくなる方が私には恐怖だった。
見えないモノが、確実に自分の近くにいる。その恐怖は思い出したくもない。
だからといって直視は出来ない。
したくもない。
心臓バクバクでとにかくメコの手を強く強く握る。
その時メコが叫んだ。
「逃げるよ!!喰われるっ!!!」
…喰われる??ぽかーとアホな顔したカナと、涙で不細工になってる私をメコがグイっと引っ張る。
同時に私達は全力で逃げた。
メコの顔が焦っていた。
額からは大粒の汗が吹き出ている。
私は確かいっそ気絶したいとか本気で思っていた。
カナは走りながらキャーキャー叫んでる。
公園の入り口まで走った後で、暫し間を開けメコは呼吸を整えてから説明してくれた。
「あのね、こっちが見えてるって事は、向こうも私達の事は、見えてるって事なの。それで、二人は私と違って霊感ないでしょ?それってすごく幽霊に対して無防備な事なの。…だから、えっと、言い方アレなんだかど…ああいう化け物級からしたら…目の前にいきなり現れたー…」
『ただのエサなの。』
メコが言うには、アイツみたいに人間の形が崩れたやつは、既に未練とか恨みとかは忘れてただただ危害を加えてしまう悪霊らしい。
神様に近い。
そういうやつを『魂飢』って言うんだって、コンキ。
知能は獣みたいなもんだし、テリトリーから急いで逃げれば八割方安全らしい。
ただし逃げなかった場合は魂を喰われるんだって、。
その辺の話しはまた今度詳しく話すね。
とにかく私達は逃げ切れた訳で。
涙で不細工になった私。
「ヤバかったねー、めちゃめちゃ怖かったよ、ホントっ」
と未だ興奮が抑え切れてないキラキラした澄んだ瞳のカナ
どれだけメンタル強いんだろう…
そしてそんなカナを呆れた顔で見る疲れきってるメコ。
「今回のはヤバかった…私霊感あるけど除霊とか無理だから。あんなのに捕まったら最後だったよ。」
…え?そうなの?
なんかこう戦ったり、カッコいい呪文みたいなので除霊とか出来ないの…?
「私がそんな万能ならとっくに稼いでるよ。」だとさ。
「じゃぁ、あの化け物はどうするの?あのままほっといたら危なくない?」
カナがまたも好奇心全快で聞く
「あれは今さら無理だよ。強すぎるもん。でもいつもいる訳じゃないよ、今日は運良く(悪く)いたけど。それに本当に危ないのはアイツじゃなくて…」
「ええっ!まだアレよりヤバいのいんのっ!!?」
メコの話を遮ってカナがでかい声でリアクションとる。
いつものあの顔だ。
メコはカナスイッチをオンにするのが上手い。
私にはもうどうでも良かった。
そんなラスボスみたいのが他にいようがいまいが知ったこっちゃないよ。
早く帰ろうよ、あ、私家近いし一人で帰ろうかな…お風呂入って録画してたドラマ見て、コーラ飲みながらポテチだなっ。彼氏欲しいなぁ…
とか現実逃避をしてた。
でもメコの次の言葉で私はまた恐怖のドン底に突き落とされる
「本当に危ないのは、あの建物の中にいたヤツだよ。二人はあの大きいのに集中してて気づかなかったと思うけど、建物の中から窓越しにずっと睨んでたんだよ。すごい恨みが隠ってた。」
「…どんなヤツ??細かく教えてよっ」
カナ…何故それほどまで…
「えっと、顔はドロドロに溶けちゃってるから性別分からなくて、服装は黒い布切れまいてて、…ずっとブツブツ言ってる。話に反応したりちょっかいだしたら、確実にやられる。きっとあの大きい化け物の、飼い主みたいな立場だと思う、テリトリーから簡単に出てたし。」
「うげっ、あんなん飼ってるとかマジあり得ないね…少し位見たかったわ。」
あはは、と可愛く笑うカナ。
また泣き出す私。
良かった、見なくて…
その時メコが言った。
「…見てみる?さっきから私の目の前にずっと立ってるけど…着いてきちゃったみたい、お父さんにどうにかしてもらわなきゃ…怒られちゃう……」
ツイテキチャッタ…
私はその瞬間一人でもうダッシュで逃げた。
家に着いてお母さんの部屋に駆け込んで…寝た。夢だった。って事にした。
次の日メコがゴメンと謝ってきたから、私も一人で逃げてゴメンと謝った。
カナは私の姿勢のいい走り方が面白かったと笑ってた。
メコはお父さんにこっぴどく叱られて、朝がくるまでお祓いしてもらった結果、
幽霊はその間、別に何ともありませんが、何してんの?って感じだったらしいけど、とりあえず建物に帰って頂いた様だ。
これが初めての三人の体験だった。
現在私は26になった。
まだまだたくさんの体験があるから、また気が向いたら書こうと思う。
それじゃまた。
作者ひなどり