中編3
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愛犬パルと海岸で

昔飼っていた犬のパル(♀)の事をふと思い出した。

俺が10歳のときに近所から貰い受けた白の雑種犬で、親と一緒に見に行った時に何匹かいた子犬の中で1匹だけ耳の先がペコリと垂れていたのが印象的だった。

どうしてもこの子犬が良いと駄々を捏ねた覚えがある。

もう10年以上前にパルが14歳で亡くなるまで色々と不思議な体験をしてきた。暇な人と愛犬家は読んでほしい。

 

俺が高1の時の話なのでパルは6歳くらいだったろうか。

夜中に夢中でゲームをしていると既に外が明るくなってきたのに気が付いた。

今から寝てしまうと俺の役割となっているパルの朝散歩をサボってしまうことは間違い無い。

まだ眠気はさほど無かったので、寝る前にパルを散歩に連れていってやろうと思った。

普段は近場ばかりなので、休日の今日は思い切り遊ばせてやろうとチャリの籠にパルを乗せて海まで出掛けた。

 

20分ほどで海岸に着き、リードを外すとパルは大はしゃぎで砂浜を駆け回り始めた。

俺はなんとなく波打ち際をブラブラと歩いていたのだが、50mほど先にある岩場に人がいるのにふと気が付いた。

そこではよく釣り人を見かけるので人がいることは別に不思議ではない。

ただ足場が悪いところなので釣り人は大体いかにもといった格好のオッサンしかいないのが普通だ。

だが遠目にもその人影はスーツ姿としか思えない男性で、場違い感がハンパない。

なんとなく変な感じがするので、俺はそれ以上近づくのは止めて自転車を停めた元の場所の方向に引き返し始めた。

 

しばらく歩いていると遠くにいたパルがこちらに気が付いたのか駆け寄ってくるのが見える。

俺は歩みを止め中腰になり、早くこっちまで来いと両手を横に広げてアピール。

パルは懸命にまっすぐこちらへ向かってくる。愛いヤツめ。

 

しかし後10mほどの距離に近づいてきてもヤツは弾丸のような速度を緩めない。

あれっ?と思った瞬間、駆け寄りながらパルが猛烈に吠え出した。そして俺の広げた手をそのまま掻い潜る。

思わずツッコミを入れそうになりながら背後に振り向いた瞬間、俺の目に映ったのは数m先に立っているスーツ姿の男と、跳躍しまさに飛びかからんとするパルの姿だった。

ところがパルが男に触れるか触れないかの瞬間、男の姿は歪む様にして掻き消えていた。

パルは勢い余って着地に失敗しゴロゴロと砂まみれになった。

 

俺は頭の中が「!?!?!?」となり固まってしまっていたが、立ち上がったパルは海の方角を向いて再び吠え出した。

視線を向けると先程の男が立っている。年齢は40代くらいだろうか、濃いグレーのスーツ姿で病的に痩せた感じだった。

男の位置は俺のいる波打ち際からそれなりに沖に出たところで、荒れているというほどではないがそれなりに波もあるはずなのだが微動だにしていない。

人間ではないのだと俺はやっと気が付いた。

 

男は盛んに吠え立てるパルを遠巻きに見詰めていたが、一際大きい波が男を覆い隠した次の瞬間には消えていた。

まだ別の場所にいるのではないかとビビリながら辺りを見回すが男の姿は無い。

 

いつのまにか吠えるのを止めたパルが俺の足に前脚を挙げてじゃれ付いてきた。

そうか、パルお前が助けてくれたんだな。

俺は今更襲ってきた恐怖感に身震いしながらも、この素晴らしい主人思いの忠犬を抱きしめずにはいられなかった。

 

興奮のあまりパルを抱きながら砂の上を転がっていた俺に思い切り波がかぶってきた。

ヤツは主人を置いて自分だけ逃げ出しやがった。

ちょっと悲しかった。

Concrete
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