嫁さんが死んだ。
車に跳ねられ即死だった。
警察や葬儀や子供達の面倒、子供達のこれからを考えて自分の実家への引っ越し
悲しむ隙も無く慌ただしく日々は過ぎた
まるで夢みたいだ
引っ越しの為有給を使い1人で家族4人で暮らしたアパートに戻る
玄関を開けたらあいつがいるように見えた
玄関にはブーツ
いつも仕事から帰れば
おかえりー!
と子供達とバタバタ走って来た。
リビングに入る
あいつの香水の香りがまだ残ってる。
俺が好きだって言って6年間変わらない香水。
リビングから見えるキッチンでいつも洗い物をして微妙な料理を作ってた
呼んだら
振り向いて
待っててねーって笑う姿が浮かぶ
寝室に入る
クローゼットにあふれるあいつの洋服
一生のお願い!
ってよく言いながら買わされた洋服
今度のクリスマス着るんだ~
って子供みたいに笑ってた一度も着てない白のワンピース
少しだらしないあいつ
化粧品がドレッサーに転がってる
…今にも帰って来そうだ
段ボールを用意して嫁さんの洋服をしまおうとする
涙が出た
しまえない
思い出に出来ない
無理なんだ
まだあいつが生きてた場所はこんなに生々しく残ってる
このままにしてたら帰ってくんじゃないか?
大根安かった~!とかニコニコしながら帰ってくんじゃないか?
有り得ないとわかりながら期待して
35年間生きて来てこれ以上ない位泣いた
クローゼットを見たら嫁さんの育児日記と家計簿と紙袋が隅っこにあった
育児日記を開いてみる
俺は読みながらまた泣いた
●月×日
たっちゃんは今日も帰って来ない。寂しいなぁ。
これは上の娘を妊娠中の時だ。まだ独身気分が抜けない俺は生まれたら遊べないからと遊び回ってた。
…今考えたら嫁さんはまだ20にも満たない年齢で遊たかっただろうに、一人きりでどんだけ心細い思いをしただろう。
●月×日
たっちゃんは競馬場!勝ったらなんか買ってくれるかな。智香が今日初めてつかまり立ちをした!ママ感動!今日は記念日だな(笑)
俺はパチンコも競輪も競馬もやった。
ほとんど自分の為に時間を使った。
●月×日
たっちゃんは好きな人がいるらしい。たっちゃんは帰って来ない。笑って見送って玄関が閉まって泣いた。こんなでもそばにいたいあたしはだめ女だな
息を呑んだ
俺は一時期
仕事と嘘吐き出会い系にハマってた
風俗も行ったし彼女も作った
嫁さんは変わらないままだけど俺は変わっていった
育児への協力も家事への協力も外ではしたがうちではしなかった
こんなに強い愛情を貰ってるのに気付かないフリをして
彼女には嫁さんの悪口を言いながら嫁さんの用意してくれた洋服を着てデートした
●月×日
今日赤ちゃんが出来てるのがわかった。たっちゃんはとてもとても喜んでた。たっちゃんは誰が好きなの?たっちゃんは他の人に触れた手で私に触れる。私も同じことをしたら楽になるのかな。死にたい
育児日記はさながら俺への思いを書いた日記になっていた。
怒りよりも悲しみ、寂しいと何度も書いてあった。
最後に
12月20日
たっちゃんと7回目のクリスマスだ!
今年は欲しがっていたWii買っちゃった。へそくりで(笑)
あたしはなんだかんだ言ってたっちゃんが大好きで大切でそれは何かあっても変えられない。
智香やりくや私をみてたっちゃんは幸せそうに笑う。色々あったしこれからも色々あるけど後にも先にもたっちゃん以上に大切な人はいないだろーなぁ。智香もりくも素直に育ってくれて嬉しい!贅沢を言えば30までにウエディングドレス着たい~!そして老後はいけなかった新婚旅行の代わりに2人でのんびり温泉行きたいな。絶対この日記老後にたっちゃんに見せつけてやる。頭上がらなくなるね笑
クリスマスはあのワンピ着てプレゼント渡して家族4人でゆったり過ごしたい。これからもずっとみんな仲良く元気に暮らせますように。
紙袋にはプレゼント。智香やりくに買った物もあった。
日記が濡れてぐしゃぐしゃだ。
俺は後悔した。
ウエディングドレス着せてやれば良かった。
いつもありがとうって言えば良かった
愛してるって飽きるほど言ってやれば良かった
もっともっとそばにいてやれば良かった
話を聞いてやれば良かった
大切にされすぎて大切にすることすら忘れて今更泣く俺はなんてカッコ悪いんだろう
それでも涙が止まらない
失って気付く事もあるなんて言葉今はくそくらえだ
どんなことでもするから戻って来て欲しい
多香子…
お前幸せだったか?
雲の上でフラフラニコニコ歩いていそうだな
落っこちそうになって
あ~びっくりした
とか言ってそうだな
お前を幸せに出来なかったけど子供達は絶対に幸せにするからな
安心してみてくれよ
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話