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中編5
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まさか

本文に入る前にひとつお話を。長くなるので、飛ばしていただいてもいいです。

昔テレビで見た実験の内容。

A、Bのグループに分かれてある写真を見てもらいます。写真はどこにでもある渓流の写真。

それぞれのグループに数分見てもらい、感想を言ってもらいます。

Aグループの人は「綺麗だ」「落ち着く感じの場所だ」などの感想が多数を占めています。

Bグループの方には見る前に次のような説明が付け加えられています。

「この場所は地元では有名な心霊スポットです」

するとどうでしょう。

Bグループの人たちは口々に「あそこの岩に人の顔の様なものが見える」「あそこに人影のようなものが見える」などの感想が多くあげられました。

つまり、人はその場所がいわく付である、霊が出るという情報を聞くと、そのような場所であることを認識して、ないものがあるように見えてしまったり、ある形を人などのものに置き換えてみてしまうのです。

これを踏まえて本文をお読みください。

その日も私は友人A、B、Cと飲んでいました。三人とは古くからの友人で、いつもバカばかりして楽しんでいました。

季節は8月で、テレビでは季節柄心霊特集のようなものもやっていました。

私たちは4人とも、そのような類の話はまったく信じてはいませんでした。

案の定、テレビを見ながら「そんなわけね~よな」「うそだよ、こんなの」などと話していました。

テレビが終わったあと、Aが言いました。

「なあ、あそこ行ってみようぜ」

「あそこ」とは地元では有名な廃病院で、友達の間では幽霊を見たという話が多い場所でした。

酒も入っていたこともあり、みなその話にのり、行くことにしました。

10分ほどでその病院に着きました。

霊を信じていない4人でしたが、さすがに夜の廃病院。雰囲気は出ていてなかなか怖いものがありました。

私たちは若干怖気づいていましたが、中でも一番一番のりきだったAは「よっしゃ、じゃあ探検に出発だ!」と子供のようにノリノリで病院に入っていきました。

Aのノリに負け、私たちも病院に入っていきます。

病院は3階立ての少しこじんまりとした病院でした。中でも一番出るというのが2階の手術室だとの噂です。

4人は手術室をめざして進みました。

地元でも有名な心霊スポットであるためか、中には他にもきたであろう人たちが捨てていったゴミなどが散乱しており、それも怖さを引き立たせる要因となっていました。

数分ほど歩いて、例の手術室につきました。

「よし、入るか!」

Aを先頭にB、私、Cの順に入りました。

中には当時使っていたと思われる道具がそのまま放置されていました。

「なかなか雰囲気あるな~」

Aはとても楽しいそうに中を物色していました。私たちもAにつられて、放置されていた道具でふざけたり、手術台にのって手術ごっこのようなものをして遊んでいました。

30分ぐらい経ったでしょうか。さすがにみな飽きてきたようで「そろそろ帰ろうか」などと話していました。

「やっぱ何も出なかったな」

「そうだな、みんな見たって何みたんだろうな」

「そうそう。みんな何びびってんだろうな」

そんな会話をしながら廊下を歩いていました。

そのときふと最後を歩いていたCが驚いた声をあげました。

何事かと一瞬あせった3人はCのほうを見ます。

「わりい、鏡に映った自分見てびびっちゃった」

Cは4人の中では怖がりなほうだったため自分の姿が写った鏡を見て驚いたようでした。

「何だよ、脅かすなよ」

「ったく、お前はホントびびりなんだから」

「ほんとだよ、これぐらいでびび・・・」

突然Aが黙りました。その顔はさっきまでのAとは違い、何かすさまじいものを見ているような顔でした。

「どうしたんだよ、A」

Bが話しかけますが、Aは黙ったままです。

BはAが見ている方向を見ました。Aが見てしまったものをBも見てしまったようで「マジかよ・・・」と小声で言いました。

私もゆっくりとAが見ている方向に目を向けます。

Aが見ていたのは右手側にあった病室でした。

そこには病衣を着た、50歳くらいの男性がぽつんと立っていました。

しかし、「普通」の人ではありませんでした。

彼は上半身の病衣を血にそめてとても恨めしそうな顔でこちらを見ていました。

今まで信じていませんでした。しかし、まさか自分たちが「それ」を見てしまうとは思いませんでした。

人間、恐怖を感じるとその場からは動けなくなるようで、私たちはそれから目が離せずにその場に立ちつくしていました。

最後にいたCもそれを見たようでした。Cは「うわ~!」と大声を出し、一目散に出入り口まで走っていきました。

Cの声を聞いてはっとした私たちもダッシュで出入り口まで走っていきました。

そのときはもう無我夢中でした。

走っている間、私は「絶対違う。きっと見間違いだ!」「霊なんているわけがないんだ!」などと考えていました。

さっき見たものが霊だと信じたくなかったのです。

しかし、その思いも長くは続きませんでした。

出入り口から出る瞬間に、私の耳元でボイスチェンジャーで変えたような低いこもった声がしました。

「ニガサナイヨ・・・」

後ろを振り向くと、今度は先ほどの男の人ではなく、看護師のような格好をした女の人が立っていました。こちらを睨む様な恐ろしい形相でした。

このときばかりは、私は霊を見てしまったと思いました。そして、この場所に来たことを本当に後悔しました。

病院を出た私たちは一目散に家に帰りました。

そして、このことは4人だけの秘密にしようということにしました。

その後数日ほど、このときの話をしていましたが、4人とも恐ろしい思いをしたこともあり、このことは仲間内でも話さなくなりました。

何年かして久しぶりに会った私たちは、久しぶりにこのことを話しました。

時間が経っていることもあり、みな酒のつまみとして笑いながら話していました。

しかし、私は笑えませんでした。

なぜなら

最後に聞いた声や女の人を他の3人は見ていなかったのです。

3人には「きっと勘違いだろう」と流されましたが、私にはそうは思えませんでした。

今も霊の存在は信じていません。いや、正確には信じたくないのかもしれません。

私にとってはそれほどの衝撃でした。今でも思い出すと恐ろしく、そして不思議な体験でした。

長々と書いてしまいましたが、読んでいただければ嬉しいです。長文失礼しました。

これで終わりです。

怖い話投稿:ホラーテラー つちのこさん  

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