これは、私が学生の時に体験した話です。
非常に怖い体験だったので、ここでお話します。
私は、とある地方の美容専門学校へ通っておりました。
当時はカリスマ美容師ブームの到来により、美容師を目指す学生が急増しました。
皆、大きな夢を抱きながら、日夜カットなどの技術鍛錬に精を出したものです。
美容学校ではカット練習に必要な『ウィッグ』といわれる、練習用頭部を使用します。
そうです、よく見かけるあの生首です。
多くのカットを練習するために、結構な量のウィッグを購入しなくてはなりませんので、
客観的にその物を見ると、少し恐ろしさを感じ、家に練習のために持ち帰った際には、
夜中に見ると、人形とわかっていてもドキっとしたものです。
ただ、私が購入したウィッグの中に、ひとつだけ少しおかしなものがありました。
毛髪は、だいたいのウィッグは人毛で出来ています。
ほとんどがストレートヘアですが、それは、一箇所だけ少しちぢれていました。
そして、そのウィッグでカットの練習をしていると、フっと、なにか不快な臭さを感じました。
人毛なので、まあ、なにか臭いがしてもおかしくはないか、と、あまり気にしないようにしていました。
その年の夏、初めてのコンクールがあり、私はとても張り切っていました。友人達も技術を磨くために
夜遅くまで練習していました。
私は学校に残るよりも、アパートで落ち着いて練習したい方だったので、学校にはあまり残らずに
アパートにウィッグを持ち帰って練習していました。
また、同じ美容学校に通っていた彼氏がおり、半同棲状態で、ほぼ一日中一緒に生活していました。
なので、彼氏と一緒に練習したい、というのもひとつの理由でした。
ある日、いつもどうり学校から帰宅し、アパートにカット練習のためウィッグを持ち帰りました。
彼氏は飲み会があり、帰りは遅くなるとの事でした。
なので、夕食後、カット練習をゆっくりしようとウィッグを台にセットし、部屋の準備をしました。
ふっと、あの嫌な臭いがしました。
(あー、このウィッグかあ・・・しまったなあ)
そう、あのちぢれた毛髪のウィッグでした。それまで私はなんとなくこのウィッグが使う気になれず、
持ち帰らないようにしていたのです。
ですが、たまたまアパートに置いてあるウィッグはカット済みのやつか、彼氏のものしかなく、
仕方なくそのウィッグで練習していました。
どのくらい時間がたったのか、忘れるほど集中してしまい、気づけば深夜1時でした。
このくらいにしておこう、と、作業を中断し、お風呂に入り床につきました。
ガチャガチャッ
ギイー・・・
玄関の扉が開く音で目が覚めました。時刻は3時を回っていました。
(彼が帰ってきたのかな)
そう思い、ふと隣に目をやると、なんと彼氏がすでに帰宅し眠っていたのです。
(え!!泥棒!?)
そう思った瞬間、突然身体が動かなくなりました。
金縛りです。
同時にふうっと、悪臭が部屋に充満し始めました。
あのウィッグの臭いです。
ただ、その100倍は臭い。
よくみなさまの体験談にありますが、身体は動かないのですが、眼だけは見事に動くのです。
はやく解けて・・・!
必死にもがきますが、まったく動きません。
と、その時、部屋の入り口に丸い物が浮いているのに気がつきました。
はじめは眼の錯覚かと思いましたが、ようやく眼が暗闇に慣れ始め、その丸い物が何か
わかりました。
あの臭いウィッグでした。
一気に脂汗が噴き出しました。心臓も痛いくらい跳ね上がっていました。
そのウィッグは、先ほど練習していたときとは明らかに違うシルエットをあらわしていました。
髪はボサボサで表情はよくわかりません。部屋が暗いため、顔も真っ黒でした。
その生首は、
ゆらあ
ゆらあ
と、不気味に揺れだし、
ゆっくりと部屋の中へ入ってきたのです。
(やばい!やばい!)
彼氏を必死に起こそうと声を出しますが、声にならず、うめき声のようにしか発することができません。
生首はゆっくりと部屋の角まで移動すると、よくわからない言葉を発し、その声は世に言うデスボイス
というものに近かったように思います。
不気味に揺れながら、しばらく隅に留まると、また壁づたいにゆっくり移動し始めます。
途中本棚があったのですが、それが邪魔で進めないのか、しばらくそこに留まり、回転し始めました。
気持ちが悪すぎて、どうにかなりそうでした。
部屋の四方を壁づたいにゆらゆらと移動し、隅に来ると止まり回転、意味不明な言葉をぼそぼそと発する。
それを繰り返し、ついに私の頭側の壁を移動し始めました。
近くに来ると、ひどい悪臭がたちこめ、吐きたくても吐けない、そんな状態でした。
そして、ついに私のすぐ横にきてしまったのです。
少しずつ
少しずつ
そして、見えてしまったのです。
その生首は、部屋が暗くて黒く見えたのではなく、
真っ黒に焼け焦げていたのです。
髪の毛も全てがちぢれ、腐敗臭と焼け焦げた臭いが、意味のわからない言葉を発しながら
私の顔のすぐ近くまで近づいてきたのです。
その時ようやく金縛りが解け、ぱっと生首が消えました。
同時に悪臭もなくなり、私は泣き喚きながら彼氏を起こし、
その日は朝まで一緒に起きていてもらいました。
そしてウィッグはその日練習したままの形で部屋の隅に落ちていました。
それ以来、とてもそのウィッグを使う事はできず、学校へ置いたまま卒業してしまいました。
ウィッグの髪はモンゴルかどこかの方の髪を使っているそうです。
よくわからない言葉は英語だったのか、
焼け焦げた顔、ちぢれた髪の毛は、焼け死んだ方の残った髪を
少しでも使ったものなのか、
真相はわかりません。
そして、いまもあのウィッグは学校にあるのかも、もはや知りたくもありません・・・・
作者ゆうあ
初めての投稿です。少々誤字脱字があるかもしれませんが、お許しください。
文書力もないので、怖さが伝わってくれれば幸いです。