私の友人の話なんですが、ここでは仮にヨシヒロとしておきましょうか。
この話を聞いたのは、彼がある事故に遭って半年が過ぎた頃で、その頃はもう雪が降っていました。
ある事故というのは、ヨシヒロの趣味のバイクのせいだったんです。
彼は、春が過ぎた5月か6月の少し暖かくなってきた頃に峠だとか、酷道だとかでレーサー気分でバイクをかっ飛ばすのが趣味というか、もう無我夢中でたのしんでました。
それが、今回は運転を誤ったのか、ガードレールに激突したらしいんです。生きているのも奇跡と言われるくらいの重傷でした。
手術、リハビリを繰り返して、半年経ってやっと退院したんです。
退院が決まった時、ヨシヒロはいまだに生きていられるのが信じられないとばかり言ってました。
退院して2日経った日曜日、彼は私の家に訪れて来たんです。
「おい!いるか?はなしたいことがあるんだけど」
扉を開けると、ヨシヒロがスーツを着て立っていました。
「なんだよお前、正装してどうしたんだよ?」
「なぁ、俺、やっぱり死ぬんだ。生きてる実感なんて事故のあと全くなかったやっぱり俺死ぬんだ!!!」
いきなり大声でまくしたてられてビックリしましたが、彼をなだめて
「どうしたんだよ、仕事なんてまた探せばいいだろ」
彼は、入院中に理由はわからないけれども、辞職していたんです。
「違うんだよ!人形なんだよ!なあ、俺の話、聞いてくれよ」
彼を部屋に招いて話しを聞きました。
「俺さ、一年前に彼女から和人形を預かったんだ。」
彼の彼女を仮にナオミとしておきましょうか。ナオミも一年前に、ヨシヒロが事故を起こした同じ月に事故に遭っていて、幸いにも目立った外傷はなかった。が、その事故で首を痛め、慢性頭痛に苦しんでいました。
ヨシヒロが懸命にサポートしたおかげか、今では通院しながらも、普通の生活を送れている。
「人形‥それがどうしたんだよ、なんで死ぬなんていうんだ大体お前、ナオミさんどうするんだ」
すると、彼は相変わらず切羽詰まった表情で
「今は人形の話だけさせてくれ。この人形はな、ナオミのお袋が人形師に作らせた立派なものなんだ。だけど、この人形が作られた後、ナオミのお袋は死んだ。お前も知ってるだろ」
ナオミの母親は2年前に事故に遭って死んでいる。
「ナオミから聞いたんだけどさ、ナオミのお袋、この人形を人形師から受け取った帰りに交通事故に遭ってるんだ。」
「それだけでもおかしかったんだよ!クソ!はやくなんとかしとけばよかったんだ」
「預かった後、本当に立派な和人形だからさ、リビングに置いてたんだけどさ、2ヶ月くらい経って異常が起きたんだよ」
「あの人形から腐った匂いがするんだ。すげえ綺麗な和人形だぞ。信じられなかったよ」
「それだけじゃなかった。夜中になると部屋から足音が聞こえるんだよ。明らかにおかしいだろ?」
「それでな、この人形、気味悪いから押入れに突っ込んだんだよ。そしたら、夜中に足音が聞こえるんだ」
「それも押入れの中からゴソゴソカタカタカタ鳴るんだよ」「もう耐えれなくなって、次の日の廃品回収で捨てたんだ」
「なのに、捨てたのに今あるんだよ。なんでかわかるか?一週間後、インターホンが鳴って外に出たらさ、見たことのないようなおっさんがいて、この人形落ちてましたよって渡して帰って行ったんだよ」
「あの時はマジで怖かった。あのおっさんの歩き方もさ、スススススって感じだったんだぜ」
「でも手元に置きたくないだろ?絶対おかしいから。それでさ、俺がよく行く峠に深い谷が見えるカーブがあるんだ。」
「それで、俺が事故に遭った日の夜、俺は二度と這い上がれないようなその深い深い谷底に人形を突き落としてやろうと思って行ったんだよ」
「何100回も通ったあの峠のカーブさ、人形を放ったんだけどさ、手にしがみついててさ、」
「その時、人形の目が凄い赤かったんだ。死んだと思ったよ。ミスってそのまま谷底に俺が落とされるかと思った。」
「病院で気がついた時、人形もなくて、警察に人形のこと聞いても、そんなものなかったよって言ってくれてホッとしたんだけどさ」
「夢に出るんだ。人形の顔がさ。毎晩うなされて、俺が生きてる実感なんてないっていってたのはそれのせいさ」
「それで、退院して家に帰ってみたらやっぱり人形がいたんだよな」
「だからどうすることもできないだろ?たぶんこれ、人に渡さないと捨てられないんだよな?」
長い話のあと、ヨシヒロは人形をコタツの上に置いた。無残な姿のその和人形。確かに見ているだけで圧倒されそうな気分だった。
ヨシヒロには悪いが、私は断った。私には力になれないと拒否した。ヨシヒロを殴った。あいつは泣きながら、笑いながら出て行った。その後、ヨシヒロとは連絡は取れない状態です。
ヨシヒロはその後、人形を握りしめたまま亡くなっていました。あの峠の桜の木にぶら下がって。
自殺したのでしょう。半年が経った今思い返せば、あの時、人形をうけとっていても何も変わらなかったのに、友人、いや、仲間をうしなうことはなかったのにと後悔しているよ。
ヨシヒロはそのあと死んだ。ヨシヒロが握りしめていたその人形は警察が持って行ってしまった。
ヨシヒロの死亡を聞いてショックだったのか、ナオミも死んだ。
ナオミの死因については不自然なことが多すぎたためか、警察も駆けつけたらしい。
私はヨシヒロの葬式には出席できなかった。が、ナオミの葬式には出席した。警察からあの人形を渡されたからだ。 ヨシヒロの親族が受け取りを拒否したらしい。まぁ、あんな和人形をてわたされたら誰でも拒否するだろうな。
ナオミの葬式のあと、私は親族の方にナオミの母のことについて聞いた。一番驚かされたのが、ナオミもナオミの母もヨシヒロも同じ月に死んだということだった。人形については知らないと親族の方は言った。このままだと私も6ヶ月で死ぬ。私は人形師を探した。心当たりがあると言ってくれたのは、ナオミの祖母だった。私は人形師にすべてを話した。人形師は重い口を開けた。「私は、あの人の気持ちに負けた。そして、やってはいけないことをやってしまったんだよ」
「やってはいけないこと、ってなんですか?」
「死んだ人間の念を人形に入れさせることだよ。とんでもないことをしたよ」
「死んだ人形の念を入れる?」
「あの奥さんの死んだ夫の念を入れてくれと懇願されたのです。」
「では、あの人形はその方自身?」
「そうではない。人形は人形で、人の形をした生き写しであって、その方自身が入ったわけではない。しかし、その中途半端な状態がやはり悪い方向に働いてしまった。」
「魂を吸う人形になったのです」
わたしは逃げられないのか、という問いにたいして彼は、犠牲者があなたを道連れにしなければ、まず大丈夫だと答えてくれた。
人形は神社に納めることにした。これで人形が帰ってこなければ良かったのだが、
今夜、とうとう戻ってきてしまった
6月、あぁ、寛人!おまえの一周忌だな!!
作者doron
駄文で申し訳ありません