甥っ子がまだ3~4歳だった時の事。
妹(甥っ子の母親)の仕事が遅くなった為、
私が車で迎えに行くことになった。
甥っ子は車が大好きで、
車で出掛けるときは必ず一緒に行きたがる。
この日も母親に早く会いたいのもあり、
一緒に行くと言いはった。
本当はもう寝かさなきゃ行けないんだけどなぁ…
いつもならば寝ている時間だが、
ドライブしているうちに寝るかも知れない。
そう思い、助手席にチャイルドシートをのせて
二人で迎えに行くことにした。
「チットーチットーチットーチットー♪」
車に乗れて甥っ子はご機嫌。
ウィンカーの音が甥っ子には
チットーチットーと聞こえるらしく、
曲がる度に歌うように言っている。
「じゃんてんしよ~」
「じゃんけん?カ行うまく言えないんかいな?」
「たぎょー?」
「いやいや。じゃんけんね~運転中だからできないな~
あ、お歌歌おうか?アンパンマンとか!」
なんとか誤魔化して歌を一緒に歌ったりしていたら
急に甥っ子が黙り混んだ。
「R君どした~?眠くなった~?」
「ねむない…」
「あ、お歌が嫌だった?違うのにする?しりとりする?」
と、突然
「黙って!」
と、普段は舌ったらずの甥っ子が
小さい声ながらも強い口調で言った。
「ど、どうしたの?」
と助手席を見ようとしたら
「しっ!見ちゃダメ!」
そっと横目で見ると、
甥っ子は前を向いたまま真剣な顔をしている。
見たことのない様子に内心焦っている私に
甥っ子は小さい声で
「今ね、ボクの隣におじさんがいるの。
おじさんが怒ってるの」
「おじさん?隣って横?」
「ううん。窓に張り付いて怒って見てる…」
横目で見てもそこは暗闇で何も見えやしない。
けれども幼い甥っ子はカタカタ震えながら
おじさんが怒ってる
気づいてないふりして静かにしなきゃ…
と、ぶつぶつ呟いていて
異様な空気にぞっとしながらも
とにかく事故をおこさないように
息をころしながら先を急いだ。
明るい大通り近くまで来たとき
「あ!いなちゅなった!やったぁ~」
と、甥っ子は明るいトーンで言い、
背伸びをした。
その後はうってかわって歌ったり
しりとりしたがったり、気に入った車を見つけてはしゃいだり。
…一体窓に張り付いていたおじさんとはなんだったのだろうか…
そして、何に怒っていたのか?
私が音痴だったから
ということではないと思うのだが…
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作者退会会員