友人に聞いた話。
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その日は朝から雨だった。大学に向かって歩いていた友人は、傘を差しながら結構な勾配の坂を上っていた。
朝早い住宅街は人影もなく、周りにはサアアアという雨の音が静かに延々と続いていた。
ふと顔を上げると、前方の5メートルぐらい前を女性が歩いていた。
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差している赤い傘にさえぎられ後姿はほとんど見えないが、20代、ひょっとすると10代の少女かもしれなかったという。
しかし友人にとってそのことよりも目を引いたのが、女性の足から腰にかけてだった。つまり、その、、、女性のスカートがやけに短かったのである。
目の前をひらひらと舞うスカートの裾に、いけないとわかりつつもつい視線がスカートに、つまり女性のお尻の辺りに行ってしまう。
と、ふいに視線の先に真っ赤な傘が飛び込んできた。
女性が傘で友人の視線を遮ったのだ。
(やべえ、気付かれた)
慌てて友人は視線を上に上げた。
ここで友人はなんともいえない違和感を覚えたという。
女性は傘を下に下げた。つまり視線を上げた友人の視界には当然、女性の頭部なり、後姿なりが見えるはずだ。が、視線の先には上り坂の先があるばかり。
傘から上の女性が完全に消えているのだ。
(あ、あれ?)
疑問に思うまもなく、赤い傘はそのままくるくると回りながら下に下がり続け、ついに地面に到達した。と、そのまま地面に吸い込まれるように消えてしまったという。
後には女性も傘も何もなく、ただ雨の降りしきる上り坂が続くばかりだった。
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何が起きたのか理解できず、友人はその場に佇んだ。雨のサアアアアアという音だけが友人を包み込んでいた。
と、その彼の耳元で、ふいに女性の声で
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「ウフ、フウフフフフ、アハハハッハハハッハハハハハハ」
という女性の笑い声が響き渡った。
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「うわあ!」
慌てて周りを見渡したが、後ろにも前にも、人っ子一人見当たらなかった。
友人は恐怖心に襲われ、後ろも見ずに坂を駆け下りると、違うルートで大学に向かったという。
以後、その道は1人きりのときは通らなかったそうだ。
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なかなか体験した本人でないと伝わりにくい恐怖体験だが、自分はこの話をした友人を、「怪異におちょくられた男」というレアケースとして、興味深くコレクションに加えている。
作者修行者-2
お初にお目にかかります。修行者と申しますけちな怪談作家でございます。
挨拶代わりの作品をお持ちしました。
以後、お見知りおきほどを……