俺は黒沼 虎太郎。高校二年生にしてオカルト研究部(通称オカ研)部長の座に君臨する男だ。
…まあ、ただ単に先輩達が早々と引退したってだけの事だが。二年生の部員も俺を入れて四人しかいない為、廃部の危機。
それを救うは今日の新入生の部活見学。さあ、入部希望者達よ!オカ研の部室になだれ込んで来なさいっ‼
「……………。」
あれ?
「……………。」
…一人も来ない?ついでに二年の部員も来ない?
俺は部室を飛び出し、駐輪場へと走った。
案の定、帰宅寸前の部員二人発見。
「おい一ノ宮、美鷹‼てめーら何帰ろうとしとんのじゃ‼」
二人はバツが悪そうに笑い、
「バレちった?」
と舌を出した。
「バレちった?じゃねーだろ‼お前ら今日が何の日だか分かって言ってんのか?」
一ノ宮が首を傾げて言う。
「えーと…。黒沼がフラれた日?」
「あっ!だから『黒沼 虎太郎を励ます会』に友達を呼ぼうとしてるのか⁉」
美鷹が手を打って叫んだ。
「違うっ‼…てかそれでかい声で言わないで。スゲー恥ずかしい。」
俺は咳払いをし、今すぐこいつらを張り倒したい衝動を押さえてから言った。
「あのな、今日は新入生の部活見学の日なんだぞ?新入部員を沢山入れて、オカ研廃部の危機から逃れようって訳だ。」
すると、一ノ宮がふと思いついたように言った。
「待てよ…?新入部員って事は女子が入る可能性もあるって訳か?」
そしてニヤリと笑うと、何か言いたげな美鷹の肩を掴み、親指を立てて言った。
「よっしゃあ!俺の青春の為に一肌脱いでやる!さあ、部室行こうぜ!」
「よし、それでこそオカ研部員だ!(あまり純粋な動機じゃなさそうだが。)」
俺達は早速部室へ向かった。
ーーーーーーーーー
部室はやはり空。
「…やっぱり誰も来てないか。」
「お前が部室空けたからじゃね?」
「これだから黒沼は…。」
「お前らが素直にここに来りゃあ空けなかったぜ?」
「……。」
「……。」
俺はいつもの席に座り、名簿にチェックを入れた。
「あ、ミヤさんがいない。」
ミヤさんこと深山 龍はオカ研の副部長で、かなりの変わり者。何せオカ研への入部動機が「高校生が調子に乗って馬鹿な事しないように見張る為」だったから。
でも実際ミヤさんは神社の家系らしく、部活内で一目置かれている。そんな彼に尊敬と親しみを込め、「ミヤさん」と呼んでいるのだ。
「全く、ミヤさん何してんだろ。」
俺は携帯を取り出し、彼に電話をした。
sound:32
しつこくコール音を鳴らし続けること5分。
「…うるせーな。何だよ。」
「ミヤさん!やっと出てくれた、今日が何の日だか分かるか⁉」
「…暗い日曜日」
「そういうオカルトボケはいいから。新入生の部活見学だぞ!」
「それがどうした」
「部員数増やすチャンスだろうが!な、ミヤさん。今すぐ部室来てくれよー、頼む!」
「駄目だ」
「え?何で?」
「俺は今忙しいんだ。しかも、何で俺がお前らみたいなアホ高校生増やす手伝いなんかしないといけないんだ?」
あまりの言いように、俺はついカチンときてしまった。
「あー分かったよ、ミヤさんなんかに頼らなくても俺達だけで何とかするさ、とびっきりの客寄せ考えて新入生全員オカ研部員にしてやる‼」
そう言い放ち、俺は電話を切った。
「お、おい。大丈夫なのか?」
美鷹が心配そうに声をかけてくる。
「なぁに、大丈夫さ。何せオカ研の部長はこの俺だ。副部長なんかに頼るもんか!」
さて、客寄せは何にするか…。俺達は部室のオカルト資料をめくり、面白そうな情報を探した。
「狐狗狸さんはベタだし、ひとりかくれんぼは一人じゃないと出来ないし…。あ、そうだ。」
俺はふと先程のミヤさんとの会話を思い出した。
ーーーーーーーーー
『今日が何の日だか分かるか⁉』
『…暗い日曜日』
ーーーーーーーーー
「暗い日曜日!そうだ、これだ!(ミヤさんへの当て付けにもなるしな。フフフ…。)」
美鷹がキョトンとした顔でこちらを見る。
「暗い日曜日?何だそれ?」
「知らないのか?有名な自殺ソングだよ。昔ある音楽家が作り、自身も自殺したという噂の。聴くと自殺したくなるらしいぜ。」
一ノ宮が資料をまとめながら言った。
それを聞いて美鷹が眉を顰める。
「じゃあ、今日の議題はそれか?まさか聴いてみるとか言わないよな?」
俺は未だにこの部を理解していないらしい美鷹に言った。
「聴くに決まってんだろ!気になる事は試してみる!それが我がオカルト研究部のモットーだろ?」
「そ、それはそうだけど…。そうだ、音源は?自殺ソングなんて噂されてる曲の音源なんて出回ってないだろ?」
「いや、動画の投稿サイトとか探すと出てくるぞ。」
「一ノ宮ぁ、余計な事言わなくていいから…。」
俺は部室を片付け、立ち上がった。
「よし!そうと決まれば即実行!呼び込みするぞ!」
ーーーーーーーーー
「オカルト研究部、今日の議題は『自殺ソング、暗い日曜日の真相を暴く‼』!是非見にきてくださーい!」
「特に女子ー!」
煩悩丸出しの一ノ宮を美鷹がたしなめる。
「一ノ宮!…全く、どうなっても知らないからな!オカルト研究部、ちょっと覗いてみませんかー?」
通りすがりの一年生が次々と足を止める。
「暗い日曜日だって?そういや都市伝説にあったな。」
「ちょっと行ってみない?」
「帰ってもどうせ暇だし。」
「見るだけ見てみよう!」
一年生は思ったより多く集まった。
「へぇ、割と集まるもんだな。」
「女子もいるな、よしよし。」
「一ノ宮…。」
俺は部室の中央に立ち、一年を注目させた。
「お集まりの皆さん、今日はオカルト研究部の見学に来て下さり、誠にありがとうございます。本日の議題は、『自殺ソング、暗い日曜日の真相を暴く‼』。最後までごゆっくりお楽しみください!」
一年生から拍手が起こる。
「とにかくまずは聴いてみましょう。あ、聴きたくない方には耳栓をお配りしますので、こちらへどうぞ。」
一年生女子の殆どが耳栓を貰いに来た。貰いに来なかったのは、一人の黒髪セミロングの女の子だけだった。
「君は耳栓いらないの?」
念の為聞いたが、その子は首を横に振るばかりだった。すると後ろから声がかかった。
「あの、俺にも耳栓ください。」
「はい、どうぞ…って美鷹!お前オカ研部員だろうが!聴け!」
「チッ、バレたか。」
美鷹は渋々席に戻った。
「それでは流します。一ノ宮、携帯貸せ。」
俺は一ノ宮の携帯を借りると、動画投稿サイトにアクセスし、暗い日曜日を検索した。
出てきた画像の一つを選び、準備は万端。
「それでは流します。3、2、1、キュー!」
物悲しい旋律が流れ始めた。
(なるほどー、暗いな。でも自殺したくなる程じゃないかな。)
曲が終わる。部室内が張り詰めた空気になっていた。耳栓を回収しながら、俺はふざけた調子で声をかけた。
「どうですかー、自殺したくなった方いらっしゃいますかー?」
一年生から笑いが起こり、その場の雰囲気が少し和んだ。
「どうやら暗い日曜日の噂はデマだったようですね。すると…時間が余っちゃいますね。狐狗狸さんでもやります?」
俺が財布から十円玉を出した、その時。
music:6
「キャー‼」
「うわ‼どうしたんスか⁉」
部室のあちこちから悲鳴が上がる。
何事かと後ろを見やると、何と一ノ宮がボールペンを握りしめて手首に突き立てようとしている。その様はどう見ても演技では無かった。
「い、一ノ宮!止せって‼」
それを辛うじて押さえている美鷹がこちらに向かって怒鳴った。
「黒沼っ‼どうすんだよ⁉」
俺は情けない事に、何もできなかった。
「あ…う…嘘だろ…?」
足が竦んでしまって動かない。
そんな…。自殺ソングなんて迷信じゃなかったのか?
「こ、こんな部活入れるか!」
「いや、あたし死にたくない‼」
一年生達は口々に叫んで逃げていった。
「あ、ちょっと‼…クソ、部員逃した。」
「んな事言ってる場合か‼」
美鷹のこめかみに青筋が浮いている。かなりの力を込めているようだ。
「どうしよう、どうすればいい?」
自問自答を繰り返しているうちに、
「邪魔すんじゃねぇ‼」
一ノ宮が今まで聞いた事のないような低い声で怒鳴り、美鷹を突き飛ばした。
「ぐあっ!」
美鷹は壁に強かに頭を打ち、動かなくなった。
「美鷹!…あ、まずい、一ノ宮!」
一ノ宮は嫌な笑いを浮かべ、ボールペンを振り上げた。
俺は思わず目を瞑った。
皮膚の破ける音と血液が勢い良く噴き出す音が……。
music:1
……しなかった。
代わりに風を切る音と物がぶつかる音が聞こえた。
恐る恐る目を開けて一ノ宮の方を見ると、彼は椅子から転げ落ちて倒れていた。その傍には、国語の資料集(厚さ約2cm!)が落ちている。
「…?」
イマイチ事態が飲み込めず、その場に突っ立っていると、聞き慣れた声が聞こえた。
「やっぱり何かやらかしたか、馬鹿黒沼め。」
もしやと思って部室の入口に目を向けると、彼はいた。
「ミ…ミヤさん‼」
ミヤさんは呆れたような顔で部室中を見回し、腕組みをして言った。
「さて、説明してもらおうか?」
ーーーーーーーーー
俺は今日あった事を全て話し、ミヤさんに殴られた。
「とびっきりの客寄せするとか言ってたから怪しいと思ってたんだ。全く、幼稚な事しやがって…。」
「すんません…。」
俺がうなだれていると、気絶していた二人が目を覚ました。
「うーん…。あ、一ノ宮!大丈夫か⁉」」
「痛てて…。え、大丈夫って何が?」
ミヤさんはそんな二人の所へ歩いていき、一発ずつ殴った。
「痛っ‼」
「痛って‼」
そして鞄を背負い、一言。
「もう馬鹿な事すんじゃねーぞ。」
そのまま部室を出ていった。
ーーーーーーーーー
music:4
頭の怪我が心配な一ノ宮と美鷹を帰し、俺はガランとした部屋を見回してみた。そこで初めて、残っている一年生の存在に気付く。
「君は…さっきの耳栓貰いに来なかった子?」
その子は小さく頷き、言った。
「あの…。オカルト研究部、入部したいんですけど。」
「…え?」
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翌日ー
「え、マジ⁉女子が一人入部した⁉よっしゃー‼でももう少し入って欲しかったな。」
「いや、女子部員逃がしたのお前だから。」
「畜生っ‼この一ノ宮 水蛇様がみすみす女子を逃がすとは!しかも自殺なんてしようとするとは!」
一ノ宮と美鷹に昨日起きた事と新入部員の事を話す。
「しかし物好きな子もいるもんだな、あんだけ怖い事が目の前で起こったってのに、入部したいなんて。」
「逆にオカ研に向いてんじゃねーの?」
一ノ宮の言葉に納得し、頷く。
「それもそうだな。」
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その日の帰り道、ミヤさんを見つけた。
「ミーヤさん!一緒に帰ろーぜ。」
彼は頷いて言った。
「もう馬鹿な事しないな?」
「まだ根にもってやがるのか、大体あの日ミヤさんがすんなり来てくれればあんな事にはならなかったんだからな!暗い日曜日とか言ってないでさ。」
「いくらお前らでもそこまで馬鹿じゃないと思ったからさ。まあ結果的に馬鹿だったが。」
「馬鹿を連呼するな‼」
憤慨する俺に、ミヤさんは微笑して言った。
「ま、今回の事で流石に懲りただろ。」
「ああ…。もう懲り懲りだ。」
確かに懲りた。
暗い日曜日には、な?
作者蘇王 猛
こんにちは、蘇王 猛です。今回は完全フィクションに挑戦してみました。俺の文章力ではまだまだ未熟ですが、この文章が皆様の暇潰しにでもなっていれば幸いです。改善すべき点等ありましたら是非アドバイスをよろしくお願いします。