僕の通っている大学は、都心から少し離れた場所にあります。
大学までは最寄りの駅からもバスを使って20分ほどかかるのですが、
周りは山に囲まれていて「自然豊かなキャンパス」が魅力の一つでした。
ただ、通い始めて知ったのですが、
大学の周りには霊が出ると有名な心霊スポットがいくつかあるのです。
僕は実家から通っていたので具体的にどこにあるのかは知らなかったのですが、
キャンパスの近辺に住んでいる学生の間では
夜になると肝試しに行くのが流行っているようでした。
ある日、サークルの活動で帰りが遅くなってしまった僕は、大学の近くで一人暮らしをしているS先輩の家に泊めてもらう事になりました。
その日は結局、実家から通学している僕が珍しく泊まると言う事で、近くにすむサークル仲間のKもやってきて、S先輩の家で3人でゲームをして盛り上がりました。
夜も更けて、ゲームにも飽きて来た頃、
S先輩がある提案をしてきたのです。
S「なぁ、今から近くの心霊スポットいかないか?」
K「え〜?また行くんですか?」
どうやらKはS先輩に連れられて何度か心霊スポットに足を運んだ事があるようでした。
K「あそこ何度も行ってますけど、何にも出てこないじゃないですか。」
S「まあ、いいじゃんか。こいつは行ったことないんだし、行こうぜ。」
確かに僕は心霊スポットが近くにあるのは知っていても、実際に行ったことはありませんでした。
むしろ今まで遊園地のお化け屋敷には入った事はあっても、実際の心霊スポットで肝試しなんてした事がなかったので、少し興味がありました。
僕「行きたいです!」
S「よし、じゃあ決まりだな!」
深夜のテンションもあってか、僕ら3人は怖いと言うよりもワクワクしながら、
S先輩の運転する車に乗って、近くの心霊スポットまで向かいました。
僕は初めて行く心霊スポットでどんな所だろうかと思っていましたが、先輩は家から車で10分ほど走った所のコンビニに車を停めました。
僕「あれ?ここですか?」
S「ここからちょっと歩く。」
S先輩とKの後について歩いて行くと、
それなりに車通りのある通りの脇、
街灯がなくてわかりづらかったのですが、
そこに細めの山道の入り口がありました。
K「ここだよ。」
心霊スポットというからには、廃病院とか廃トンネルみたいな所を想像していたので、僕は少しがっかりしました。
僕「本当にここに幽霊出るんですか?」
S「どうだろうね。」
噂によると、昼間はちょっとしたハイキングコースなのだけれど、もともとは城址らしく、夜になると着物姿の霊が現れるらしいのです。
ただ、S先輩もKも実際に幽霊を見た事はないとの事でした。
なんだか拍子抜けしてしまったのですが、とりあえず山道を進むことにしました。
しばらく歩くと、入ってきた沿道の灯りも遠ざかり、辺りは一面木が生い茂っていて、月明かりすら届かない暗闇になってしまいました。
辺りに街灯はありません。
Kが持ってきた懐中電灯の光だけが頼りで、ハイキングコースは一本道なのですが、少しでも離れると足元が見えなくなるので、
僕らはピッタリとくっつきながら歩きました。
S「やっぱりこれだけ暗いと、何も出なくても怖いな…」
K「どうせ何も出ないですけどね。」
ザッ、ザッ、ザッ…
僕らの足音だけが山道に響き渡ります。
最初はどうってことないと思っていましたが、
あまりに暗くて静かなので、僕もだんだん怖くなってきました。
K「うわぁっ!!!」
先頭で前を照らしていたKがいきなり声をあげました。
Kが懐中電灯で照らした数メートル先に
白い服を着た髪の長い女が立っていたのです。
(本当に出た!!)
そう思った瞬間、
女は僕ら3人に向かって、走って近寄って来たのです!!
S「やばい!逃げろ!!」
僕はすぐさま後ろを振り返り逃げ出そうとしましたが、
辺りが暗くて道がよく分かりません。
僕「助けて!!」
その時、女が叫んだのです!!!
女「ごめんなさい!!違うんです!!」
女の声は妙に明るく、僕らが想像していたものとは余りに違い過ぎました。
女「驚かせてごめんなさい!!」
僕らが女は幽霊じゃないと気づくのに時間はかかりませんでした。
よく見ると、服は可愛らしい白いワンピース。
サンダルも履いて足もある。
顔は僕らと同じくらいの年頃の普通の女の子でした。
S「マジでビビった〜…」
K「本気で幽霊かと思った…」
話を聞くと、僕らと同じ大学生で、
これからここに肝試しに来る友人たちをこっそり驚かす為にスタンバイしていたらしいのです。
そこへ友人たちより先に僕らが来てしまって間違えて脅かしてしまったとの事。
要は肝試しの脅かし役だったのです。
女の子一人でこの暗闇の中を待ち伏せするとは、かなりの度胸だと感心したのですが、
本人曰く、「一度も本物を見た事がないから大丈夫」との事でした。
S「今のめちゃくちゃ怖かったから、絶対に友達もびっくりするよ!頑張ってね!」
人騒がせな女の子だとは思ったものの、
僕らは彼女にエールを送り、再び上を目指しました。
さっきの出来事で一気に緊張が解けたのか
僕らは取り止めもない話をして、はしゃぎながら歩いていたら、あっという間にハイキングコースの頂上についてしまいました。
山の上からは麓の街灯りの眺めが綺麗で
この時には全く怖いという感情が消えていました。
特に他には何もないので来た道を戻る事にしました。
また3人で話しながら歩いていると、
前からいくつかの懐中電灯の光が見えました。
K「さっきの女の子の友達じゃないですか?」
光が近付いて来ると、案の定、大学生4、5人のグループがワイワイとしゃべりながら登って来ていました。
グループの中には先程の女の子も混じっていたので、S先輩は彼らに話しかけました。
S「どうだった?しっかり驚かせた?」
女「最初に気づかれちゃって、全然驚いてくれませんでした〜!」
僕らはそんな風に彼女たちのグループと挨拶をして、そのまま麓のコンビニまで戻って来ました。
S「あの女の子にはビビったけど、
結局、今回も何も出なかったな〜。」
本物の霊体験は出来なかったものの、それなりに怖い思いが出来たので、僕は初めての肝試しにしては満足していました。
僕らはS先輩の車に乗り込んで、家まで帰ろうとしました。
その時、Kが不思議そうに言ったのです。
K「でも、さっき上ですれ違った時、もう一人の女の子、いなかったよね?」
僕とS先輩は顔を見合わせました。
S「もう一人って…誰の事?」
K「もう一人いたじゃないですか。
一緒に待ち伏せしてた女の子が、もう一人。」
あの時、僕とS先輩が見た女の子は、確かに一人だけでした。
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