先輩と、数人の女の子で、肝試しに行く事になった。
その場所は、出ると噂の地元の廃病院。
廃病院に着くと、重々しい雰囲気が辺りにあった。
先輩「出るって噂だし、本物の幽霊に、今日会うことができるな。」
自分「先輩、そういうの好きっすねー。」
A子「でも、そんなふざけた気持ちがあると、本当に出るってきかない?」
そんなやり取りをしながら、僕らは廃病院に懐中電灯一つ持って、入っていった。
中は予想通り真っ暗。
懐中電灯の明かりだけが、通路を照らす。
ガラスは割れて地面に散らばり、歩くたびに『パキパキ』と音を鳴らす。
先輩「階段があるぞ。二階に上がろう。」
幅広の階段を上り、二階へ。
A子「どうして廃墟って、ガラスとか割れてたり、壁とかボロボロなの?」
泣きそうな声で、つぶやく。
自分「まあ、誰か入らなきゃ、幽霊が出るとか噂は流れないよ。」
病院には、自分の声が反響して聞こえた。
ふと、病室の前でなんとなく、皆、足をとめた。
誰からというまでもなく、入っていった。
…ガラスは割れて窓枠だけとなり、壁はボロボロ、床はゴミだらけだった。
…自分のシャツの裾を不意に引っ張られた。
振り向くと、A子以下、女子達が口に人差し指をあてて、病室の扉を指さしていた。
…なるほど。先輩を驚かすつもりだな。
日頃大した恨みがあるわけではないが、まあ、これくらいなら先輩も怒らないだろう。
幸いにも、懐中電灯を持っているのは、自分だ。ちょっとくらい暗闇に置いといても、と思い、A子達の話に乗ることにした。
そーと、扉に近づく。先輩は窓から外を見ていて、気が付く素振りはない。
自分「今だ!」
言うが早いか、女子達が扉を閉めた。
閉める瞬間も、先輩を見ていたが、こちらを振り返る様子はなかった。
扉を閉めた自分達は、階段まで走り、一階まで降りたところで、止まった。
皆、ハァハァと息を荒げで、階上の様子を伺った。
…
……
………
なにもない。暗闇と静けさだけがそこにあった。
A子「ねえ。先輩の声、聞こえる?」
耳をすましても、なにも聞こえない。
自分「怒ってるのかな?でもこんなことで、怒る人じゃないと思うんだけど…」
B子「でもさ、閉めたときも、なにも言ってなかったよね?」
そういえば、『今だ!』って叫んでも、先輩はこちらを見向きもしなかった。
…おかしい。
五分待っても、十分待っても、先輩は戻ってくる気配も、声も聞こえない。
自分「先輩のところに行こう。」
そういって、さっきの病室に向かった。
病室の前についた。
だが、先輩の声は聞こえない。
自分「開けるぞ。」
そう言って、扉を開けた。
…中は暗く、パッと見た感じは、見当たらなかった。
懐中電灯を持っているのは自分なので、必然的に探すのも自分である。
懐中電灯を窓から、左の壁にあて、右の壁にあてたとき、
先輩がいた。
…いたが、
先輩が、ボロボロの壁に向かって、
nextpage
壁をなめまわしていた。
…
……
………
nextpage
これは、
これは、まずい!
ほんの数秒、みんなが固まった状態だったが、自分が『先輩!』と叫んだとき、一斉に、体を掴み、皆で壁から剥がして、車に連れ込んだ。
車にのせたときは、意識朦朧としていた先輩も、10分も走らないところで、
先輩「あれ?ここどこ?」
自分「先輩、覚えてないんすか?」
先輩は、病室の前までは覚えていた。そこからの記憶がなかった。
自分「先輩、突然倒れちゃって、みんなで慌てて連れて帰ってきたんですよ。」
…流石に壁を舐めまわしていたとは言わなかった。いや、断じて、先輩を閉じ込めたことを隠して、というわけではない。
なぜ壁を舐めまわしていたのか、今でも不思議に思う。
nextpage
------
この話は、友達から聞いた話です。現在、この廃病院はなくなり、大きな道路になっています。
作者パスカルオレンジ
三作目です。
友人の実体験です。
多少の脚色はあります(笑)