これは6年ほど前に体験した実体験。
俺はその出来事があるまで霊などを全く信じていなかったし、今でも完全に信じているわけではない。
全く信じていなかった理由は単純で、俺には霊を見ることも声や音を聞くことも出来なかったからだ。というか今でも出来ない。
だけど、この出来事があってから少し考え方が変わったと思う。
存在するわけないじゃん!から、まぁいるかもしれないね。くらいには変わった。
この時も俺が何かを見たという訳ではないから、視覚的な細かい描写はできないのでその辺は期待しないでほしい。
結構長いかもしれない。あと会話のところははっきり覚えてないから、少し盛られてるかも。
当時、23歳か24歳だった俺は地元から離れた土地で外回りの仕事をしていて、その県内を車で走り回っていた。
ある時、たて続けに後輩が2人入社した。
後輩といっても片方は、同業他社からブランクを経て入社した人なので年は20歳程上だった。
もう一人はたしか2つ年下だったかな。
年上の方をM、年下の方をHとしよう。ついでに俺の事はCとする。
Mはベテランだったためすぐに車が与えられ、他の社員と同じように一人で行動するようになった。
一方、Hは仕事を覚えるまでは俺と同行することになり、しばらく2人で行動していた。
秋の始めのある夕方、そろそろ終わって戻ろうというところにMから電話がかかってきた。
「こっちはもう終わるけど、良かったら待ち合わせて飯行こうよ」
近くに居るようだし、断る理由もないので場所を決めて集合した。
飯を食べながらMがある提案をしてきた。
「帰り急いでる?大丈夫ならこれから肝試しいかないか」
40過ぎのおっさんが何を言い出すのかと思ったけど、その頃よく洒落怖まとめとかを読んでいて少し興味があったから即オーケー。Hも問題ないという事で店を出たらすぐに向かう事になった。
ただ、俺は県外出身者だったから肝試しと言っても、近くのそういうスポットを全く知らなかった。
「あのー、帰り道とか近くにそういう所あるんですか?俺、全然知らないんですけど」
「ああ。地元、いや県内育ちなら誰でも知ってるようなのが帰り道にあるよ」
Mが答えながらHを見た。どうやらHも知っている様な感じだ。
俺は霊なんて信じてなかったからどこでも良かった。
「じゃあMさん前走ってください。ついて行くんで」
県内の人なら誰でも知ってるって事は、相当有名なスポットなんだろう。向かう車の中でHに聞いてみた。
「なあ、どこ行くか知ってるんだよね?」
「はい。多分ですけど白い家って所です」
「白い家?なにそれホワイトハウスじゃん。やっぱ有名なの?」
「そうですね。ただ白いから白い家ってことなんですけど、僕の知ってるのが本物かわかんないです」
「本物ってどういうこと?」
「僕が知ってるのは一つだけなんですけど、噂だと3つか4つあるらしいんですよ。」
最初は、またまたご冗談を。って感じで話を聞いていたが、最後までちゃんと聞いて少し驚いた。
Hの話によると、白い家とは昔は人が住んでいた一軒家らしい。そこで、事件が起こった。
4人だか3人だかの家族が住んでいたそうだが、ある時父親がおかしくなって家族を全員殺して自殺したらしい。家にはその時の血痕とかがまだ残っているんだと。
スポットにありがちな話だと思ったが、まだ続きがあった。
そんな場所だから肝試しに行く若者たちが結構いたんだけど、それがガチだったらしく死ぬ人や頭がおかしくなる人がかなり多かったらしい。
そこで、誰の仕業かは知らないけどダミーの白い家を建てて、そこが本物だと噂を流したという話だ。
「多分、僕が知ってるのはそっちの方ですよ。これから行くのもそこっぽいですね」
海沿いの道を走っていると横でHがそう言っていた。
もしダミーって話が本当なら、そんな話聞いたことない。わざわざ偽物まで作るって結構ヤバいだろ。
30分くらい走った所で目的地に着いた。どうやら予想通りHの知ってる方らしい。
海沿いの道から海側にある駐車場に車を停めた。と言ってもすぐ砂浜というわけではなく、少し崖っぽくなっていて、浜には階段を降りて行く様な感じだった。
「よし、じゃあ行こうか。こっちは偽物なんだけど、こっちはこっちで色々あるらしいし、別の意味でも厄介だからあんまり近づけないけどな」
歩きだしながらMがさらっと偽物だと言った。
という事は本物も知ってるって事か?
Hと顔を見合わせると、HがMに質問した。
「Mさん、別の意味でって、○○組の話ですよね?」
「そうそう。今はそこが持ってるらしいからね。誰か居るかもしれないよ」
Mは笑いながら答えてたが、霊より怖いじゃねえかと思った。
海とは反対の方向に歩いてすぐ、ほんの50mくらいのところに、さっき走ってきた道路をくぐる形でトンネルがあった。
上の道の脇には木が結構あったので全く気付かなかった。
トンネルに入ってくMの後ろを2人で、並んでついて行く。
「出てすぐ右にあるぞー」
正直、暗いのが単純に怖かった。
トンネルを抜けると少し開けた場所になっていたが、舗装はされてなかった。
右奥の方を見ると確かに白い家があった。結構大きい家だ。
そこで5分くらい話してたかな。特に何も見えなかったし、誰もいない様子だった。
その時、急にだった。
「戻るぞ」
Mがトンネルに向かって歩きだした。
「やばいかも」
そう言ってHもすぐに追うように歩き出した。
何だかよく分からないまま俺も早歩きで追いかけて、聞いてみた。
「ちょっと、どうしたんですか?誰か居ました?」
「振り向くなよ、ついてきてる」
「え?何が?誰もいなかったですよ」
「ダメだ、振り向くな。なぁH、お前聞こえるだろ」
「はい、ついてきてます。これヤバいです」
何が何だか全くわからない。がMとHには何か聞こえてるらしい。
「速くなってるな、お前ら走らずに急げ。気付いてないフリしろ」
「はい。先輩、聞こえないすか?足音ついてきてます」
2人とも小さめに話しながら早歩きしている。
「マジかよ、聞こえねえよ、ウソだろ」
そうぶつぶつと繰り返しながら俺も怖くなって早歩き。
そのままトンネルを抜けて、駐車場まで出てこれた。
俺、なにも感じてないのに心臓バクバク。
Mがタバコに火をつけて話始めた。
「ふぅ、もう大丈夫だな。C、本当に聞こえなかったのか?」
「え、はい。だって誰も居なかったですよね」
「そっか、本当に零感なんだな」
「え、はい。なんにも」
「じゃあHはなんか見えたか?」
「えーと、音だけです。足音しか分からなかったですね」
「ああ、じゃあお前はそこまで強くないってことか」
「はい、今のは見えませんでした」
なんだこいつら、霊感みたいなのあんのかよ。聞いてねえよ。そう思いながら真っ直ぐに聞いた。
「ていうか、2人はそういうの見えるんですか?」
「うん、俺はだいたい見えるよ。ただ全部が分かるってわけじゃない。今のも何だったのかはよく分からなかった。でもトンネルさえ抜ければ大丈夫だよ、あれは」
Mが答えると、Hも頷いていた。
「よーし、じゃあ本物行くか!ここから近いぞー」
どうやら、知っているらしい。
という事で、走り出したMの車の後ろにまたついて行った。車中でHに色々聞いてみた。
さっきのは本当か、俺の事ハメたのか、本当ならどれだけ見えるのか、など。
もし俺をはめようとしたのなら、どれも意味のない質問だが、多分そうじゃないと感じた。
その日、HとMがそういう打ち合わせをしてるのは全く見てないし、そもそもHは普段俺と一緒に行動してるので、Mとそこまでコミュニケーションがとれてない筈だからだ。
前の車について行くと、今度は海から離れる方向に走っていた。
この辺りは海から割とすぐ山になるような地形だ。
いくつか坂道を上ったり下ったりを繰り返して、さっきの場所から15分くらい走った所でMの車が左に寄せた。
特に何もない、両側に林がある普通の山道だった。夜9時すぎだったので、ほとんど車も走っていない。
もともと交通量はそんなに多くないだろう。
Mが車を降りてきて、左側を指差して言った。
「この先、結構奥にあるぞ」
どう見ても林の中。というか森の中。Hもここは知らないといった感じだ。
「マジすか?何にも見えないですけど」
「そりゃ結構奥だからな、入らないと見えないぞ。怖かったら出てくればいいさ、折角だからちょっとだけ行こうか」
なんでこんなに乗り気なんだよ、このおっさん。そう思いながら森に入る事にした。すぐに出てくるつもりで。
一番前2〜3m先にM、その後ろにH、で俺って順番で進んだ。
10mくらい入った。たったの。
でもこの位置でも車のハザードがギリギリ見えるくらいだった。
正直、霊がどうのより森から出られないのが一番嫌だったから、もう戻りたかった。
前で2人がなにか話始めた。
なにか指差してる?
追いついて聞いてみた。
「あそこ、見えるか?H」
「はい、あの木のとこですよね」
いや、なんも見えないから。つかどこ指差してんだよ。どう見ても上の方を指差してる。
しばらく間があいてHが言った。
「あれって、首吊りですよね?」
「そうだな」
Mが俺に聞く。
「見えるか?」
「何も見えませんけど」
「じゃあ、この匂いは分かるか?」
そういえばさっきからなんか臭い。森の中だからカビ臭いだけかと思ってたけど、なんか違う。
「はい、なんかすごい重たい匂いが」
俺が答えるとHも小さく頷いている。
うまく説明出来ないが、カビ臭い匂いに、なんというか甘ったるくて重たい、何か物が腐ったみたいな匂いが混じってる。むせそうな匂いだった。
Mが納得したような感じで話す。
「障気だ。聞いたことあるだろ?この匂いが障気の匂いだ。人が死んだ場所とか、曰く付きの場所に溜まる事がある。」
「あの、もう出ませんか?」
情けないけど俺が言った。この匂い、もう嗅ぎたくない。体に匂いがつきそうで嫌だった。
「出ましょう」
Hが同調してくれた。すぐにまたHが続けた。
「さっきから、あの首吊りの人、こっち見てます。ここから先はもう無理です」
見てないって、ていうか見えないって。
「そうだな、やめておいた方がいいな、じゃあ帰るぞ」
助かった。今度は俺を先頭に、来た道を引き返す。後ろが気になって仕方なかったが、今度は急がなくても大丈夫らしい。
森から出たらMがHと俺の様子を少し心配しているような感じだった。
「まあ、大丈夫そうだな」
またMの車について行くという話で、車に乗り込んだ。
今度は本当に帰るみたいだ。
またHに色々聞きながら運転していた。今のもハメてないよね、とか。
10分くらい走った時だった。
「先輩、まずいです」
「え?何が?」
「ついて来てます、後ろ」
ちょっと怖かったけど、バックミラーを確認する。何もいない。車もいない。
「いや、何もいないよ」
「白いのついてきてますよ」
絶対ハメようとしてる、間違いない。
「いやいやいやいや、何もいないって、流石にこれは無理あるって」
「先輩、本当ですって。ていうか、近くなってますよ!」
「え、本当に?嘘だろ」
「本当です、っていうかあれ、僕じゃなくてC先輩について来てます!」
これは流石にHの感じが必死すぎる。本当かもしれない、そう思っていた。でも見えないから本当の危機感が全くない。
でも正直怖い。どうすれば良いのかわからい。
「で、どうすりゃいいの?」
「ちょっとMさんにかけてみます」
Hがそう言って携帯を取り出そうとした時、前を走るMの車がハザードを焚いたて左に寄せた。
どういう事かわからないまま、それにならって俺も車を止める。
すぐにMが車から降りてきてこっちに走ってきた。
「おい、Cくん!すぐ車降りて!ついて来た!早く!」
って車止まっちゃダメじゃ無いのかよ!なんだよこれ。とか思いながら仕方なく降りた。
「あっち向いて!ちょっと叩くぞ!」
「え、あ、はい」
Mさんが後ろから俺の肩というか背中を叩いた。
右肩2回、左肩2回?
よく覚えてない。
30秒くらいかな、Mさんが周りを見回してから言った。
「多分これで大丈夫」
「お前、憑かれてたぞ。ああ、でも早かったから俺で何とかなった、よし帰ろう」
憑かれてたというか憑かれかけていたらしい。
多分人生で初めて取り憑かれた。
それからは何もなく会社の駐車場に戻り、車を乗り換えてそのまま家に帰った。
帰り道の途中でHに聞いたが、もうついてきてないから大丈夫という事だった。
それとMが車を止めた時、Hはまだ電話をかけてなかった事を確認した。
その後は特に何もなかったんだけど、色々分からない事だらけなので、何日かあとにMに
聞いてみた。
「Mさんって何者なんですか?お寺関係とか?」
「いや、俺自身は寺の生まれとかじゃないよ。ただ俺の背後霊(守護霊?)が結構名のある僧侶らしいんだ」
「らしいっていうのは?あと背後霊って俺にもいるんですか?」
「ええと、俺にその僧侶の事を教えてくれたのは本物の寺の人だからな。自分でそれに気付いたというか知ったわけじゃない。それとお前にも背後霊は多分いるけど、それがどんなものかは俺にはわからないな」
「そうなんですか。ああ、あともう一つ。俺みたいに霊感の無い人でも取り憑かれたりするんですか?」
「それは関係ないよ。見えなきゃ大丈夫なんて事はない。逆に見える方が避けられるから良いんじゃないか」
「それ卑怯ですね、こっちは何も出来ないのに。ああー、あともう俺大丈夫ですよね?」
「もう大丈夫だよ。それと、見えなくても聞こえる人は居るし、聞こえなくても匂いが嗅げるひとはいる。だから全く霊感が無いって人はあまり居ないのかもな」
Mさんがいなかったら俺はまだ取り憑かれたままだったかもしれない。いや、Mさんがいなかったらあんなスポット行ってないんだけどな。
この出来事があってから、霊ってものの存在を許す事になった。というか、そう思う以外にMとHの2人の反応に説明が付けられないと思った。
この2人とはもう一つエピソードがあるので、そのうち書いてみようと思う。
作者ロマンシング千葉
初めて書きました。読んでくれた方、ありがとうございます。
背景や効果音などはいれてません。
あと、読んでる人はあまり怖くないかもしれないですけど、この体験みたいに全く見えない側の霊体験というのを、あんまり見たことがないので書いてみました。
後から、誤字脱字修正など一部編集。