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モーじいちゃんとトイレットペーパー

中編7
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モーじいちゃんとトイレットペーパー

自分が小学校高学年の夏休み。

いつも早く起きている姉ちゃんが、その日はなぜか自分より遅くに起きてきた。

寝ぞうが悪いのを物語っている、ぼさぼさの髪型のまま姉は台所に入ってきた。

自分「おはよう。」

姉「……おはよう。なんか…モーじいちゃんの夢見たわ。」

ぼそっと呟いた程度だったが、自分たちに背を向けて台所に立っていた母にも聞こえたようだ。

母「え?どういう夢だった?」

モーじいちゃんというのは母の父であり、自分の祖父である。

母の実家が乳牛を飼っていたため、幼い時に一緒に住む祖父母と区別してそう呼んでいた。

モーじいちゃん、単純だが牛を飼っているじいちゃんって意味だ。

母がたの祖父がモーじいちゃんなら、母がたの祖母はモーばあちゃんだ。

ちなみに牛を飼っていた場所は、北海道のような大きな牧場ではない。

放牧地はなく鉄骨造の牛舎だけであったが、当時20頭~30頭ほどの雌牛を飼っていた。

姉の夢に出てきたモーじいちゃんは半年前の2月に、突然いなくなってしまった。

じいちゃんがいなくなった日は、家族旅行の帰りだった。

家の近くのファミレスで飯を食べていると、突然母の携帯が鳴った。

電話の相手はモーじいちゃんとモーばあちゃんと一緒に住んでいる母の弟(おじさん)からだった。

じいちゃんが牛舎で倒れていて意識もなく、病院に運ばれたという。

食べかけの飯もそのままにしてファミレスから急いで出て、自分達家族も市民病院に向かった。

駐車場に車を止めて、自分と姉は父に手を引かれ、母は妹を抱きながら病院の入口に走った。

駐車場を走っていると犬の鳴き声がした。

母の妹(おばさん)の車が停めてあって、車の中で牛舎で飼っている犬のくま(犬なのに名前がくま)が吠えていた。

急患受付で父がじいちゃんの名前を言うと、看護婦さんも焦ったように受付横の処置室だと教えてくれた。

処置室の外にあるベンチでは、おじさんの奥さんが泣いている小学校低学年と3歳の従兄を抱いて座っている。

処置室のドアを開けると、処置室の中央にじいちゃんは居た。

処置室の簡易ベットの上で体に白いシーツを掛けられて眠っていた。

じいちゃんの横には先生がいて電気ショックの機械も置いてあったが、心音を測定していないようだった。

診察室を見渡すと隅で、おじさんはばあちゃんの肩を抱いて声も出さずに泣いていた。

おばさんも傍に立って泣いていた。

母は抱いていた妹をおろして、寝ているじいちゃんに駆け寄り

「おとうちゃん!おとうちゃん!」

とじいちゃんを何度も何度も呼んだ。

じいちゃんはやっぱり起きることはなかった。

母は膝から崩れ落ち、ベットにすがりついて泣いた。

おろされた3歳の妹はぽかんとしていたが、思い出したかのように母のそばに走っていき、母の顔を見上げながら袖を引いていた。

泣きじゃくる母の悲しみを感じ取ったのか、母にほったらかしにされているいつもと違う雰囲気に怖くなったのか、妹も訳も分からず泣いた。

自分は身近な人の死は初めての事で理解できず、そんな母と妹の姿を処置室の入り口からぼーっとまるで他人事のように眺めていた。

父は歩いて母に近づき震える母の肩に、そっと手を置いた。

入口で自分同様に固まっていた姉も父が動いたのにハッとして母に近づき、母にしがみつく妹を抱き上げた。

姉は妹をあやしながら、入口で突っ立っていた自分の傍まで戻ってきた。

自分には何もかもがスローモーションに見えて、母の大声で泣いているはずの声が遠く聞こえるのに、隣で姉が鼻をすする小さいはずの音が鮮明に聞こえた。

それからどのくらい処置室にいたかはよく覚えていないけど病院を出て、母はばあちゃんとおじさんとおばさんとじいちゃん家に残った。

自分は父に車へ乗せられ、姉と妹の4人でその日は家に帰った。

4人で帰った母のいない家は、暗く…シーンとして他人の家のように感じた。

次の日くらいからバタバタと、じいちゃん家でお通夜と葬式の手伝いをやったのがちょうど夏休みの半年くらい前。

夏休みの姉の夢の話に戻る。

姉「うん…なんかね。モーじいちゃんは、モーじいちゃん家の和室に居てテレビもつけないで、机の上のトイレットペーパーを拳でバンバン叩いてるんだわ。何か言ってるんだけど…後ろ向きで胡坐をかいて座ってるから、私には何言ってるか聞き取れないんだよね。なんか…変な夢だった。」

母「お母さんも今朝同じ夢見た!お母さんが他に覚えてるのは、夕暮れなのか部屋が赤色だったわ。おとうちゃん子供っぽい人だから怒ったり気に入らないことがあると、おとうちゃんが鼻を咬むために机の上に置いてるトイレットペーパーをよく叩いて潰しとったね。なつかしいなぁ。あんたは見んかったの?」

自分「ん~……見てない。」

姉「こいつは駄目だよ。夢見てたとしても起きてる時と一緒ですぐ忘れちゃうし。」

自分「姉ちゃん朝からなんだよ!」

母「まあまあ。もうすぐお盆だから、おとうちゃんも帰ってきてるんじゃない?二人して同じような夢を見るのも珍しいしね。」

姉「そうかな?なんか怒ってた様じゃなかったと思うし、どっちかというと寂しそうに見えたよ。モーじいちゃんが何言ってたか分かんないし…本当にモヤモヤするんだけどなぁ。」

って感じでその日の夢の話が終わって朝飯を食った。

二日後の朝は、また姉が自分より起きるのが遅かった。

自分が先に飯を食べてると姉が階段をバタバタと駆け下り、モーじいちゃんの夢を見たと叫びながら台所に入ってきた。

姉「お母さん!またモーじいちゃんの夢見たんだけど!」

母「お母さんは今日見てないよ。」

自分「へー。どんな夢だったの?」

姉「やっぱり、畳の部屋で胡坐をかいて机の上のトイレットペーパーをつぶしてるんだけど。今日はモーじいちゃんがこっちを向いてたんだよね。やっぱり怒ってたわけじゃなくって………わしはまだ食べてない………わしが伸子から貰ったんだぞって悲しそうに言ってるんだわ。」

伸子というのは母の名前で、母は姉の話を聞くとハッとしたように台所から出て行き、階段横の机に置いてある電話でどこかに掛け始めた。

そんな母の姿を見た自分と姉は顔を見合わせ、台所から出て二人して電話を掛ける母の横に並んで立った。

母「おかあちゃん?私だけど、渡したやつ仏壇に上げてくれた?………うん。冷蔵庫に入れたまま?まだ上げてくれてないの?ちょっと、おかあちゃん冷蔵庫確認してきて………。

………………。

………………。

え?ないの?なんで?………あぁ~………食べられちゃってたのか。原因はこれだね。うん………なんかあゆちゃんがおとうちゃんの夢をみたんだわ。夢でわしは食べてないって悲しい顔して言ってるらしいわ。………昨日ちょうどまた近所の人に貰って、家にあるから今日持ってくね。」

母がそう言って電話を切ったのを見ると、二人して母に訊ねた。

姉「どうしたの?」

自分「ばあちゃんに電話かけたの?」

母「うん。おかあちゃんにかけたんだわ。

あんたらには言ってなかったけど、この間温室みかんを10個くらい近所の人から貰って、おとうちゃんが好きだったからおかあちゃんに仏壇に上げてって渡しちゃたんだわ。

おかあちゃんは冷蔵庫に入れて忘れとったみたいだけど、冷蔵庫確認してもらったらなくなってたって。

おかあちゃんが電話の近くにいたおじさんにも聞いたら、おじさんが子供たちと食べちゃってたんだって。

おとうちゃん相当食べたかったんだね。大好きなみかんを貰えると思ったら食べられちゃって悲しかったから、あゆちゃんの夢に出てきてまで訴えてたんだね。

あげた本人が気がつかないから、2回目はお母さんの夢に出てくるのは諦めたのかも知れんね(笑)。

ちょうど昨日近所の人からこの間より沢山温室みかんもらったから、朝ごはん食べたらおとうちゃんにも持って行ってあげよう。」

自分「えぇ~!まじか!姉ちゃん霊感あるんじゃねえの?」

姉「分からんけど、自分でも信じれんわ。とりあえずご飯食べたらみんなでモーじいちゃんに、持って行ってあげよう。」

母「そうだね。みんなで行くならちいも起こしてご飯を食べさせんといかんね。」

自分「でも…家で食べる分は少し残しといてよ。」

姉「バカ!そんな事言ったら、またモーじいちゃん悲しんじゃうよ。」

母「あんたは食いっ気だけはおとうちゃん似だね(笑)。仏壇に上げてから、実際におとうちゃんは食べれんし、おかあちゃんに聞いて貰ったらいいよ。さあさあ、ご飯食べるよ。」

妹のちいを起こして4人で朝飯を食べてから、じいちゃん家にみかんを持って行った。

仏壇に上げたみかんに少し歯形のあるものがあったけど、沢山供えたからじいちゃんには許してもらいたい。

持って行くのを忘れないように袋に入れて玄関に置いたみかんを、母が出かける準備をしている間に妹があけてかじったのだ。

妹は皮さらかじったため苦くて食べれなかったようだが、じいちゃんの食いっ気を受け継いだのはどうやら自分だけではなかったようだ。

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なんだかいい話(*^^*)
ほっこりですね♪

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