俺には4つ年上の姉がいる。最近、弟の俺にやたらとコスプレをさせようと目論む、ちょっとアレな姉貴だ。
ぶっちゃけ、俺は中学2年になるのにも関わらず、150センチしかない。周りの友達がグングン背が伸びていくのに、俺ときたら小学6年生の時と殆ど変わらないのだ。
おまけに童顔で、睫毛も長くたれ目なので、姉さんからは「ランドセル背負わせてスカート履かせれば究極の萌え対象」とまで揶揄されている。「究極」とか言われても全く嬉しくない。
今日も今日とて。俺は姉さんの自室にて、姉さんに遊ばれていた。姉さんと遊んでいたのではない。姉さんに遊ばれていたのだ。
「きゃー♡鴎介可愛いー♡こっち向いてー。笑ってー♡」
「………あのさー」
デジカメで俺を激写している姉さん。俺はうんざりしながら自分を見下ろした。白いブラウスにチェックのスカート、白いハイソックス。うっすらとメイクまでされている。誰だよコレ。
「可愛いー♡鴎介はやっぱり可愛い♡ねー、次はさ、騙されたと思って女の子の下着も付けてみ。人生観変わるから!」
「止めてくれ!」
人生観が変わるどころか、ひっくり返っちまったらどうすんだ!いや、断じて俺にそんな趣味はないが、姉さんにこれ以上悪の道を突き進んでほしくはない。
恐らくオシャレなセレクトショップで買ったと思われる、ピンク色の紙袋をゴソゴソ漁り出す姉さんを止めようと手を伸ばし掛けたその時。
「……ん?」
ふと天井を見上げた俺は声を上げた。天井の片隅に、ドス黒いシミのようなものが広がっていたのだ。雨漏りのシミのようにも見えなくはないが……それよりももっと色合いが濃いように思われた。所々、濃い所や薄っぽい色の斑と化していて、薄気味悪い。
俺がジッと見つめているのに気が付いたのだろう。姉さんも同じ方角を見やりながら呟いた。
「あんまり見るな。視界に映すな。アレはね、危険なものだから」
「危険……?ただのシミじゃないの?」
「シミじゃない。シミに見えるけれど、アレは実際している。身を潜めているだけ。アレはね、どこにでもいる。誰にでも憑く。姿形は不格好だけれど、言わば殺戮マシーンなんだよ。今は私の命を狙ってるらしいが……まあ、半月もすりゃ出て行くさ」
「、さ」
……殺戮マシーン?こんなシミが?
俺は思わず眉をひそめ、まじまじとシミを見つめた。するとそれはいきなり意志を持った生き物のようにグネグネと蠢いた。みょーんと大きく広がってみたり、かと思えば豆粒くらいに小さくなったり……そのうち、ブチュブチュと黒い泡を立て出した。
「みーるーな」
姉さんが俺の頭をペシリと叩き、手にしたストッキングで目隠しをした。
「次の標的になりたくないなら見るな」
それから暫く、俺は姉さんの部屋には近寄れなかった。
作者まめのすけ。