新人の看護士であるYさんの体験談。
その日、Yさんは先輩のMさんと初の夜勤だった。
深夜12時を過ぎ、Yさんは懐中電灯を片手に
見回りへと向かった。
暗い廊下をたった1人で歩く。カツン…カツン…
と、自分の足音が反響して気味悪い。
早く見回りを終わらせて、ナースステーションに
帰りたい…。はやる気持ちを堪え、見回りを続け
ていた時のことだった。
カツン…カツン…カツン…カツン…
足音が聞こえる。自分の足音かと思ったが、違う。
明らかに自分以外の誰かのものだった。
カツン…カツン…カツン…カツン…
病院には年配者も多く入院している。たまに認知症
患者が夜中に部屋から抜け出して徘徊することが
あるのだという。
Yさんは足音が聞こえる方へと駆け出した。
カツン…カツン…カツン…カツン…
足音につられるようにして着いた先は霊安室だった
。ここには、夕方亡くなった若い女性の遺体が安置
されてある。
Yさんは嫌な予感がしたが、今更引き返すわけに
もいかない。意を決して霊安室のドアを開けた。
部屋の中には遺体が安置されているだけで、特に変わった様子はない。ほっとしたYさんだったが、遺体の右腕がベットからダラリと垂れ下がっているのなに気がついた。
おかしい…。遺体が霊安室に運び込まれた時には、
腕はきちんとベットの上に置かれていたはず。
現場にいたYさんには、ハッキリと記憶していた。
とにかく腕を戻そうと手を伸ばした時、女性の
右手の甲に真新しい傷が出来ているのが分かった。
噛まれたのだろうか、くっきりと歯型が生々しく
残っている。血も滲んでいた。
Yさんは悲鳴を上げ、ナースステーションへと戻った。カルテを整理していたMさんは驚き、一体どうしたのかと尋ねてきた。
Yさんは震えながら霊安室での出来事を話す。
Mさんは黙ってそれを聞いていたが、聞き終わるや否や、いきなり笑い出した。
Yさんが呆気に取られていると、Mさんは言った。
「私の口の中を見てごらん」
Mさんはカッと口を開けた。前歯にはベッタリと
血が付いていた。
作者まめのすけ。