あれは…先月のことです。
残業をしていて、すっかり帰宅が遅くなって
しまいました。夜も大分更けていた頃だと思い
ます。
私の住んでいるアパートの周辺は街頭もあまり
なく、人通りも疎らな寂しい場所でした。
疲れた足を引きずりながらトボトボと歩いてい
ると、前方にある電柱の陰から女の子がひょこ
っと現れました。
見た目からして小学校低学年くらいでしょうか。
肩で綺麗に切り揃えられた黒髪。瞳の大きい、可愛
いらしい女の子です。
その子はニコニコ愛嬌良く笑いながら、顔だ
け出して私を見つめてきました。
こんな夜中に、小さな子が外出してるなんて…
。近くに保護者がいるのかと思いましたが、人影
は見当たりません。
「ねぇ、かくれんぼしよ」
ふいにその子が話し掛けてきました。私は内心
驚きましたが、「ごめんね。おねえちゃん、もう
帰らなくちゃいけないの。また今度ね」と、やん
わりお断りしたのですが、その子は尚も食い下
がります。
「かくれんぼ!かくれんぼしようよ、ねぇ、かく
れんぼ!!」
私がなかなか遊んでくれることに苛立ってきたの
でしょう。女の子はだんだんと語気を荒げてきました。
「かくれんぼ!!かくれんぼ!かくれんぼかくれ
んぼかくれんぼかくれんぼかくれんぼ!!かくれんぼーッ!!!」
私は次第に怖くなり、女の子から距離を取る
ように後退りしました。すると先程までは愛
くるしい顔をしていた女の子の顔は一変。
目つきは鋭いものに変わり、顔中に皺を寄せ、カッと大口を開けると、
「がくれんぼじないのがあああああああああ
ああああああああああああああああああッッ
ッッ!!!!!!!!」
獣のような雄叫びを上げ、電柱の蔭から飛び出し
てきた女の子には、右足がありませんでした。
左足だけで器用に立ち、まるで通せんぼするか
のように、両腕を広げ、私の行く手を阻もうと
しているかのようでした。
…それからどこをどう走って、アパートに帰ってきたのか覚えていません。気がついたら玄関先でへたりり込んでいました。
あの女の子は…片足しかないあの女の子は、果たして何者だったのでしょう。
作者まめのすけ。