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私は以前美容部員をしていました。
百貨店での化粧品販売の仕事です。
私は親しみやすさでお客さんを打ち解けさせて、つい買ってもらうタイプでしたが、同僚には美女も多かったです。
同僚は何回も電話番号を渡されたり、(そのお客さんがいなくなるとすぐ捨てたり)、先輩はカウンター越しに急にキスされそうになったり(のけぞって交わしたそう)と、変な人に好かれる事も多かったようです。
女装でカウンセリング受けに来て、私は女だから友達として仲良くなりたいだけなの、と言われた他メーカーの子もいました。
ちなみに、化粧品売り場に目的もなく一人で来る男性は変な人が多いのか、スキンケアやメイクなどのタッチが必要となるサービスはお断りさせて頂いていました。
最近は男性用化粧品も充実しているので、今はどうか分かりませんが。
そんな中、トレーニングで本社に行った帰り、他店の子も交えて何人かでお茶していました。
そのうちの一人が、Mちゃん、引っ越し決まった〜? と言い出しました。
あれ? なんか半年くらい前に新築のめっちゃ綺麗なマンションに引っ越したばかりじゃなかったっけ? と思って聞いてみると。
Mちゃん本人は苦笑いで、その話題を振った子が話し出しました。
Mちゃんが夜寝ていると、チラチラ顔にあたる光で目が覚めたそうです。
その日はシフトがオープンラストの日で12時間勤務を終えて疲れきってしまい、閉め忘れたのか、カーテンが半分ほど開いていたそうです。
その窓の上の方から懐中電灯のような光で照らされ、よく見ると上の階の人がベランダを越えて彼女の部屋を覗いていたそうです。
その話を聞いて、えー!とかキャー!とか女の子達が騒ぎ出しましたが、Mちゃん本人は変わらず苦笑いのまま、アイスコーヒーをストローですすっているだけでした。
怖い思いをしたのはMちゃんだしね、という雰囲気になり、ストーカーの話には皆それ以上触れず、自然と違う話題になって行きました。
でもその時も思いました。
こうして書いていても思います。
だいたい、ベランダ越えてどうやって下の部屋を覗くの? どんな身体能力?
万が一身体能力に優れた人だとして、まず警察や、大家さんなどに言わない? 黙って自分が引っ越しってお金もかかるし、ストーカーが続いても大変だし。
Mちゃんはそういうの言えない…というような気の弱いタイプではないのです。
というより、美容部員なんてしてるとみんなどんどん気が強くなって行きます。
あの苦笑いが、何とかできるものでもないし、と言ってるような気がするのです。
個人的には人間だった方がよっぽど怖いですが。
作者睡蓮