僕は夏休みの連休を利用して大学のサークルで知り合った友人の友樹とどこかに行こうと計画を立てていた。
しかしどこに行くかなかなか決まらない。
結局は
「なら真広、俺の実家来る?」
という友樹の一言により、
千葉県南房総某所の山奥にある友樹の実家に二泊三日で泊まらせてもらうことになった。
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友樹の実家は昔ながらの時代劇に出てきそうな由緒正しき日本家屋のようで、
縁側などもあり正直そういうのに憧れていた僕はとても泊まれることが嬉しく思った。
友樹のご家族が「いらっしゃい真広くん。」と暖かく迎えてくれたのがとても懐かしく感じられ、とても嬉しかった。
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友樹のご家族は大人数で友樹の従兄弟家族など他に3世帯の住人がいて一人っ子の僕にはとても賑やかに感じた。
そして山奥だったので夏であったがそこまで暑く感じられず、むしろ涼しいほどであった。
着いた初日は
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「久々に海行きたい!っていうか大学で磨いた話術で巧みにナンパして水着のチャンネー引っ掛けたい!!」
という馬鹿(友樹)の馬鹿な一言で、友樹と友樹の叔父さんと僕の3人で海に行った。
そして友樹のナンパが予想通り見事に失敗する様子を2人で見て笑い、適当に慰めた(笑)
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日が暮れると友樹の実家に戻り皆で夕食を作るお手伝いをして、長円卓を囲み友樹の祖母が振る舞う昔ながらの美味しい夕食に舌鼓を打ち、友樹の昔話などを聞き笑いそして食後には手持ち花火も皆で楽しんだ。
とても和やかな雰囲気が流れていて、
僕は「帰りたくない」と強く思った。
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「お前こんなとこが実家なんて羨ましいな」
「まぁ…格の違いかな?(キラーン」
「関係ないだろ(笑)」
なんて2人で笑って話していた。
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二日目は馬鹿の提案の中で最もまともな、
渓流釣りに出かけることになった。
まずは腹ごしらえということでまた友樹の祖母の手料理をご馳走になった。
食卓を囲んで渓流釣りに行く話をしていると常に可愛らしい笑顔を浮かべていた友樹の祖母の顔からいつもの笑顔が消え、
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「暗くなる前に戻ってくるんだよぉ。暗くなったら連れて行かれるかんねぇ。」
忠告してくれた。次の瞬間には再びが可愛らしい笑顔が戻っていた。
「何に連れて行かれるのか」と聞きたくなったが、
「本気にするなよ、怖がらせてるだけだ」
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と友樹耳打ちをされたので聞くのをやめた。
友樹曰く、昔からお決まりのように話していたそうだった。
友樹の実家から釣りのスポットまでは歩くことになった。
門で友樹の祖母と従兄弟が見送ってくれた。
真っ直ぐな一本道だったがだいたい1〜2時間は歩いただろう。
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僕らは釣りスポットへの道中、友樹の祖母に勧められたサンジンさまという神様の祠(?)に豊漁と安全を祈願していくことになった。
祠といっても道の脇にある岩壁の窪みに作られている小さなものだった。
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石碑のようなものには苔が生えていたが、お供え物はとても多く新しいものばかりだった。
友樹曰くここら辺の山の守り神らしく、ここらの人々はとても信仰してるらしい。
その神様は川魚のヤマメがお好きなのだとか…もっと友樹の祖母は話してくれたがあいにく忘れてしまった。
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友樹の実家から釣りスポットまでの道中何回か休憩を挟みながら進む道は徐々に緑が深くなり、道も舗装されていない道へと変わっていった。
渓流に着くと友樹は慣れた手つきで釣竿をセットして渡してくれた。
ここは名所だそうで、僕らの他にも数人がちらほらと釣りを楽しんでいる姿が伺えた。
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渓流釣りは面白いほど釣れた。ヤマメ、鮎、その他もろもろ魚には興味がないのでわからなかったが、まさに入れ食い状態だったと思う。
「女の子もこのくらい釣れればいいのに…」
という馬鹿の一言には僕は耳をくれずただひたすら渓流釣りに没頭した。
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どれだけ釣っていただろう。
気付くと辺りは橙色に染められていた。
まだ日が暮れていないというのに、さっきまでいた他の釣り人たちは皆 もういなくなっていた。
それに心細く感じた僕は
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「たくさん釣れたし、もう帰らない?」
という僕の一言に応じてゆっくり片付けを済ませた友樹と僕は渓流を後にした。
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帰る道を歩き始めて15分程度で辺りは漆黒の闇に閉ざされた。本当の暗闇。1m先の友樹の姿ですら目を凝らさないと見えない。基本足音でどこにいるかを探るほどだった。
そしてなぜか肌寒く感じられた。
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友樹もさすがに怖くなったのか、いつもうるさい友樹が余計にうるさくなっていた。
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「なぁ真広最近○○ちゃんとどうなの?♡」
「別に、毎日が楽しいですが。」
「そう…お母さん嬉しい♡」
「お前に育てられた覚えはない。」
「育てた覚えもなぁ〜い♡」
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こんな馬鹿な会話を続けて気を紛らわせながら歩いていた。
ふと手汗で釣り道具を落とし、拾うために立ち止まった瞬間、僕はあることに気付いた。
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今まで2人で歩いていたから気付かなかったが、明らかに僕らの他に足音が後ろから続いている。しかも、
「べちゃ…べちゃ…」
という濡れたような音がする。
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それに友樹も気づいたのか、2人とも無言で早足で歩き始めた。
ふと不意に
『暗くなる前に戻ってくるんだよぉ。暗くなったら連れて行かれるかんねぇ。』
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という友樹の祖母の声が頭の中でこだました。
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……怖い。
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…………怖い。
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友樹の祖母が言っていることがもし本当だとすれば、僕らは連れて行かれてしまう。
気づけば僕らは早足から一心不乱に走っていた。
それにもかかわらず、依然として足跡は聞こえる。むしろ近づいてきている。
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そして心なしか足音を発している人数は増えていってる気がした。いや、“人”数という表現は間違いかもしれない。
そして近づいたからわかることだが奴らは「ゔぅー」という低く小さな声を発していた。
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前が見えない暗闇の中 僕らはただひたすらに走った。
僕は追いかけてきているナニカとどれくらいの距離があるのか気になってしまい後ろを向いてしまった。
正直後ろを向いたのは後悔した。
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そこには10体くらいの青白く発光した真っ白な人の形をしたモノがうつ伏せになり顔だけをこちらに向けて、尺取り虫や芋虫のように身体をくねらせながらすごい勢いで追いかけている。顔の目に当たる部分には何もなくただ窪んでいただけだった。「ゔぅーゔぅー」「あぁーぎゃぁー」と低い音を口らしき窪みから発しながら。そして僕と(奴らに目はないが)目が合った瞬間、口が頬の部分まで裂けたように広がり笑った。笑ったんだ。
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僕は腰が抜けて走ることができなくなってしまい、その場に座り込んでしまった。僕が止まったことに気付いた友樹も僕の方、つまり友樹から見てナニカ達がいる方を向いた。
友樹もナニカを見てただ棒立ちをした。
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どんどん、ナニカ近づいてくる。
「「ゔぅーゔぅーゔぅーゔぅー」」
徐々に大きくなる声に僕はそこでもうダメだと思った。
得体の知れないナニカが迫ってきてる。
僕は目をつむった。
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すると、
「ゔぅーゔぅー」という声も足音もピタリと聞こえなくなり、やがて「ぎゃぁぁぁ」と声がした。
目を開けるととても眩しい光が目に入ってきた。とても暖かい光だった。
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それにナニカは恐れ、逃げていた。
そこからは記憶がない。
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僕は友樹と友樹の実家の庭先に倒れていたらしい。それを祖母が見つけ布団に寝かせた。
そこから二日間目を覚まさないで寝てたらしい。
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「あれはなんのか?」真っ先に友樹の祖母に聞くと、
「お腹空いたでしょう、まずは食べなさい。」
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と言われた。言われるまで気付かなかったがとてもお腹が空いていた。
友樹の祖母が作ってくれた料理はやっぱり美味しかった。
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食べ終わり友樹の祖母に聞くと、
「そりゃ、私にもわからない。ただね、サンジンさまが助けてくださったんだよ。」
と微笑み祖母も同じ体験をしたらしいということを話した。
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目をつむっていた時のことを聞くと友樹は、
「あの時アレが追いかけてきててもうダメだと思ったんだ。真広も囲まれてたし…でも壁から白い光が出てきて!女の人の形になって俺たちを包んだんだ!
それから俺は気を失って…」
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僕らはそれからサンジンさまの祠に行き、お礼を言った。
そして友樹の家族にも別れを告げて、友樹の実家を後にして、色々あった一生忘れないであろう夏休みは幕を閉じた。
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今となってはナニカの正体はわからないし、
本当にサンジンさまが助けてくれたのかはわからない。
ただ、一つ確かなことは僕は渓流釣りの魅力にとりつかれたということだ。
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だから今年も友樹の実家にお邪魔になり、友樹と釣りをしてきた帰りだ。今では釣りの腕は友樹を越すほどまでになった。
もちろんあれから昼過ぎには帰るようにしている。
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そして最終日の今日は帰りの道中 サンジンさまにこの日一番の大きいヤマメをお供えした。
目をつむり、合掌をする。木漏れ日があの時助けてくれた光のような暖かさだった。
作者ソラニン
初めましてソラニンというものです。
今回初投稿させていただきました。
未熟者で読みにくいかもしれませんが、
読んでいただけたら幸いです。