私の姉は四つ上で、27の時に亡くなった。
美人だったがどこか冷たい印象を持たせるような人で、実の姉妹なのに私はずっとあかの他人のように感じていた。
それは亡くなるまでの27年間、姉に憎まれ続けてきたからかもしれない。
姉は私に対してだけ言動が異常だった。
意味も理由もなく突然始まる暴力と暴言。
気に障るような事をしたわけでも言ったわけでもないのに、それは突然始まる。
普通に接している最中に豹変するというのではなく、私への接し方自体が暴力や暴言だった。
私の家は私と姉と母の女三人家族だったが、母に対してそういった言動をとった事は一度もない。
姉の友人などからもそんな話は聞いたことがない。
普段の姉は穏やかでのんびりとしていて、人に対して怒ったりする事はほとんどなかった。
母や友人と接しているときの姉は本当にごく普通だった。
私にだけ違う。
母や友人が一緒にいる時でさえ、私への言動はまったく変わらない。
状況が理解できず唖然とする友人や毎日必死で止めに入る母を尻目に、殴り蹴り罵倒し続ける。
ストレスのはけ口、気に入らないから辛くあたる、そんなものじゃなかった。
「〇〇のせいだ」「〇〇するな」「〇〇なんだよ」と何かしら理由を匂わすような言葉があったらあれがいけなかったんだ…と思えるが、姉はそうじゃない。
ただひたすら、「死ね」という言葉だけ。
それ以外の言葉をかけられた事はなかった。
少なくとも、私が覚えてるかぎりでは名前を呼ばれた記憶さえない。
そして暴力。
痣や傷跡が残るのはしょっちゅうで、殺されると何度も思った。
母に聞くと小さい頃から姉が私に話かけたりする場面など滅多に見たことなかったが、暴力をふるうようになったのは小学五〜六年の頃かららしい。
はじめは単に性格だと思ってたが徐々にエスカレートしていき私の身が心配になったため、病院に連れていったり姉と話し合ったり何とかしようといろいろ動き回ったものの、何も出来なかったし何もわからなかった。
私の話をしても姉は一切応じなかったからだ。
まるで「私に妹なんていないのに何言ってるの?」というような返答しかしない。
そのため、母は常に話しかけたり一緒に何かさせたりで姉を自分と過ごさせ、私はなるべく部屋から出ないようにして暮らしていた。
姉が眠っている時だけ、母は私と一緒にいてくれた。
それでも事が起こってしまった時の方が多かったし、入院するほどの暴力も何度もあったが、なぜか母の前では短時間で済むことがほとんどだったので、姉の視界に入った私が悪いと思うようになっていた。
姉にも私にも無力だと自分を責めている母に、これ以上私の分の苦労や心配はかけれなかった。
母に申し訳ないとわかっていながら、私と姉は本当に実の姉妹なの?と聞いてしまった事もあった。
私も母も心身共にしんどかったと思う。
そんな生活が長く続いたが、私が20の時に事情を知っている姉の友人が部屋を紹介してくれ、ついに姉と離れて暮らすことになる。
家を出てから母とはちょくちょく会ったり電話したりしていたが、姉とは一切接触していない。
姉も私の話をすることはなかったようだ。(母は住所や連絡先が知られないようにしながら私の近況などを話したりはしていたが、やはり無反応だったらしい。)
そうして私はやっと平穏な暮らしを手に入れた。
姉が亡くなったのは私が家を出てから三年後。
姉の死についてはあまり話せない。
というか、話そうとしてもうまく話せない。(異常な死に方だったとかいうわけではない。)
ひとまずその後起こった事を話す。
姉が亡くなってからしばらくは平穏に一人暮らしを満喫していた。
悪い言い方かもしれないが、何かから解放されたような…そんな気持ちだったと思う。
ざまあみろなんていう想いはないし、死んでしまったんだという悲しみはあったが、ともかく姉の事はもう考えないようにしたかった。
そうして普段どおりの日常に戻ったある時、カレンダーの27日に丸印がつけられているのに気が付いた。
私はつけた覚えはないし、誰かが来てつけていったのでもない。
そもそも何月であろうが27日に何の心当たりもない。
なんだっけ…?と不思議に思いながらも、あまり気にせずその時はすぐに忘れてしまった。
だが、その月が終わりしばらく過ごして気付くと、知らない間にまた27日に丸印がつけられていた。
その次もその次も、ふと見ると27日に丸印がついている。
初めてついた月から約一年、毎月続いた。
気味悪かったが、まさか誰かが侵入してやってるとも思えなかったし、ましてや心霊の類などとは夢にも思わず、結局放置するしかなかった。
それ以外に異変はなく、27日に何か起こったこともない。
とはいえ、万が一どっかの誰かが侵入してきてやってるとしたら困るので、一応母に相談することに。
ひととおり説明してみると母も27日という日付に特に心当たりはなく、「気持ち悪いわねぇ、警察に相談する?」という話になった。
それがいいかなぁと話し合ってると、ふと母がこうつぶやいた。
「ただ数字がっていうだけなら、あの子の歳よねぇ」
私は返事を返せなかった。
確かに姉は27で亡くなった。
しかし命日でも何でもなく、ただ27歳でというだけだ。
それに、姉はもういない。
私は霊的なものは信じていない。
私の動揺が見てとれたのか、母もそれ以上は何も言わず、とにかく身のまわりに十分気を付けるという事で話は終わった。
母も何か感じていたのかもしれない。
その後何ヵ月かそれは続いたが、ある時急に丸印はなくなった。
どういう事かさっぱりわからないし、何だったのかもわからない。
二ヵ月経っても三ヵ月経っても丸印が付くことなく月が終わる。
母の言葉で姉の存在を思い返すようになってから正直怖くなってきていただけに、ホッとしたのが一番の感想だった。
そのまま丸印がつかなくなってさらに数か月。
仕事から帰りお風呂に入ろうとドアを開けた瞬間、私は固まった。
風呂場の鏡一面、無数に27と書かれていた。
お風呂がわいたのを確認した時には間違いなく何もなかったはずだ。
余りの恐怖で震えてしまい、すぐに実家に帰り母に泣きついた。
何があったか尋ねる母に何も答える気になれず、その後すぐに部屋を引き払ってもらった。
姉の影を連想してしまった以上、もう怖くて仕方がなかった。
今は母と実家で暮らしている。
あれから現在までは何も起こっていない。
長文、わかりづらい文章で申し訳ない。
これが私の体験した出来事。
あれが姉の霊によるものだという確証はないし、そもそも霊的なものが存在するかどうかも私には証明できない。
ただ、姉の生前の言動、姉が亡くなってからの一連の現象、そして27という数字。
もしかしたら姉は何かに取り憑かれていて、その何かが私を憎んでいたのでは?
すべてはその何かの仕業?
最近そんな気がしてならない。
怖い話投稿:ホラーテラー 比奈代さん
作者怖話