自分が唯一体験した怖い話。
自分には小学校一年の時からの古い友達がいる。
恥ずかしい話、失恋してしまって落ち込んでいる自分を見兼ねて、彼が俺を車に乗せてドライブに連れていってくれた。
nextpage
つまらない未練話に友達は嫌がる素ぶりも見せずに相槌をうってくれた。
そのうちに少しずつ気が晴れてきて、ふと周りの景色を見た。
どうやらだいぶ山奥まで走ってきたようだ。
きついカーブに体が揺れる。
地元が田舎なので街灯もここまできたらほとんど見当たらない。情けない話、怖くなってきた。
nextpage
友達にどこへ向かっているのか、と尋ねると
「景色の良い展望台へ」
とのこと。話には聞いたことがあったので、相変わらず周りは真っ暗だが、恐怖は薄れていった。
nextpage
それから友達は少し車を走らせていると、黄色い簡素な柵の前で車を止めた。
「ここから先は歩きだから」
と、車から降りるよう言った。柵の向こうには竹林に挟まれた細い道があった。
こんな真っ暗な中、細い道を通るなんて怖くて仕方なかったが、これを我慢すれば展望台の景色が拝めると奮い立たせ、友達の後ろをついていった。
nextpage
暫く歩くが中々開けた場所へ辿り着かない。
心なしか友達のペースが早いように感じる。元々自分は歩くのが遅い方だがそれにしても早く感じる。
恐怖心から友達と距離を開けて歩きたくなかったので、必死で彼のスピードに合わせて歩いた。
少し坂になっている道を黙々と歩いていると、僅かだが違和感を感じた。
nextpage
暗闇の恐怖の中、違和感の正体を探ってみた。そして、後悔した。
音だ。足音がおかしいのだ。
友人と自分しかいないので、「ザッザッ。ザッザッ」という足音がするはず。
しかし足音は「ザッザッザ。ザッザッザ」に変わっていたのだ。
「(足音が、増えてる?)」
明らかに左の竹林から聞こえる。自分らに合わせるかのように足音が聞こえる。
猪であることを願ったが、獣の声らしきものは聞こえないし、何より歩調が違う。四本足の生き物がたてる音じゃない。
気づけば友人のペースは尋常じゃなく速くなっていた。
この時まで生まれてこの方、このような体験をした事がなく、まるで対処法がわからず、とにかく「聞こえない!聞こえない!早く着け早く着け!!」と呪文のように心の中で繰り返した。
nextpage
そのまま数分歩いたところでやっと開けた場所が見え、気づいたら足音は聞こえなくなっていた。
展望台の景色など楽しめるわけもなくゲンナリとしていると、友人がぽつっと語り出した。
「俺、霊が寄り付きやすい体質なんだって」
nextpage
彼の話によると、幼少より霊障に悩まされており、幾度かお祓いも受けているらしい。
十年来の付き合いだが、寝耳に水とはこのこだなと。
思えば信じられないくらいの馬鹿だったが、高校入学と共に人が変わったようにまともになっていった。それがお祓いを受けた時期と被っていて、自分の中で色々繋がるものがあった。
それを全て聞き終え、彼に一言物申した。
「じゃあなんでこんなこえーとこ連れてくんだよ!!」
nextpage
そんな彼も去年、結婚した。
友達曰く、
「古い友人がお前しかいない」
という理由で友人スピーチを任されたりした。
滞りなく式は進み、幸せそうな彼に自分の心もほっこりしていたところ、友達の弟がこっちのテーブルに寄ってきた。カメラ係りを請け負ったらしく、手にデジカメを持っていた。
自分の横の席にいた幼馴染に用があったみたいで、その幼馴染に写真を見せていた。
自分も、友達の幸せそうな姿を拝みたいと思い、身を乗り出して覗いてみた。
そこには、幸せそうな顔をした友達の奥さんの横に、
不自然に歪んだ、友人の顔が映っていた
作者shingo.sagamatsu