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「その山で鏡を見てはいけない」

中編3
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「その山で鏡を見てはいけない」

昔、家の近所の山に粗末な山小屋があって、そこにオナガさんって人が住んでいた。

めったに山から降りてこなくて、なんの仕事をしていたのか分からない。

オナガっていうのもどんな字か知らないし、もしかしたらオオナガだったかもしれない。

俺と友だちで、オナガさんの山小屋に遊びに行ったことがある。

その時、俺は「どうしてこんなところに住んでいるのか?」って意味のことを聞いた。

その時の話がスゲエ怖くて、しばらくは夜一人で寝れなかった。

オナガさんは、ちょっと前まで普通の家に住んでた。

家はちょっとした山持ちで、代々受け継いだ山がいくつかある。

そのうちの一つに、妙な言い伝えがあった。

「その山で鏡を見てはいけない」

いかにも曰くありげな口伝だったが、

オナガさんは、親父さんや山守をしている飯橋のじいさんに聞いたらしい。

ある時、その山の奥で木を切ることになって、

飯橋じいさんの孫でトシカズって人が、そこまで道を通すことになった。

土建屋で借りて来たパワーショベルで、山を切り開いて道にしていく。

その日、オナガさんは作業の様子を見に行った。

ちょうど例の山に差し掛かっていたらしい。

パワーショベルに乗っていたトシカズさんが、急に作業の手を止めた。

怪訝な顔でバックミラーを覗いている。

「…どないした?」

オナガさんが近付くと、トシカズさんはミラーを指差して言った。

「や、ここにね、何か変なモンが映っとるんですよ」

オナガさんがミラーを見ると、自分とトシカズさんの背後にポツンと白い点があった。

ジッと見つめいていると、僅かに動いている。

振り向いたが、近くにそんなモノは見当たらない。

「さっきから、ちょっとずつ近付いとるみたいなんですわ…」

気味が悪かったので、その日はそこで作業を切り上げ、二人で飲みに行った。

その日から、トシカズさんの様子がおかしくなった。

あきらかに何かに怯えている。

オナガさんも気付いていた。

家でも外でも、鏡を覗くたびに背後に見える白い点。

「あいつどんどん近付いてくるんですわ」

近付くにつれ、オナガさんにもソイツの姿がハッキリと見えてきた。

胎児のように白い皮膚、短い手足。

丸い頭には、切り裂いたかのように大きな口だけがついている。

見ためは人の口。まったく血の気のない白い唇が、しっかりと閉じられている。

トシカズさんは、もう作業ができないくらい精神的に参っていた。

「もう、すぐ後ろにおる…」

数日後トシカズさんが、閉じ篭った自宅の部屋で死んでいるのが見つかった。

後頭部に一口大の穴が開いていて、脳みそが全部無くなっていた。

「トシカズはあいつにやられたんや。あいつがおるのは鏡の中だけやない。

 ガラスや光る物にも写る。見るたびにどんどん近付いてくる…

 せやから俺は、こんな山小屋に住んでいるんや」

山小屋には、ガラスや光沢のある金物など、何かが写り込むようなものは何もなかった。

「…それでも、時々水面とかを見てしまうことがある。俺、もう半分食われとるんや。

 こないだ、とうとう口を開けよった。米粒みたいな歯がびっしり並んどったわ」

そう言って、オナガさんは腕まくりをして見せた。

手首の辺りに、細かい点の並んだ歯型があった。

それからしばらくして、オナガさんが死んだと聞いた。

死に様は分からなかった。

寝れない夜が、またしばらく続いた。

Concrete
コメント怖い
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山で鏡なんて見ないんじゃ?と思っていたら、そんなところに落とし穴が。これは家でも鏡を見られなくなりそうです。

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近づいてくる者の正体が知りたいですね。
何が目的なのか、そもそもなぜ鏡のような反射する物に映るのか気になります。

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