青い空
柔らかな日差し
小さな丘
桜の下に佇む彼女
絵になる
いつみても
最初に会ったのは2年前
絵を描きに外に出たは良いが、全く描きたいものが見つからない…
そんなこんなしているうちに、気がついたらあの丘に辿り着いていた
桜の下に女性が佇んでいる
透き通るような肌
細い手足
柔らかな桜と同じ淡いピンク色の頬
長く美しい黒髪
スッキリとした白いワンピース
空を仰ぐ彼女の儚げなその姿に思わず見とれてしまう
「すみません。絵を描いているのですが、モデルになってもらえませんか?」
彼女は驚いたようにこちらを見て、やがて微笑んで頷いてくれた
彼女と過ごす時間はとても楽しかった
優しくて、面白くて、よく笑う
「また明日も来ても良いですか?ここで、同じ時間に」
彼女と明日も会う約束を取り付け、弾むような足取りで帰路へついた
それから暇を見つけては彼女に会いに行った
彼女はいつでも桜の木の下にいて、楽しそうに話を聞いてくれる彼女に少しずつ惹かれていく毎日
でも、長くは続かなかった
桜が散り始めた頃
初めて彼女が悲しげな表情を見せた
もうすぐ会えなくなってしまうらしい
理由は、聞いても教えてくれなかった
桜の花が散って、彼女は姿を消した
あれから何度もあの場所へ行ってみたが、彼女が居ることはなかった
季節が過ぎ、再び桜の季節
懐かしさを胸に丘へと向かう
そこには彼女が空を仰いで佇んでいた
嬉しくなって駆け寄ると、彼女は驚いたような顔をし、やがて微笑んだ
「こんにちは。また、会えましたね」
彼女の困った顔を見るのは初めてだ…
去年のことを話し、絵も見せてみたが、彼女の記憶は全て消えたまま
「絵のモデルになってくれませんか?」
もう一度彼女を描き今回は隣に自分を描く
絵を彼女へプレゼントすると、嬉しそうに微笑んで受け取ってくれた
「また明日も来ても良いですか?ここで、同じ時間に」
去年と同じように約束をし、また暇を見つけては彼女に会いに行く
彼女との毎日はとても輝いているようだった
桜の花が散る頃、彼女はまた悲しげな表情を見せた
あぁ、また会えなくなるんだな…
こうなるのではないかとは思っていた
でも、今回はちゃんと理由を聞きたかった
………
結果から言えば、彼女はもう生きていなかった
生前、この丘の近くに住んでいたこと
桜の花が大好きだったこと
病気で亡くなってしまったこと
そして、亡くなったときに桜の木と一緒に骨の一部をこの場所へ埋めて貰ったこと
彼女は寂しそうな表情をしながら教えてくれた
彼女曰く、桜の木は人の魂を取り込むことがあるらしい
彼女は桜の花が咲く頃には桜の近くでのんびり過ごし、桜の花が散る頃に桜の木の中で再び春が来るまで長い眠りにつく
そして、起きる頃には生前の記憶しか残っていない
楽しくて、言うことが出来なかったと謝られてしまった
もう来ないでね、と泣きながら
そんな彼女を見て
何も、言えなかった
桜が散り、また彼女に会えなくなった
ゆっくりと時間をかけ、理解し、1つの決断をした
桜の季節
やはり彼女はそこにいた
いつもと違ったのは、なにかを熱心に見ていること
「すみません。絵を描いているのですが、モデルになってもらえませんか?」
彼女は驚いた顔をしてから、泣きそうな顔で嬉しそうに微笑み、熱心に見ていた紙を見せてきた
去年あげた絵
良かった…
絵が役にたつ時がきて
絵の裏には去年の思い出が彼女の文字で書かれていた
ポケットから買っておいた指輪を取り出す
青い空
柔らかな日差し
小さな丘
桜の下で
君と僕
作者榊
誰かの目に少しでも止まり、読んでいただけたら幸いです