今日は昔話をしよう
俺の家は両親が共働きで、祖父母も農業を営んでいた
だから1人で家にいることが多かったんだ
家はのんびりとした空気の流れる田舎にある
「裏の畑にいるなら、なんかあったら呼びなさい」
そう言われ、どこかから迷い込んできたいつもの野良猫とお昼寝をする
そんなある日
いつものように遊んでいると、ヒョコっと女の子が現れた
中学生くらいだろうか
「だあれ?」
こんな田舎だというのに見たことがない子だった
「沙希ってゆうの。ねぇ、一緒に遊ばない?」
それが彼女との出会いだ
それから彼女はちょこちょこ遊びに来るようになった
兄弟もいなかった俺にとって、とても身近な存在であり、俺は沙希姉と呼んで慕っていた
何年か経つと俺にも友達と呼べる相手が増え、外で遊ぶことが多くなった
沙希姉を独り占めしたい気持ちがなかった訳ではない
でも、友達とも沙希姉とも遊びたかった俺は皆に沙希姉を紹介した
沙希姉は、たちまち友達の中でも人気者になった
違和感を覚えたのはいつ頃だっただろうか?
いや、ずっとある違和感に気づかないようにしていただけかもしれない
「なぁ、俺らってだいぶ前から沙希姉と遊んでるよな」
「まぁ…そうだな。どうした?突然」
「ふと思ったんだが…なんで、見た目が全く変わらないんだ?」
あぁ…
なるほど
俺の感じていた違和感の正体はこれか
記憶の中の沙希姉は出会った頃も今も全く変化がない
「実は、沙希姉は幽霊とか!ハハハ、流石にそんなわけないよな!」
「幽霊…か…」
「おいおい、真に受けんなよ…。冗談だぜ?冗談」
友人は冗談と言ったが、俺は気がかりで仕方なかった
沙希姉が例え幽霊だとしても良かった
何年も一緒に居たんだ、怖いとも思わない
ただ、幽霊ってのはいつか成仏とかするもんだろ?
沙希姉がいつか突然消えてしまうかと思うと不安でならなかった
…気になってしかたがない
気づけば背丈も伸び、もう沙希姉と同じくらいになっている
俺は、沙希姉に話を切り出すことにした
「沙希姉」
「ん?なぁに?」
「沙希姉は…幽霊なのか?」
「…へ?なに言ってんの?」
ポカンとした表情が向けられる
「あ…いや、違うなら良いんだけど」
「幽霊って触れられないんじゃなかったっけ?ほら、私は触れられるよー!」
ケラケラ笑いながら頬をつねられる
痛い
そして近い…
「なに赤くなってるのよー」
「別に…」
ドキドキが伝わらないように必死に誤魔化す
「ま、いいや。今日はどこ行く?」
いや、待て…
幽霊じゃないとしたら、なんで…?
俺の疑問は解決していない
「…沙希姉」
「なぁに?」
「何か隠してることないか?」
「……何それ。今日なんか変だよ~?どうしたの?」
「俺、ずっと言えなかったんだけど…気になってたんだ。なんで、沙希姉は何年も同じ姿なの?」
「……あー…まいったね。そっかぁ、そうだよね。こんなに大きくなるような年月が経ってるんだもんね」
「やっぱり、何かあるの?」
「仕方ないな…。話さなきゃいけないことだし。驚くと思うけど、ちゃんときいてね」
「…わかった」
俺が答えると同時に沙希姉が目の前から消えた
「え…沙希姉…?」
何が起こったのか解らず辺りを見回す
「もー。下よ下!下を見て!」
そこには尻尾が3つに分かれた狐がちょこんと座っていた
「きつね…?」
「本当の姿はもっと大きいんだけどね。初めて見せるならこのくらいが良いでしょ。どう?かわいい?」
「…狐が自慢気にしているところなんて初めて見たよ」
「なにその反応。もう少しなんかないわけ?」
沙希姉は御立腹の様子
だがしかし、現実味のわかない話を目前に突き付けられて、どう反応していいのかわからないのが現実である
「つまり…沙希姉は狐?」
「そうよ。でも、ただの狐じゃなくて、おさき狐だけど」
「おさき狐…?」
「聞いたことない?まぁ、そうよね。私は、この家に住んでるのよ、何年も」
「俺の家に…?」
「そ。昔はいろんなものをあちこちから運んでくるとかで、祀られてたのよ?私がいると繁栄するの!」
「あちこちから…ってまさか盗んで…!?」
「そ。昔はね。今はもうそんなことしないわよ?怒られちゃうし」
いつの間にか人の姿に戻った沙希姉はテヘっと笑った
「昔は、いろんなものを集めてくると家が栄えて喜んでもらえて、それが嬉しくて頑張ってたんだけどねぇ」
「でも、盗むのは良くないよ」
「そうよね。だから、今は主人を守る役割に変えたのよ」
ニコッと笑って沙希姉が近づいてくる
「私に選ばれたこと、光栄に思っていいのよ?…さて、隠し事もなくなったし、これからもっと楽しくなりそう!」
ちょっとだけ不安を感じながら、沙希姉との新しい生活が始まった瞬間だった
沙希姉との思い出は沢山あるが、それはまた別の機会に
作者榊
沙希姉との始まりのお話