ある男の子が新しい町に引っ越してきた。
まだ小学一年生で、引っ越しの手伝いもせず近くの公園に遊びに行った。
公園にはブランコ、滑り台、砂場しかなく、寂しかった。
それでも十分な広さだった。
砂場に三十代くらいの女性が座っていた。
男の子は砂場で遊びたかったが、仕方なくブランコで待つことに。
しかし、いくら待っても砂場から出ない。
待ちくたびれた男の子は仕方なく話しかけた。
「僕も砂場で遊んでいい?」
「ええ、いいわよ。」
砂の団子やお城。
その女性も付き合ってくれた。
「ボク、作るの上手ね。」
「うん、得意なんだ。」
「ねぇ、お人形さん作らない?」
「いいよ。」
今度は女性が率先して作りだした。
かなり巨大な人形になりそうだった。
「おばさん、そんなに大きいの作るの?」
「そうよ、ボクくらいの大きさにしたいの。」
大量の砂を使った。
掘り進めるごとに鼠色だった砂がほんのり赤黒く・・・。
一時間ほどかかったろうか。
男の子と同じくらいの大きさの人形ができた。
「さぁ、これで仕上げよ。」
女性がバケツに用意していた糊を人形にかけた。
「おばさん、どうするの?」
「もちろん連れて帰るわ。」
砂人形は綺麗な女の子の形になった。
「ありがとね、ボク。もう遅いから帰りなさい。」
「うん。じゃぁね。」
砂場を出ようとしたその時。
「待ちなさい!!!」
女性に呼び止められる。
「ここに来なさい!」
砂場の上で服をはたかれた。
異常に神経質に、鬼の形相で。
「おばさん・・・?」
服についた砂は綺麗に落とされた。
「さぁ、これでいいわ。気をつけて帰ってね。」
さよならも言わずに全速力で帰った。
恐い、恐すぎる。
生まれて初めて見た恐ろしい顔gが何度もフラッシュバックしてくる。
無我夢中で走る中、ふとあるものが目に留まった。
さっき作ったのと同じ砂人形が大量に置かれた家がある!
よく見ると、男性が砂人形を綺麗に磨いている。
涙をこぼしながら。
一体ずつ、愛情をこめるように。
「ひっ!」
とてつもない恐怖。
先ほどの倍のスピードで自宅を目指した。
「ただいま~!」
玄関の明かりのおかげで恐怖が急激に薄れていく。
「あ、おかえり。片付けも終わってご飯も出来てるわよ。」
「うん。カレー?」
「あら、どうしたのその手?」
「えっ?」
ほんの少し赤黒くなった手。
何故か生温かく感じた。
「さ、手洗いしてきなさい。」
「は~い。」
話そうかどうか迷った。
たぶん変な顔をされるだろう。
でも、話して楽になりたい。
「ママ、さっきめっちゃ怖かったよ。」
「え?何が?」
「なんかね、ちょっと怖いおばさんと一緒におっきな砂の人形作ったの。帰るときに急に怒って砂をはたかれてね。」
「やだ、不審者かしら!なにもされなかった?」
「うん、けがもしてないよ。それでね、その砂人形と同じやつがいっぱい並んでる家があったの。おっきな女の子の形の砂人形。」
「どこのおうち?」
「えっと、公園の出口を右に行って4番目の家。」
「確か…、村上さんちね。」
「いつも人形あるの?」
「いや、そんなのないわ。お嬢ちゃんがいるはずよ。あんたと同い年ぐらいの。」
「そうなんだ。でね、おじちゃんがそのたくさん並んだ砂人形を磨いてるんだよ。光る泥団子みたいにさ。」
「へぇ、なんか気持ち悪いね。あそこの人は良く知らないけど近づかないほうがいいわ。今度から気をつけなさい。」
「うん、分かった。」
…。
数日後、このようなニュースが流れた。
「こちらは○○町の××公園です。ブルーシートがかけられ、警察が捜査を進めています。警察は近所に住む△△容疑者とその妻を殺人及び死体遺棄の疑いで逮捕しました。殺害されたのはこの夫婦の長女である□□ちゃん。殺害は故意ではなかったと供述しています。殺害後に事件発覚を恐れ、砂場に遺体を破棄したとみられています。なお、この夫婦は精神鑑定の必要があり…。」
事の真相はこうだ。
夫婦は誤って娘を殺害してしまった。
隠ぺいのために砂場に娘を埋めた。
精神的な負担があまりに大きく、おかしな思想に取り憑かれ、奇行が始まった。
そのうちの一つが砂人形。
愛する娘を取り戻したい。
これが砂人形を作るきっかけとなった。
娘の肉体を含んだ砂で人形を作る。
この作業を砂場から娘を回収し終えるまで続ける。
誰もいない公園。
人形ができる度に砂が減っていく。
今日も作り、磨き上げる。
砂に還った我が子を引き戻すため・・・。
作者大日本異端怪談師-3
前にあげたやつをちょいと作り変えました。
タイトルはDIR EN GREYの曲名から。