貞子「怖いよぉ、耕太~。」
耕太「・・・。」
俺は耕太。
普通の大学生だ。
今、貞子とホラー映画のDVDを見るという訳の分からない状況にいる。
一か月ほど前。
貞子はテレビの中からやって来た。
貞子「うっ、う、う~、死ね・・・。」
生気の無いギョロ目で俺を睨んだ。
画面から床を這ってくる。
何故か水浸しの身体で迫って来た。
殺されるのを覚悟して目をつむった。
貞子「いやんっ!」
ん?
目を開けると、尻丸出しの貞子がいた。
画面の枠に服が引っ掛かったようだ。
貞子「見ないでよ、エッチ!!」
・・・何これ?
貞子「今日は見逃してやるわ。ふん!」
白かった顔を真っ赤にしてテレビに帰って行った。
これが最初の出会い。
それから数日後。
昼過ぎにパソコンから出てきた。
貞子「覚悟しなさいよ、今度こそ・・・。」
耕太「あーっ!水浸しでパソコンに乗るなボケ!!」
貞子「あっ、ごめんなさい・・・。」
耕太「バカ、さっさと降りろ!」
貞子「ごめんなさ~い!」
キーボードをびちゃびちゃにして帰って行った。
彼女は何度もやって来た。
しかし、その度にヘマをして帰っていく。
彼女に対する恐怖心もすっかり薄れ、ちょっと話しかけてみようと思った。
今日は真夜中にテレビから出てきた。
予想通り、呪文を度忘れするというミスをして帰ろうとした。
耕太「ちょっと!」
貞子が恥ずかしそうに振り向く。
耕太「何でおれを殺しに来るんだ?聞かせてくれよ。」
貞子「ふん!教えてあげない。」
耕太「それじゃ困るんだよ。さぁ、こっちに来て・・・。」
彼女が水浸しであることに気付いた。
耕太「あ~、これである歩き回られたら困るな。風呂入ってこいよ。」
貞子「え?でも・・・。」
耕太「寒いだろ。着替えは用意するから。」
彼女を浴室に押し込み、ジャージを引っ張りだした。
三十分しっかり浸かって上がった。
貞子「ありがと。」
そういえば、彼女の顔を初めて見た。
長い髪に隠れていたその顔はとても綺麗だった。
耕太「おう、お茶でも入れるわ。」
貞子「コーヒー・・・。」
遠慮しろや。
急いでコーヒーを探し、シュガースティックと一緒に出してやった。
相当な甘党らしく、五本も入れた。
耕太「甘いの好きなの?」
貞子「嫌いよ。でもコーヒーは甘くないと。」
なんか難しい子だな。
ふと彼女の爪を見ると、ボロボロだった。
耕太「ん?どしたのその爪。」
貞子「見ないでよ、関係ないでしょ。」
俺は妹が置いていったネイルアートの道具の存在を思い出した。
なんとなく使い方は知っていた。
あまり凝ったものはできないので、何の模様もない付け爪をしてあげた。
耕太「ほら、とりあえず綺麗になったよ。」
貞子「ほんとだ。嬉しい。」
ちょっと心開いたかな。
耕太「さて、そろそろ聞かせてもらおうか。なんで俺を殺そうとするんだ?」
貞子「・・・。」
耕太「ゆっくりでいいから話してごらん。」
貞子「あたしね、みんなに嫌われてるの。」
滔々と語りだした。
貞子「あたしって他の人には無い不思議な力を持ってるの。
超能力よね。周りの人たちはあたしを避け、時には傷つけた。
当然よね。
こんな危ない力を持ってるんだから。
自分を守るにはこの力を使うしかなかった。
といっても当時は自覚していなかったの。
周りで不可解なことが起きてもあたしのせいじゃないって思ってた。
この力の存在を知らなかったのよ。
みんなが犯人捜しを始めていつも辿り着くのはこのあたし。
あんたがいるときだけ不幸なことが起きる、どっか行って。
そんな言葉を何度もかけられたわ。
そしてある日、みんなが一斉に襲いかかって来たの。
貞子を袋にしろって。
殴られ、蹴られ。
必死で逃げたわ。
とにかく家に帰ればお母さんとお父さんがいる。
そこまで頑張ろうって。
ぼや~っとした中で家に着いたら・・・。
ううっ・・・。」
急に泣き出した。
耕太「・・・。」
貞子「お父さんが・・・、鉈を振り回して襲ってきたの。すまん、貞子・・・って何度も言ってた。」
ダンマリの耕太。
貞子「そして頭に鉈が刺さって、井戸に落ちたの。
とても長い時間だったわ。
光が閉じていく瞬間は今でも覚えてる。
寒かった。
壁を掻き毟った。
井戸の中独りで考えた。
悪いのは誰って。
もう・・・、分からなくなって・・・。
誰でもいいって思ったの。
あたしにはこの力がある。
あたしが受けた痛みを味あわせてやりたい。
苦しんでるあたしのことを知ってほしいって・・・。」
耕太「それって終わりあるの?」
貞子「え?」
耕太「何の意味があるの?」
貞子「えっ、・・・意味は・・・。」
耕太「お前の気持ちは分からないでもないよ。
他の人間と違うお前を受け入れる気持ちがあってもいいと思う。
でも人にはやっぱり悪い部分っていうのがあってさ。
自分が可愛いっていうものあるけど、お前のことが怖かったんだ。
その存在を消すためにお前を殺そうとした。
普段自分が抱えている怒りも便乗させてたんだ。
お前のその力が自分で制御できないところで作用してたんなら百パーセント無罪だ。」
貞子「そうでしょ!?だからあたしはこうして・・・。」
耕太「いや、お前は間違ってる。
貞子「な・・・、何でよ!!」
耕太「誰も他人の罪の重さを勝手に決めることはできない。
必要以上に傷つけるのはダメだ。
それをやってしまえば、お前の存在自体が罪になる。」
貞子「こんなに痛めつけられたのよ。死んで当然じゃない。」
耕太「駄目だ!!それを許せばどうなる?
罪人の生きる権利は?
罪を償って違う道を生きようとする人間もいるんじゃないか?
お前を痛めつけたことを後悔している人がいたとしたら?
すまんといってお前を傷つけたお父さんは?」
貞子「あっ、ううっ・・。」
耕太「そして、俺みたいな関係のない人間を巻き込むのもいけない。
分かるよな?
人は自分のために、人のために生きようとする。
その芽を潰さないでくれ。」
貞子「私はどうしたら・・・。」
耕太「世の中にはいろんな人間がいる。
善人もいれば、腹の中に黒い虫をうじゃうじゃ飼っているようなやつもいる。
他人に人生を悪い方向に変えられるかもしれない。
最期がハッピーエンドじゃないかもしれない。
だからこそ前を向いて生きるんだよ。
それが人間らしさだと俺は思うし、そういう生き方をしてる人間は素敵だなって思うよ。
だから人を恨むのはやめろ。
そこに答えは無いし、お前が膿んでいくだけだ。」
貞子「・・・。」
耕太「生きる意味ってそれぞれ違うけどさ、何のために生きてきたかっていうふうに考えると分かりやすいんじゃない?それが自分の痛みの表現のためだっつったら悲しすぎるだろ。」
貞子「・・・うん。」
耕太「落ち着いてもう一回考えてみたらどうだ?」
貞子「あたしが間違ってたなんて・・・、信じられない。」
耕太「まぁ、心の整理が必要だろ。
しばらくここに居ろよ。
他の所にいたら鬱状態になるぞ。」
貞子はこの先にある「何か」を感じて暫く居候させてもらうことにした。
・・・。
というのが一ヶ月くらい前の話。
実際接してみると普通の女の子で、不思議な力でマジックを見せてくれたり、俺が教えた簡単な家事をやってくれたりする。
凍りついた生きる喜びを溶かしてあげたかった。
貞子「怖いよぉこのDVD・・・。」
内心、「お前の方が怖いわ。」と俺だった。
続く。
作者大日本異端怪談師-3
Vol.1書いてほったらかしてたやつ。
そのうちVol.2にいこうかな。