長編15
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かえるのうた

■シリーズ1 2

ある年末でのことです。

会社の先輩からこんな誘いを受けました。

「年末年始は実家に帰るんだけど、よかったらうちで一緒に年越ししない?おもしろい行事があるのよ。一回見せてあげたいな〜と思っててさ。」

その人は年齢も私より上でしたがとても気さくに接してくれる方で、入社した頃から何かと可愛がってくれていました。

仕事でもプライベートでも面倒見が良く、いろいろと連れていってもらったりしていたのですが、遠出の誘いはこれが初めてでした。

せっかくの帰省、ましてや年末年始にお邪魔するなんて悪いなという気持ちもありましたが、気にしないでおいでよ〜と言われ、私自身は実家に帰る予定もなかったので誘いを受けることにしました。

詳しく話を聞いてみると、12月の29〜31日に先輩の町では行事があるようで、年越しがてらそれを見においでという事でした。

会社は29日で終わり、休みに入るのは30日からです。

行事について尋ねてみると

「私の町で毎年やってるんだけどね〜町の人達の中から一人が選ばれて、その人のために行う行事なの。0時をまわってからやるから正確には30〜元旦までの三日間になるわね。」

「深夜に?そんな時間に何をするんですか?」

「それは見てからのお楽しみ。今年は私のお母さんが選ばれて、もう私もお父さんも大喜びでさ。」

「そうなんですか。よくわからないですけど、そんな時に私がいたらやっぱりお邪魔じゃないですか?」

「いいのいいの、うちの家族は気にしないから。のんびりしたとこだし気軽においでよ。まぁ休みは30日からだから初日のは見れないけどさ。」

具体的な内容はわからなかったものの、何だか興味をそそる話でした。

私がその行事について気になってきたのを察すると

「もし最初から見たいなら、29日仕事終わりにそのまま行くって事でもいいよ。あたしとしても最初から見せてあげたいしね。年一回しかないうえに、今年はやっとうちのお母さんが選ばれたからさ。」と言われました。

出来たらそうしたいとこでしたが、あまり甘えるのも悪いと思い結局30日に向かうことになりました。

先輩は少し残念そうでしたが了解してくれ、30日から1日まで私は先輩の実家で過ごすことになりました。

当日、朝9時頃から先輩の車で目的地へ向かいました。

先輩の実家がある町は、私達の住んでいるところから車で3時間ほどかかります。

道中はのんびりと会話しながら、どんな行事なんだろうとわくわくしていました。

しばらくして景色が変わってきた頃、先輩がこんな事を言いました。

「昨日、雨降ったよね。」

言葉のとおり、前日の29日は深夜まで雨が降っていました。

流れを切っての発言というわけでもなかったですし、何でもない話題なんですが、どこかに違和感があるような…そんな感じがしました。

「降りましたね。今日は止んでてよかったですよね。行事は雨が降っててもだいじょぶなんですか?」

「一応は平気。昨夜は予定どおり行われたよ。実はさぁ、あたし昨日から帰ってたからもう大変だったのよ。会社からそのまま実家向かって夜中にそれやって終わったらまたこっち戻ってきてあんた迎えに行って…。今すっごい眠い。」

そう言って大欠伸する先輩には、先ほど感じた妙な違和感はありませんでした。

そうしてまた何でもない会話をしながら進んでいき、やがて目的地に到着します。

ちょうど12時になるぐらいの時間だったと思います。

車を降り、先輩の実家の方へ目をやった瞬間、ぎょっとしました。

先輩の実家は古いお屋敷みたいな広々とした家だったんですが、家の前の庭に水溜まりがありました。

鯉を飼ってる池のような大きさのです。

自然に出来るものでもそれぐらい大きくなるのかもしれませんが、そこにあったのはどう見ても不自然なものに思えました。

泥水をはった風呂場のような、そんな感じだったのです。

これは一体…と戸惑っていると、「これも行事に関係してるのよ〜とりあえず落ちないように気を付けてね。結構深いから。」と言われ、不思議に思いながらもひとまず家の中へ案内してもらいました。

中へ入ると、奥から女の人が駆け寄ってきました。

「遅かったね。あっ、この子がお客さん?」

先輩はそうだよと答えながら私の方を向き、その女の人が母の姉だと教えてくれました。

私が挨拶を済ませると、昼食が出来てるからと奥の方に案内され、お昼をごちそうになりました。

食後には居間にいた先輩の父とも挨拶を交わし、先輩が昔使っていた2階の部屋に案内されました。

部屋に入って一息つき、ふと窓から外を眺めるとある事に気付きました。

隣近所の家が何軒か見えるのですが、庭に大きな穴のある家がいくつかありました。

水溜まりではなく、ぽっかりと大きな穴があいているのです。

気になって先輩に聞くと

「あぁ、あれは選ばれるのを待ってるお宅って事なの。穴がない家は一度家族の誰かが選ばれたか、今は必要ありませんって事ね。選ばれた家はさっき見たとおり、穴に水を入れて大きな水溜まりになるの。選ばれた人は大変なのよね〜お母さんも今準備中だからうちにいないのよ。」

という事でした。

今思えば、この時から何だかおかしな空気が漂っていたような気がします。

先輩の説明を聞いても、何が行われるのか全く分からない。

当初はお祭り気分で楽しめるような行事だとばかり思っていたのが、何か異様なもののように感じ始めていました。

とはいえ、そんな失礼な事を言うわけにもいかず、私の考えすぎであることを願うばかりでした。

その日は行事が始まる時間までのんびりしてようという事で、前日ほとんど寝てなかった先輩は寝てしまい、私は先輩の叔母さんと話したりして過ごしました。

夜になって夕飯やお風呂を済ませ、あとは行事が始まるのをじっと待つだけとなりました。

この間、先輩のお母さんの姿は一度も見ていません。

11時を過ぎた頃、事態が動きだしました。

四人でたわいもない話をしていたところ、電話がなり叔母さんが出ました。

10分ほど話して電話を切り、先輩と先輩の父には「そろそろ用意だから行っておいで」と

私には「〇〇ちゃんはここにいよっか。私も一緒にいるから。」と言いました。

何も分からなかった私は「はい」と答えるしかなかったです。

すると、先輩がムッとしたような表情で叔母さんに近付いていきました。

そしてなぜか険悪なムードになり、突然二人の言い合いが始まりました。

「叔母さん、昨日も家に残ってたよね。なんで?」

「何年も前からさんざん言い続けてるでしょう?私は認めてない。どうしてもやるならあんた達だけでやりなさい…って。」

「やっとお母さんが選ばれたのにまだそんな事言うわけ?叔母さんだってしてもらったくせに。今日だってお母さんはずっと準備してるのに。」

「私はあんた達とは違うの。いいから早く行きなさい。」

私は状況が飲み込めずにおろおろするしかなく、昼間の不安がますます募っていきました。

しばらく二人の言い合いは続いていたのですが、先輩が時計を見て時間を気にしたのか口を閉じ、言い合いは終わりました。

黙ってみていた先輩の父は途中で先に出ていってしまい、苛立った様子の先輩はばたばたと出かける支度をし、玄関へ向かいました。

「昨日より気合い入るわ〜これから何があるか、しっかり見ててよ!」

私にそう言うと先輩は出ていきました。

先輩の姿が見えなくなったその瞬間、いきなり叔母さんが玄関の鍵を急いで閉め、私の手を掴んで居間へ戻りました。

そして私の顔を見つめ、神妙な面持ちで話し始めました。

「〇〇ちゃん、今から私が話す事をよく聞いて。もう0時をまわったわね。この後1時になったら、ある事が始まるわ。このままだと、あなたは犠牲者になる。」

思わぬ言葉でした。

「えっ?…おっしゃってる意味が分かりません。どういう事なんですか?」

「詳しくは後で話すから!とにかく、今は解決するための話をするわ。こうなってしまった以上、あなたはその行事を見なければいけないの。1時になったら2階に行って、部屋の窓から外を見なさい。何があっても、最後まで見なきゃダメよ。ただし、声をかけたりしてはダメ。ただ見て、聞くだけでいいの。」

「聞く?聞くって何をですか?一体何なんですか?」

「歌よ。あの子達が歌う歌を聞くの。必ず最後まで聞かなきゃダメよ。耳を塞いだりしないで最後まで。いいわね?」

もう何が何だか分からず、泣き出したい気持ちで一杯でした。

何かとんでもない事に巻き込まれてしまったのでは、どうしたらいいのか、と頭がぐるぐるしていました。

叔母さんは私の頭をそっと撫でながら、「大丈夫」と言ってくれましたが、何を信じていいのか分かりませんでした。

しかし、その間にもどんどん時間は迫ってくる。

結局、叔母さんに言われたとおりにするしかありませんでした。

時間が過ぎていくにつれ、私の心臓は破裂しそうな程バクバクしていました。

どうしよう…どうしよう…

そうこうしている内に1時が近付き、叔母さんに2階へ行くように促されました。

一緒に来てくれませんかとお願いしましたが、「私はここにいるから、歌が終わったらすぐに降りてらっしゃい。くれぐれもさっき言ったことをちゃんと守るようにね。」

が答えでした。

さぁ…と背中を押され、逃げ出したい気持ちで2階へ上がり、昼間にいた部屋へ入りました。

でも、窓の外を見ようとする事が出来ず、ただうずくまって震えていました。

もうやだ

怖い

それだけでした。

5分…10分…

どれくらいそうしてうずくまっていたかは覚えていません。

とても長い長い時間に思えました。

ふと、何かが聞こえてきている事に気付きました。

話し声?叫び声?

何かが聞こえる。

私は無意識に窓に近づき、外を見ました。

窓の外、あの水溜まりの周りにいつのまにか大勢の人が集まっていました。

子供も大人も、男も女も。

十代ぐらいの子や五〜六歳ぐらいの子、熟年の方や高齢者の方…20人ぐらい、もっといたかもしれません。

その全員が、さっきまでずっと雨にでも打たれていたかのように、服も体もずぶ濡れでした。

ピクリとも動かず、全員が水溜まりを見つめています。

そして、何かを話している…?

怖さで固まったままその光景を見ていると、次第にはっきりと何かが聞こえてくるようになりました。

不気味に響くその声にすぐにでも耳を塞いでしまいたかったですが、叔母さんの言葉を信じ、必死で耐えていました。

やがて、それが何なのかがわかりました。

歌です。

叔母さんの言っていたとおり、確かに歌を歌っているように聞こえました。

何人もの声が入り交じり、気味の悪いメロディーで、ノイズのように頭に響いてくるのです。

何と言っているのか、聞こえたままの歌詞はこうでした。

かえれぬこはどこか

かえれぬこはいけのなか

かえれぬこはだれか

かえれぬこは〇〇〇

(誰かの名前?)

かえるのこはどこか

かえるのこはいけのそと

かえるのこはだれか

かえるのこは〇〇〇

(こっちは私の名前に聞こえた)

かえれぬこはどうしてる

かえれぬこはないている

かえるのこはどうしてる

かえるのこはないている

この歌詞が二度繰り返されました。

全員がずぶ濡れで水溜まりを見つめたままで歌っていました。

誰も大きな声を出しているような感じには見えず、私のいる部屋ともそれなりに距離があるはずなのに、その歌ははっきりと聞こえていました。

本当に例えようのない恐怖でした。

二度繰り返される間、ただがたがたと震えながらその光景を見つめ、その歌を聞き続けていました。

■シリーズ1 2

■シリーズ1 2

二度目の歌が終わった途端、静寂に包まれると同時に一人が顔を上げ、私の方を見ました。

それは満面の笑みを浮かべた先輩でした。

さっきまではあまりの恐怖で気付きませんでしたが、よく見ると先輩の父もそこにいました。

ただ一人、私を見上げ微笑んでいる先輩に、私は何の反応も示せませんでした。

しばらくそのままでいると、突然そっぽを向き、どこかへ歩いていってしまいました。

すると、周りの人達も一斉に動きだし、ぞろぞろと先輩の後へ続いていきました。

終わったんだ…

私はガクンとその場に座り込み、茫然としていました。

早く叔母さんのとこに戻りたい、でも体が動かない。

頭がぼーっとなり、意識を失いそうにフラフラとしていたところで、叔母さんが2階に上がってきてくれたのです。

「終わったね。怖かったでしょう。よく耐えたね。もう大丈夫よ。もう大丈夫。」

そう言いながら叔母さんに抱き締められ、私はせきをきったように泣きだしてしまいました。

何を思えばいいのか、本当に分かりませんでした。

少しして落ち着いた私は、叔母さんに抱えられながら居間に戻りました。

時間はもう2時を過ぎていました。

時間を確認すると

「〇〇ちゃん、ホッとしている時間はないの。あの子やあの子のお父さんは今日はもうここには戻ってこないけど、さっきのはもう一度行われるわ。」

「…えっ…?」

「今度は3時に。歌の内容もさっきとは少し違うものになるの。ここでぐずぐずしていると、またあの子達が水溜まりに集まってくるわ。そうしたらもう取り返しがつかなくなる。」

「そんな、どうしたらいいんですか?私はどうしたら」

「落ち着いて。今から私の家に行くわ。この町を出て少し行ったとこにあるから。でも、あなたが持ってきたものとかは諦めてちょうだい。持ち帰るとかえって危険だからね。詳しい話はそれからにしましょう。さぁ、すぐ行くわよ。」

言われるままに私と叔母さんは家を飛び出し、そこから少し離れた空き地にとめられていた叔母さんの車に乗り込み、その町を後にしました。

どこを走っても同じ景色に見え、迷路から抜け出そうとしているような気分でした。

1時間ぐらい走るとようやく叔母さんの家に着きました。

中に入り、ある部屋に案内されたのですが、その部屋の中を見て再び恐怖が全身に広がりました。

卓袱台しかないその部屋の壁一面、天井にまでお札がびっしりと貼られていたのです。

異常としか思えませんでした。

もしかして、私は騙されているのでは…

叔母さんも何かとんでもない事に加担している一人?

そんな考えが頭をよぎりました。

次々と意味の分からない状況が続き、自分以外の者に対して不信感が募っていたのかも知れません。

そんな私の心を見透かすように、叔母さんは言いました。

「いろいろと思うことはあるでしょうし、恐怖もあるでしょうけど、この部屋でなきゃ話は出来ないのよ。ごめんね。我慢してね。」叔母さんは私をゆっくりと卓袱台の前に座らせ、自分は真向いに座りました。

そして、話してくれました。

ここからは叔母さんの話を中心に書きます。ほぼ、そのままです。

「何から話せばいいのかしらね…〇〇ちゃんはそもそもあの子から何て聞いて、どうしてあの町へ来たの?」

「毎年おもしろい行事があるから、見に来ないかって誘われたんです。町の中から一人が選ばれて、その人のために行われるものだって聞きました。それで今年はお母さんが選ばれた…って。」

「期間は三日間で、今日は二日目っていうのは聞いた?初日から来れないかって誘われなかった?」

「聞きました。初日から見せてあげたいからそうしようかっていう話もあったんですけど、私が断ったんです。あまりお世話になるのも悪いと思ったので…」

「そっか。あの子があなたに言ったことは全部そのままね。あれは毎年選ばれた人のために行われるもので、今年はあの子の母親が選ばれた。一日目から見せたいと言ったのは、特別な意味があったから。」

「どういう事ですか?」

「〇〇ちゃん、今日一度でもあの子の母親の姿見た?見てないわよね?それどころか、どこで何をしてるのかもあの子は具体的に話さなかったでしょう?当たり前なのよ。あの子の母親、つまり私の妹だけど、死んでるんだから。何年も前にね。」

「…えっ?…」

「あの子が学生の頃だったから、もうずいぶん前よ。だから、あなたが話を聞いた時も最初からあの子の母親はいなかったって事。」

「そんな、だって…それじゃ選ばれたっていうのは何なんですか?さっきの事は何なんですか?」

「あれは死人を生き返らせるためのもの。選ばれたというのは、生き返るチャンスを得たという事なの。毎年、死んだ人間の中から一人がそのチャンスを得られる。ただし、それを家族が望んでいなければダメ。望む場合は庭とかに大きな穴を掘って、その意志を示すの。」

「選ばれた場合、知らない間に穴に水が溜まっていって、大きな水溜まりが出来るの。これは1月2日から12月1までの間、時間をかけて起こるわ。それによって選ばれた者の家族は29〜31日(30〜1日)の三日間、さっきのあれを行う。そして1月2日から水がなくなり、また時間をかけて別の人が選ばれるのよ。」

「さっき、歌を聞いたわよね?最後まで聞いたわよね?どんな内容だったか言ってみてくれる?」

前述の歌詞を叔母さんに伝えました。

叔母さんの話ではこうなるそうです。

かえれぬ子はどこか

かえれぬ子は池の中

かえれぬ子はだれか

かえれぬ子は〇〇〇

(選ばれた死人の名前)

かえるの子はどこか

かえるの子は池の外

かえるの子はだれか

かえるの子は〇〇〇

(犠牲にする者の名前)

かえれぬ子はどうしてる

かえれぬ子は泣いている

かえるの子はどうしてる

かえるの子は鳴いている

「選ばれた死人を生き返らせるには、犠牲とする誰かに三日間歌を聞かせなきゃいけない。あの子が初日から見せたいと言ったのはそのためよ。歌は1時から2時、3時から4時の間でそれぞれ内容が変わり、各2回ずつ歌われる。三日間で6つの内容の歌が計12回歌われるというわけ。さっきあなたが聞いたのは3つ目の歌ね。」

「6つ目12回目の最後の歌を聞かせた後、その人をあの水溜まりに突き落とすの。はい上がってくるのはその人ではなく、選ばれた死人。犠牲になった者は二度と帰ってこないわ。そうやって、生きていた誰かの代わりに死んだ誰かが戻ってくるのよ。」

「といっても、今の人達は弔いのつもりで形だけ行う事がほとんど。ここ何年かで本当に生き返らせようとしたのは今回だけ。というより、あの子だけといった方が正しいかもね。あの子は母親に固執してる。何年経っても断ち切れないでいるの。」

「母親が選ばれたと分かった時から、あなたの話が出てたわ。どうしてあなたにしたのかは分からないけど、あの子はあなたを犠牲にして母親を生き返らせるつもりだった。本来なら、二日目に来たという時点でこれは成立しないはずだったのよ。三日間のどれが欠けてもダメだからね。でも、雨が降ったのがいけなかったわね。」

「歌も含め、これらの事はかえるのうたって呼ばれてるわ。元は昔から祀られている何かに関係するものなの。死人を生き返らせるなんてぐらいだから、霊とかそんな次元じゃないのかもね。その何かは雨を好むって伝えられてる。三日間のうち、一日でも雨が降っている中でかえるのうたを行うと…」

(ここだけはぐらかしてました。)

「とにかく昨日雨が降った事で、あなたが一日目にいなかったというのは意味を成さなくなったの。本当なら、事が済んだ三日目に現われるはずのあの子の母親が、昨日の時点であの水溜まりにいたからね。あなたが最初に見た時も、さっきの歌の時も、水溜まりからじっとあなたを見つめていたのよ。お母さんが準備してるっていうのは、そういう意味だったの。」

「たぶん、これからもあの子は諦めないわね。またいつか選ばれるのを待ち続ける。だから、あの家の水溜まりの穴が無くなる事はないでしょうね。」

ここでかえるのうたの話は終わりました。

話を聞いた事である疑問が浮かびましたが、聞けませんでした。

もしそうだったら…正気でいられないかもしれない。

そう思ったからです。

この夜は叔母さんの家に泊めてもらい、朝になって私の家まで送ってもらいました。

別れる際、叔母さんに言われました。

「明日から新年だけど、その一年間は雨に濡れないようにしなさい。雨の日は外出自体控えたほうがいいわ。生活は大変になるでしょうけど、必ず守ってね。その一年を過ぎれば、もう大丈夫だから。もし、どうしても何か心配な事があったら、私のところにおいで。怖い思いさせて本当にごめんね。元気でね。」

休みが明けた後、しばらく先輩は会社に出てきませんでした。

「お母さんが亡くなった」と連絡してきたそうです。

私はその年に会社を辞めました。

叔母さんに忠告されたとおり、雨の日には一切外に出なかったので、続けられなかったんです。

突然雨が降るかもわからないので、その一年間は実家で引きこもりでした。

なお、私が辞めるのと入れ違いで先輩は復帰なされて、今もその会社に勤めています。

とても会う気にはなれませんでした。

今、私は普通に暮らしてます。

■シリーズ1 2

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
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初めてこの話を読んだ時は、衝撃でした。
実話ではないと思いたいのですが、
私たちの知らないところで、土着信仰と背中合わせのように伝承されている「闇の風習」があるように
思います。

今生きているの自分は、既に亡くなった誰かの代わりだとしたら・・・・・。、
考えるのは止めよう!

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