『パンドラ』を読んでいたら、ふと蘇ってきた自分の幼い頃の記憶。
我が家には昔、どでかい三面鏡があった。母の嫁入り道具だったのか渋い木目調の造りで高そうに見えた。
子供の頃の私は極端に怖がりだったから、いろんな角度から母の顔を映す三面鏡をとてもコワイ物だと認識していた気がする。
さらに、当時の女性の化粧はやたら口紅の色が濃く、母の真っ赤に塗られた唇が苦手だったのも怖さの一因だったかもしれない。
そんな訳で、母が側にいない時は鏡には近付かなかった。
私には大のお気に入りにしていたポーチがある。
叔母さんに貰った物だったか、可愛い絵柄が付いていてとても大事にしていた。
それをきちんとしまえる場所が欲しくて、母にお願いしたら
『鏡の引出しにしまいなさいよ』
と言われてしまったのだった。
他に良い保管場所が見つからず、私は渋々、大事なポーチを鏡台の引出しに納めた。引出しの取っ手にはキラキラ光る装飾が施してあったから、その効果で私のポーチまで輝いて見えて、異常に嬉しかったのを覚えている。
母が側にいなくても、鏡に近付けるようになった頃、鏡台のある部屋で一人遊んでいたら、なんだかヘ〜ンなイヤ〜な臭いが鼻についた。
クンクン鼻をならして臭いの元を探していると鏡台の所までたどり着いた。
鏡の前にはフタ付きの小さなイスが置いてある。
フタは少しだけ浮いていた。
怖がりの私のはずが、その時は
『どうしてもフタの中が見たいッッ!!』
という好奇心に負けてしまい、恐る恐るイスのフタを持ち上げた………。
『ワァーーーーーンッッ!!!』
激しい泣き声を聞いて、台所から母がすっ飛んで来た。
フタの中を覗き込んで母は大笑いした。
『ケイちゃ〜ん、これママのかつらよ。真っ黒でフサフサだからびっくりしちゃったのォ〜!?』
母がかつらを付けている所なんて見た事がない!
独身時代の物だったのだろうか…?
ぐっしょり涙で濡れた手で、私は愛するポーチを鏡台から引き出した。
私なりの動揺を静める手段だったんだと思う。
…………?
ポーチが小さく膨らんでいる。(中身は空のはずだけど?)そして、異様にクサい……。
またしても、私は恐る恐る開くハメになった。
……………。
↑のとおり、正に絶句。
中には死んだカブトムシが一匹入っていた。
私は昆虫が大大大嫌いだった。
そして、また激しく号泣した。
さすがに母もカブトムシには相当驚いている様子。
母も父も、私が宝物のようにポーチを大切にしているのを知っていて、まさか冗談でカブトムシの死体を入れたとは100%思えない。
絶対有り得ない。
鏡台なんかにしまったせいで、愛しのポーチは汚されてしまった…と私は再び鏡台が嫌いになった。
(鏡台にもカブトムシにも失礼な話だが……)
これ、ネタじゃなく実話です。あまりに不気味過ぎて、気持ちの悪い思い出です。
ちなみにあれだけ愛したポーチとはすぐサヨナラしました……。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話