高校時代に体験した出来事です
当時、私は実家を離れ県外の高校に学生寮から通っていた
この体験は寮生活で体験した出来事です
その日は朝から何故か気が冴えず、何らかの理由を付けて学校を休もうとしていたのですが、寮長がとても厳しく、少々の事では学校を休ませて貰えるとは思えませんでした
そこで私が思い付いた事
それは部屋の押入れの中で布団に潜り込み、登校したと見せかけると言うものだった
朝食を済ませ、鞄と靴を押入れにバレない様に隠し自分も布団の中に
もしも押入れの中を開けられても絶対にそこに隠れている事を気付かれないように
“完璧だ”
11月中旬
布団の中は次第に暖かくなりいつの間にか私は深い眠りに就いた
どれ位時間が過ぎただろう
私は『ガタッ』と言う物音で目が覚めた
まだ虚ろな意識の中、私は息を止め耳を音のした方へと集中した
暫くすると『カチャ』と部屋のドアを開ける音がした
“まさか、寮長…”
布団に埋もれていた私でしたが
妙に押入れの外の物音をはっきりと聞き取る事が出来た
“やばい事になったな ”
私は万が一見つかった時の弁明を考えながらも外の気配に集中した
『サッ、サッ、サッ』
畳の上をゆっくりと、ゆっくりと移動する様な気配を感じた
外の〈それ〉は押入れの前を通り過ぎ窓の方へと進んで行った
“寮長じゃない”
身長190、体重90キロ越えの寮長の動きとは思えぬ〈それ〉の動く気配に私は一瞬身が震えた
“じゃあ、誰なんだ?”
私は外の様子が気になって仕方がなかった
暫しの沈黙の後、〈それ〉は窓から部屋の入口に向かい移動を始めた
ちょうど押入れの前を通り過ぎ様とした時、何か聞こえた様な気がした
それは『音』では無く『声』だった
その『声』は押入れの前で何度も、何度も囁く様に続けられた
恐怖と言う感情がどんどんと押し寄せて来るのが、手のひらを滲ませる汗が物語っていた
その『声』が止んだ
私は外の〈それ〉に神経を集中させた
〈それ〉は動き始めた
部屋のドアに向かいゆっくりと、ゆっくりと
“出て行ってくれ”
私が強く目をつぶり息を潜めながらそう祈った次の瞬間
『コンコン、コンコン』と、押入れの戸を叩く音がした
“うっ…”
私は押入れの戸を何者かが叩く音に思わず声を発してしまった
そして再び
『コン、……コン…』
“気付かれてしまったかもしれない…”
私はこれまで以上に息を潜ませ、止めようも無く襲いかかる恐怖感に身を震わせた
「…ど…に……た…の…」
すると今度は又何か呟く声が、内容は分からないのだが人の声と言う事は確かだった
それは女性の声…
その声は弱々しくもはっきりと、押入れの戸を隔てたすぐ側から聞こえてきた
“勘弁してくれよ、頼むから消えてくれ…”
まだ聞こえてくる押入れの外の声に震えながら必死に祈った
と、その声がパタリと止んだ
安堵感と、この先の展開への恐怖心とが混じり合う中私は息を殺し続けた
すると
『サッ、サッ、サッ』
押入れの外の〈それ〉が動くのを感じた
〈それ〉は部屋の出口へ向かい、ゆっくりと、ゆっくりと移動を始めた
そして辺りは静寂に包まれた
“終わった…”
私は暫くの間、恐怖の余韻で身動きが取れずにいた
平日の寮は思いの外静まり返っていた
元々、少し山手に入った所に建てられている事も有り、道路を行き交う車の音や子連れの奥さん達の話し声なども聞こえる事も無く
本当に静かだった
どれ位時間が経っただろうか
大分と気持ちも落ち着きを取り戻し、外の様子が気になり始めた
今がいったい何時なのかも知りたかった事と、それに何と言っても凄く喉が渇いて仕形がなかった事も有り、私は思い切って押入れから出る決意をした
“大丈夫、大丈夫…”
何度も自分に言い聞かせながら、押入れの戸を少しずつ、少しずつ開けた
まだ恐怖感の残る私は、目をつぶったままだった
そして意を決した私は、そっと目を開けた
“えっ!”
開けた5センチ程の戸の隙間から私が見た物
それはとても、とても白く細い足だった
そして、その足は真っ直ぐに私の居る押入れの方へと向いていた
無意識のうちに私は目線を上に移した
“うわぁっ!!”
そこには、戸の隙間を覗き込む2つの目が上に、下にまるで何かを探しているかの様に動いていた
そして、ついに私はその目と目線が交じりあった
「○○○かい?」
薄れ行く意識の中で、私は〈それ〉が言った名前を不思議な位鮮明に頭に焼き付けたのだった
その後、3年の月日が経ち、昔あの寮でイジメを苦に自殺した学生の事、そして弔いに訪れた学生の母親が後追い自殺をした事実を知りました
死んだ後も尚、まだ我が子に会う事の出来ぬ母親の霊だったのでしょうか
今でも街であの日聞いた名前を呼ぶ声を聞くと、思わず立ち止まり悲しい気持ちになります
長文にお付き合い頂き、ありがとうございました
怖い話投稿:ホラーテラー カナルさん
作者怖話