ある蒸し暑い晩、
友人と2人でドライブをしていた時の話だ。
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僕は助手席に座り、友人が運転する横でぼんやりと流れていく景色を眺めていた。
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「あっ」
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shake
友人が何かに気付いたように声をあげ、急にハンドルを右に切った。
道路上の何かを避けるように。
そして友人は側道に車を止め、後ろを振り返った。僕もつられて振り返った。
しかし何もない。
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友人はまだ不安げに後ろをにらんでいる。
「おい、どうしたんだ?」
と僕は聞いた。「何か落ちてたか?」
「え? お前気づかなかったのかよ。女の人が倒れてたじゃないか」と友人が答えた。
「本当か」あわててもう一度後ろを見てみる。
…やはり誰も倒れているようには見えない。
だが、もしも本当に人が倒れていたら大変だ。
友人と一緒に車を出て、女性が倒れていたという所を確かめに行くことにした。
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「誰もいないじゃないか」
僕が話しかけると、友人は、なるほどといった表情で、
「戻ろう」と僕に言った。
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車は再び発進し、友人はまた黙ってハンドルを握っている。
納得がいかない僕は、「何なんだよ?」と聞いた。
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「俺は幽霊が見えるんだよ。日常的にね」
友人は平然とした顔で答えた。
「普通の人に紛れて、当たり前のようにそこにいるからね。違いがわからないんだよ。
幽霊だって昼間の公園のベンチに座ってるし、電車にも乗る。中には倒れたまま動かないやつもいる。
今のだってそうさ。多分あれもずーっとあそこで倒れたままのやつなんだろう。あそこで死んじゃったのかもな」
僕は何も答えられないまま、目的地に着いた。
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それからもその友人の車に乗ることがあったが、
友人はたびたび、僕の見えない何かを避けている。
作者井上-2
#gp2015
やや脚色していますが、実際にあったことです。