短編2
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唇を噛む女

昔、付き合っていた女は会う度に

「あなたがいないと生きていけない」とか

「死んでも愛し続けるよ」とか言う

良く言えば情の深い女、悪く言えば重たい女だった。

顔もスタイルも普通の女だったが、普通ではない癖がひとつあった。

キスする時、軽く俺の唇を噛む。

すごく嬉しい事があったりすると、かなり強く噛むので俺は度々痛い思いをした。

それで血がにじむと

「私が治してあげるね」と言って舌で丁寧に血を舐めていた。

「もういいよ」と言うと「うん」と言って顔を離して

嬉しそうな顔して言った。

「これで私とあなたの血が混ざったから、いつまでも一緒にいられるよ」

その女とは別れたとは言えないかも知れない。

窮屈に思うようになった俺が行方をくらますように逃げただけだから。

昨日、その女の夢を見た。

夢だったと思う。

真っ白な部屋で寝ていた俺は足元に重さを感じて起きた。

起きたが、まぶたは開けられなかった。

重い感じは膝、太股と上がって来た。

俺は身体を動かせずにいた、動かす必要もなかった。

その重さから暖かい体温と柔らかい気持ちよさを感じていたから。

腹部、胸と上がって来た時、懐かしい匂いがした。

そして全身で重さを感じた時。

「やっと会えたね」

懐かしい、その声は確かに、その女だった。

俺が口を開くのを、遮るように唇に、その女の唇を感じた。

朝、起きて鏡を見た俺は女が今夜も来る事を確信した。

なぜなら俺の唇には、噛んだ跡が有り、わずかに血がにじんでいたから

「私が治してあげるね」

そう言ってた女の顔を思い出しながら俺は自分の気持ちに、やっと気付いた。

今夜、女が来たら

今度は俺が約束を果たしてやりたい。

「死んでも愛し続けるよ」

「約束だぜ。死んでもずっと俺の傍にいろよな」

夢でも・・幽霊でも・・一緒にいられるなら・・・

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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