日が暮れかかっていた。
山の麓の観光地。
丁度紅葉の季節で、とても情緒のある良い所だった。
あの体験をするまでは。
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そこは、飲み込まれる過疎化に抵抗しようと町をあげて色々取り組んではいるのものの、イマイチ見る所が少なすぎる町で、平凡に暮らすには丁度良い感じもする様な町だった。
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旅館を出て散歩し、大きな杉の木を見に行った後
大きな校庭にたどり着いた。
もう誰も通わなくなった小学校。
その旧校舎が公衆トイレに改装されていた。
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もう夕暮れの闇に半分ほど飲まれているその旧校舎のトイレ。
特に何も感じることなく、いやなんとなく懐かしい感じはしていたが、
その扉に手をかけ
カラカラカラ
と左へドアをスライドさせて中へ入る。
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手前が男子トイレ
奥が女子トイレ。真ん中には多目的トイレ。
結構新しい様にも感じる。
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男子トイレのドアも横にスライドさせるタイプ。
カラカラカラ
正面3メートル先に手洗い場がある
右側は掃き出し窓で、開いたままの網戸になっていた。
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トイレは奥に歩いて左側か。
何も考えずにトイレに向かう。
左側に少し壁があり、奥から手前に3~4つ並ぶ小用トイレが見えた。
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その時
思わず心臓が飛び出るくらい驚いたが
左側の手前ひとつ目の便器前に
背の高い
そう2メートルはあるであろう
茶色の帽子を深くかぶり、同じく茶色のコートを着た人が用を足していた。
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人のいる気配はしていなかったので
びっくりしただけで
こんなことは、まぁよくある。
隣は避け、ひとつ開けて一番奥へ向かう。
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ベルトを外し
デニムのボタンを外しながら
なんとなくその、背の高い人をみた。
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顔が見えない。
夕暮れで薄暗いトイレだからか?
思わず手が止まり、全神経がその顔に集中する。
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....!!
顔が無い!
輪郭はハッキリ見えるが目も鼻も口も
あるべきものが何もない!
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にも関わらず、ニヤリと
薄気味悪く笑ったのがハッキリと分かった。
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声にならない声を出しながら、
下ろしかけたデニムもそのままに
夕闇の景色が見える
網戸へ向かってそのままダイブした。
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確かに網戸は破って外に出たはず。
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顔をあげて走って逃げようとした
その時に気づいた。
正面3メートル先に
見覚えのある手洗い場があることに。
作者たろいも