お読みいただく前に失礼致します。
この話には宗教や信仰にまつわる話が出てきますが、決して宗教批判をするものではありません。
表現上特定の単語がありますが、どうぞ深追いしないようにお願い申し上げます。
不快な表現がありましたら申し訳ありません。
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八方塞がりでどうしたものかと思っていた所、マンションの管理会社と警察より連絡が入った。
管理会社、警察の話によると、夜中に私の家の前でドアを叩きつけるような騒音があり、隣の方が不審に思い警察に通報したとのことだった。
また、ドアやドアの前が酷い有様になっておりすぐに確認して欲しいと。
その連絡を受け、父と急ぎ自宅へと戻った。
管理会社の方が清掃をしてくれたらしくドアの前は綺麗に片付けられていたが、ドア自体は酷い有様だった。
何かに引っ掛かられたような無数の小さな傷が走っていた。
念のためにと室内に異常がないか確認し、急ぎ連絡のあった警察署へと向かった。
警察署で見せられた写真に絶句した。
ドアの前には血塗れになった小動物のようなモノ、男性が用いる避妊具に白濁した液体が入ったもの、ドアも恐らくその小動物のようなモノの血が飛び散っていた。
以前警察へ手紙の事で相談していた事もあり、流石に警察も実質的な被害があったため見回りの強化と、器物損壊罪の疑いで動いてくれる事になった。
あの時に男性の連絡先を処分してしまったことが悔やまれてならなかった。
また何かあったら近隣住民に迷惑をかけてしまうことになるので、やむなく父と一緒に自宅へと帰った。
自宅へ帰りもしやと思い集合ポストを確認しに行った所、帯びただしい量の手紙で溢れ返っていた。
何か証拠になる物があるかもしれないので、見たくはなかったが全てに目を通した。
その内容ははっきり言って意味不明な物だった。
『貴方はどこへいってしまったのだろう?こんなにも想いあっているのに。恥ずかしがらずに俺の元へ帰っておいで。俺たちの幸せと永遠の愛を願い、毎日エルズリー・フレーダへ祈っているよ。』
『俺たちの愛のために生贄を捧げたよ。俺たちの愛のための尊い犠牲さ。これで俺たちは永遠に一緒だ。』
『なんでこんなにも祈って、生贄まで捧げているのにお前は帰ってこないんだ!俺は寛大だ。だがお前の態度次第では寛大なる俺でも制裁をくださない訳には行かない。』
内容はどんどん脅迫めいたものへと変わって行き、また訳のわからない単語まで飛び出し始めた。
父はなぜかそういった事にも知識があったようで、その手紙やドアの前の惨状を見て概ね把握したらしい。
「このままではまずい。愛が愛憎へと変化したんだ。一刻も早く男を捕まえこんなふざけた真似止めさせなくてはならない。本人の念もあるが、無残に殺された動物達の念が強すぎる。守備範囲外の呪術で、俺には払う事が出来ない。伝を当たってはみるが…。」
いつも頼もしい父であったが、そんな父にもどうにもならない状況に目の前が真っ暗になった。
呪いに対しては本人が弱気になるとさらにつけ込まれてしまうらしく、一先ず私への負担を軽減させるために、急遽双子姉(邪悪なモノを跳ね返す長女ではない。)を呼び寄せることになった。
一卵性双生児である双子姉と私を近くにおくことによって術者に勘違いが起こり、矛先を分散させる事が出来るらしい。
父と双子姉に助けられなんとか生活を送ることが出来たが、ポストへの手紙は相変わらずだった。
そんなある夜。
再びドアが激しく打ち付けられた。
ドアモニターで確認をすると見たことのあるあの男だった。
急いで警察へ連絡をし、私達は部屋で息を殺しじっとしていた。
その間もドアの外からは引っ掻くような音や、何かを打ち付けるような音が響いていた。
すぐに巡回中の警察官が駆けつけてくれ、呆気なく男は取り押さえられた。
現行犯であったため男は警察へと連れて行かれた。
その後男の取り調べは進み、驚くべきことが明らかになっていった。
男の解釈によると駅で私が男を助けたのは、私が男に気があるからの行為。
自分の連絡先を教えたのは私が恥ずかしがって行動に移せないから、代わりに自分が行動を起こした。
連絡がないのは私が奥ゆかしい女性であり、自分から行動を起こすのは恥ずべき行為だと思っているから。
兎に角男のいいように解釈されていた。
どのように私の自宅の場所を突き止めたかについては、駅で私と出会った時間帯に張り込み、私が電車を降りてきた所を自宅まで尾行してきたとの事だった。
あの時に感じていた視線の正体はこれだったのかと。
当時利便性を考え、駅から一本道の徒歩3分の所に部屋を借りてしまった事が仇となった。
さらにオートロックのマンションに住んでいたにも関わらず、どうやって部屋の前まで入ってこれたかについては、マンション前に張り込み、鍵ではなく暗証番号入力でエントランスに入る住民を見張って暗証番号を盗み見し、暗証番号を入手したらしい。
こちらとしては法で裁き、然るべき処分を受けてもらいたいと思ったが、男の両親からしっかりとした謝罪があり、また未成年で、今回の件を受け田舎に連れ帰るということで、警察からの警告と慰謝料、ドアの修理代で示談となった。
あれだけの恐怖を味わったにも関わらず呆気なかった。
警察署での話し合いの後、父が男のご両親を呼び止め別件で話がしたいと近くの喫茶店に寄ることになった。
父の話は呪いについて。
男は押し黙ったままで埒があかず、男の両親はそんな話は訳がわからないと。
そこで父は男の部屋に入る許可を両親から取り付け、その足で男のアパートへ向かうことになった。
私は1分1秒でも男と同じ空間に居たくはなかったし、ましてや男の部屋など見たくもなかった。
私は双子姉に付き添われ自宅へ帰り、父だけが男の部屋に行くことになった。
父が帰宅し男の部屋に行った時の状況を話してくれた。
男の部屋に行くと驚くべき光景が広がっていた。
かなりの異臭がし、部屋の窓は全て新聞紙で覆われており、床には小動物の死骸や骨が散乱していた。
また壁にはある宗教のシンボルマークが描かれたポスター。
その宗教は日本では珍しいものであった。
真偽の程は分からないが、古代では動物や人間を生贄にした呪術として発展していたものであった。
男の呪術とは強い念と動物たちの行き場のない怨念を私へ届くようにと、毎日毎日祈ったものだった。
男の両親はもちろんそんなことは知らないでいた。
なぜ男がその宗教を崇拝しこんな行為に出たのか、男の口から語られることはなかった。
呪術行為を男が止めれば私への危害もなくなるが、無残に殺され生贄とされた動物の怨念は供養してらあげなければならない。
父は転がる死骸や骨を集め、男の両親に火葬、埋葬することを約束させた。
幾日かたち男の両親から父へ連絡があり、約束通り動物たちを埋葬したこと、男を実家に連れ戻したと報告があった。
その後私は順調に回復し、日常へと戻ることが出来た。
幸いなことに当時から現在に至るまで、男との関わりは一切ない。
事件後、主人の長期出張も終わり、そのマンションを引き払い引越しをしたのも良かったのかもしれない。
作者宵闇-2
最後までお読み頂きありがとうございます!
この話は「ストーカー 始まり」の続編となります。
冒頭でも書かせて頂きましたが、決して宗教を批判するものではありません。
信仰心は個人の自由で誰に邪魔されるものでもないと思います。
もし気分を害された方がいらっしゃいましたら大変申し訳ありません。
1度書き溜めておいたんですが、見事にデータが消えました…。
急いで書き上げたので分かりづらい箇所がありましたら申し訳ありませんm(_ _)m