ある日の仕事帰り、いつものように電車に揺られ帰途に着こうとしていた。
自宅の最寄り駅に着き電車を降りた。
なんとなくふと視線を動かしたら、ホームのベンチに大学生位に見える男性がぐったりと横たわっていた。
駅には帰途に着くであろう利用客で溢れ返っていたが、男性に目を向ける事はあっても何事もともなかったように足早に通り過ぎていった。
酔っ払いか?などとも思ったが、今日は定時にて職場を出たため、そんな時間にはまだ早過ぎる気がした。
体調が悪く動けなくなっている可能性あり、酔っ払いだったとしても放っておくのもしのびなく、近くに寄り少し様子を見てみることにした。
様子を見てみると男性は苦しそうに肩で息をし、顔色も青いを通り越し蒼白になっていた。
これはただ事ではないと思い男性に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
私が声を掛けると男性は弱々しく顔をあげ、
「大丈夫です。少し気分が悪くて…多分貧血だと思うので休んでいれば大丈夫です。」
男性はそう言ったものの、とても少し休めば回復するようには見えなかった。
「とりあえず駅員さんを呼んできますので、ここで休んでいてください。」
私は男性にそう告げ、ちょうど口を付けていないペットボトルのミネラルウォーターを持っていることに気が付き、それを渡し駅員さんを呼びに行った。
駅員さんに状況を説明し、急いで男性の元に向かった。
後は駅員さんに任せその場を離れようとしたが男性に呼び止められた。
「ありがとうごさいました。ご迷惑おかけして申し訳ありません。後日お礼をさせて頂きたいので連絡先を教えてください。」
私は駅員さんを呼びに行っただけで特に何もしていないし、知らない男性に連絡先を教えるのも怖いので、丁重にお断りした。
だが男性は引いてくれず、自分の連絡先をメモしそれを私に渡した。
「お礼がしたいのでここに連絡をください。本当にありがとうごさいました。」
その場はとりあえず男性の連絡先を受け取り帰宅した。
連絡先を受け取ったものの、別に見返りを求めて男性に声を掛けた訳でもないので、申し訳ないが連絡先は処分させてもらい、その出来事はそこで終わった。
そんな出来事から数週間、私は駅で声を掛けた男性のことはすっかり忘れていた。
だがなんとなく違和感というか異変が起き始めた。
私は割と勘のいい方なのだが、なんとなく視線のようなものを感じるようになった。
気のせいということもあるので、疲れているのか?などと思ったり、その時主人が長期出張にでていたので精神的な不安からくるものか?などと思い、気にしないように努めていた。
仕事から帰宅し集合ポストを確認してみると、切手も貼っていない送付元も宛先も記載されていない封筒が入っていた。
連日続く視線もあり少し気持ち悪さも覚えたが、自分の家のポストに入っていたものなので持ち帰り中身を確認してみることにした。
封筒の上から見てみた所何の変哲もない普通の封書のように見える。
透かしてみたり振ってみたりしたが、やはり異変はない。
思い切って開けてみることにした。
中には手紙が1枚入っていた。
『この間◯◯駅で助けて頂いた者ですが本当にありがとうごさいました。お礼をしたいと思っていたのですが連絡を頂けなかったので、手紙を送ることにしました。俺は土日は学校もなく空いているのでいつでも連絡ください。連絡お待ちしています。』
だいたいこのような内容が書かれていた。
駅で助けたといえば思い当たるのは、数週間前に体調の悪そうな男性に声を掛けたことくらいだった。
だがその男性には名前はおろか、住んでいる所なんて教えていない。
頭の中は?でいっぱいになった。
すぐに主人に電話を掛け今までの出来事を聞いてもらった。
主人は兎に角戸締りをしっかりすること、危険だと感じたら実家にすぐ帰ること、そんな事がつづくようであれば警察に相談することを私に言い聞かせた。
また手紙は何かあった時に証拠になるので、気持ち悪いとは思うが取って置くように言われた。
主人に話を聞いてもらえたことで安心し、手紙くらいなんてことないかとその時は楽観視してしまった。
だが私の考えは甘く、次の日から毎日集合ポストには切手のない宛先も送付元も記載のない封筒が届くようになった。
その内容は最初の頃は文体も丁寧で、兎に角お礼がしたいから連絡をくれといった内容だったが、日に日に内容はおかしくなっていった。
かなり気持ちの悪い内容で、思い返すのも気持ち悪いくらいだ。
『貴方は俺の天使だ。こんな俺に優しくしてくれ、想ってくれている。君からの贈り物(恐らくペットボトル)は俺の宝物だ。君の想いは俺が全て受け止めるよ。』
『なんで俺たちはこんなに想いあっているのに空回ってしまうんだろう。恥ずかしがらずに素直になって。』
『最近帰りが遅いようだけど忙しいのかな?忙しくて俺に連絡出来ないんだね。君の想いはいつも俺に届いているから安心して。』
他にも気持ちの悪い手紙はあったが、思い出すのも恐ろしい。
『帰りが遅い』という記載もあり、見張られているのかと思い、心底恐ろしくなった。
これは流石に危険を感じ主人や実家の父に相談した所、今まで送られてきた手紙を警察に届け、すぐに実家に帰ってこいということになった。
私は手紙を持ちすぐに警察へと向かった。
しかし、本人は恐怖を感じ身に危険を感じているが、手紙のみで他に被害はない。
警察では今の段階では動くことが出来ないと言われてしまった。
家の周辺は巡回を強化してくれることにはなったが、私には気休めにもならない。
そのまま実家に逃げ帰った。
実家では暫く穏やかに過ごすことが出来ていたが、その穏やかな日常も長くは続かなかった。
夜になると金縛りにあい、起きている時も体が怠い、なんとなく気分が優れない。
終いには霊感の強い父に、
「お前の周りから嫌な気配がする。念の塊というか…いつもと纏っている気がまったく違う。恐らくお前に手紙を送ってきている男の念か?いや他にも何か獣の様な気もするが。」
などと言われてしまった。
私は以前生き霊の類に付きまとわれたことがあったので、
「もしかして生き霊とかじゃないよね?」と完全に怯えていた。
「そこまでの強さはないから生き霊ではないが、呪詛のようなそんな邪悪さを感じる。一刻も早く犯人を見つけ原因を調べなければならない。」
警察は動いてくれない、だからといって私には何も出来ない、頼りの姉も(姉も霊感の様な不思議な力があり、無意識に邪悪なモノを跳ね返してしまう力があり、過去に姉のその力で助けられた事があった。)すでに嫁いでしまっていて今回は頼る事が出来ない。
父も呪詛の元を突き止めないことには対処療法くらいは出来ても、なす術がないと。
八方塞がりだった。
続く。
作者宵闇-2
ここまでお読みくださりありがとうございますm(_ _)m
長くなってしまったので1回区切らせて頂きます。
話中に姉の話が少し出てきますが、以前投稿した『親友』という話を読んで頂けるとわかりやすいと思いますが、なるべくこの話単体で伝わるようにしたたつもりです…うーん。
しかし、まとまらないです(>_