もう11月おじいさんが死んでから3カ月が過ぎた。
お婆さんはおじいさんが死ぬと
「早くあの世に行けてうれしいじゃろう」と言うと
仏壇に向かい,時々酒を飲んでいた。
もちろん、チョコ一杯か二杯程度飲むと
「爺さん晩酌の付き合いはこれまでじゃ。あとは自分で飲め」と言うと
寝室に引きあげ寝ていた。
そんなある日。
お婆さんと父母が一緒に、市民会館で開かれる舞踊会に行くことになった。
もう11月も終わりに近い日だった。
私は留守番すると言う事で、居間でTVを見ながら寝そべっていた。
もう7時を過ぎたころ、玄関にお客さんらしき靴音がした。
「ガタ、ガタ、ガタ」と引き戸を引く音がしたので、
「どちら様ですか」と私が玄関の明かりをつけるとその気配が消えた。
「おかしいなー今確かに誰か客が来た気配がしたのに」と思うと
玄関の引き戸を開けた。外をのぞくと誰もいない。
ま、私の聞き間違いかと思うとその場を引き上げるように引き戸を
引いたとき、大きな蛾が私の頭の上を通り家の中に入った。
私は戸を閉めると、その蛾を目で追った。
家の居間の上を飛び交い、うるさいほどの羽音で、飛んでいた。
この寒い時期に大きな蛾が生きている事が不思議で
私はTVの音を下げてしばらく飛び交う蛾の姿を見ていた。
私の家は昔の萱ぶきで山形のこの界隈では珍しくおよそ100年は経っている
家でした。天井が高く蛾の一匹や二匹入っても気にかける事が無いほど
広かった。
しかし、その蛾は私の周りを飛び交い、うるさいほどに私に近寄ってきた。
追い払うにも高く飛んだり、低く飛んだりで捕まえようがなかった。
しばらくすると蛾は、死んだおじいさんやひい爺さんの写真に留まり
はじめた。
私は気になり追い払おうとしたが中々出来なかった。
そうこうしてる間に蛾は、玄関に行き玄関の中を飛び始めた。
私が玄関から追い出すべく引き戸を開けて追い払おうとした時
居間の天井がものすごい音とともに崩れた。
「バキ、バキ,ドシーン」
首をすくめて玄関にしゃがみこんだ。
あたり一面、天井から落ちたゴミとススやホコリで見えなくなった。
10分ほど放心状態が続き、ようやく我に返り、居間を見ると
居間のテーブルがあったところに直径1m高さは1,5mはある、銀色の筒状のものが
突き刺さっていた。
私は驚き、その場で身動きできなかった。
近所の人も、そのものすごい音で、寄ってきたが玄関を閉めていたので
すぐに引き上げて行った。
私は立ち上がり、銀色で筒状のもののそばに行った。
そして、天井を見るとポッカリ穴が空き、11月の冷たい星空が覗いていた。
私はその筒を動かそうとしたが、びくともしない。
親が来るのを待つしかないと思いつつの脇でジーとしていた。
午後10時ごろ親の声やおばあさんの声が外に聞こえ
私は戸をあけて叫んだ。
「天からロケットが降ってきて家にぶつかった。」それを聞いた
親たちは立ち止り、外できょとんとしていた。
まず父が玄関に入り恐る恐る筒を確かめた。
周りや筒の脇に書いてある字を見て
「爆弾ではなさそうだ」とつぶやくと次に母やお婆さんが
入ってきた。
お婆さんは、私を見るなり「大丈夫かい、どこもけがしてないか?」と
体のあちこちを触った。
母は口を開けたまま、茫然としていた。
父はすぐ「警察に電話だ」と言うと家の隅にホコリだらけになった
受話器を取ると電話した。
警察と消防が来ると家の周辺は騒然となった。
家の周りには人垣ができた。
現場検証が終わるころには、1時を回っていた。
その頃には、自衛隊のトラックとジープや車が来ていた。
自衛隊の幹部であろう人と警察の部長であろう人が
筒の脇に来て、父と話していた。
「けが人が無くて何よりです。」と警察が言うと父は「内のむすこがあの場所でTVを見てたんですよ
もし逃げ遅れていたら下敷きになり死んでいたかもしれない」と言うと
怒鳴りつけた。
自衛隊幹部は「本当に申し訳ない、ジェット機が神町駐屯地を出発して
25分上山上空で燃料用ブースターを落とした
と通報があり探していた最中でした。本当にすいませでした」地べたに頭を着けて謝った。
それを見た父や母は「あなた方が悪いのではない」と言いだし話が収まった。
お婆さんは「お前あの時間何をしてたんだい。」と聞かれたので、
先ほどの玄関先の事や蛾の話を聞かせた。
お婆さんは少し間をおくと「きっとその蛾はおじいさんかもしれない」と言いだすと
仏間に行き、お礼を言いに仏壇の前に私を連れて行き一緒に拝みました。
家は間もなく壊されて、自衛隊が新しい家を建ててくれました。
作者退会会員