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中編5
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嫉妬の果てに…

「いやーぁ、悪いね、急に呼び出して!」

社会人になって間もない頃、勤め先で初めてできた友人のアリサが喫茶店にいた私の向かいに着席するなりそう言った。

ヴァイオリニストを生業とする前、20代の頃は私は普通にOLをしていた。

「いいよ、3連休の初日だし」

そう言って私はミルクティーの飲む。

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「他に、こんなこと相談する人いなくてさ」

アリサはそう言ってから、水を運んできたウェイトレスにコーヒーを頼んだ。

「それで、誰にも言えない相談って?」

私が切り出すと、アリサは神妙な面持ちで話し始めた。

要約すると、こうである。

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ある時を境に、自宅の部屋で怪奇現象が起きるようになった。

夜、寝るとしばらくして、ズズッ…ズズズッ…と、何かを引きずるような音がして、その後、いきなり足首を掴まれたり、腕を掴まれたり、胸の上に乗られたり、髪を引っ張られたりするらしい。

それで寝不足が続いているとのこと。

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「それって、いつから?」

「えっとねー、トオルと付き合い始めてから?」

トオルとは同じ職場の私達より5つ年上男性社員で、誰にでも平等に優しくて朗らかであった為、女性社員はもちろん、同性や上司達からも好かれているイケメンである。

みんなから「トオルちゃん」と、親しみを込めて呼ばれていた。

アリサが彼に告られて付き合い出したのは、つい最近だった。

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「うーん、トオルちゃんに何かあるとは思えないし、彼からは何も感じないからなぁ…。…とりあえず、簡易結界で様子見よ?」

私が提案すると、アリサが首を傾げる。

「簡易結界?」

「うん。鏡を使う結界もあるんだけど、家にベッドの周りをビッシリ隙間なく囲む量の鏡なんかないだろうから、今回は塩を使った結界を教えてあげる」

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私はアリサに、100円均一の塩でもいいから神社に持っていて祈祷してもらい、塩を清めの塩にしたら、ベッドの周りにまんべんなく撒く結界を教えた。

すぐに実行してみる、とアリサは言って、その日はお開きとなった。

アリサは、その日のうちに実行したらしい。

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翌日、朝から携帯が鳴った。

アリサからだった。

「もしもし!?あのね、昨日、結界を試してみたんだけどね、撒き方が十分じゃなかったのか、手がね、手が…!」

「いやいや、とにかく落ち着いてってば。詳しく聞くから、昨日の喫茶店で待ち合わせね!」

私はアリサにそう言って、電話を切った。

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その日の午後に、喫茶店で待ち合わせしてアリサから詳しい話を聞きた。

詳細は、こうだ。

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塩をベッドの周囲を囲うように撒いて、いつものように寝ると、夜中にまた、ズズッ…ズズズッ…と何かを引きずるような音がして目が覚めた。

結界のおかげで足やら腕やらを引っ張られはしなかったようだが、わずかに薄い結界の隙間からいきなり空中に生っ白い腕が現れては何かを探すように蠢き、引っ込むとまた、ズズッ…ズズズッ…とベッドの周囲を徘徊する。

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それからまた、空中にいきなり生っ白い腕が現れては何かを探す、というのが朝方まで続き、突然部屋に木霊するかのようにドスの利いた女の声で、

「…ねぇ、…殺されたいの…?」

それを聞いて、アリサは失神したらしい。

「マジ怖いんだけど、なんなんかなー?」

「んー、…声の主に心当たりは?あと、他に変わったことない?最近」

私が尋ねると、アリサは少し考えてから口を開いた。

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「声の心当たりは、ないなー。嗄れた声だったし。そういえば最近、何もしてないのにいきなり冷蔵庫が倒れてきたり、会社の資料室の棚から書類の入った重いダンボールが落ちてきたり、他にもいろいろ立て続けに危ないことがあったなー…」

アリサの返答を聞いて、私は眉根を寄せた。

「…こりゃ、生霊と呪詛のダブルパンチかもしれんなー。ちょっとヤバいかも」

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「呪詛…?…えっ、もしかして私、誰かに呪われてるかもしんないの!?」

「ちょっ…!シーッ!ここ喫茶店!」

私がアリサをたしなめると、アリサはシュンとしたように押し黙った。

「相手が呪詛を使ってるなら、呪詛を返すか防御するかしか打つ手はないね」

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「呪詛って返せるの?」

「返せるよ。ただ防ぐだけでもいいのかもしんないけど、防がれたと分かれば、こういう人ってたぶんエスカレートしそうだし、不動明王の呪詛返し教えてあげるから、やってみて。こう、家自体をシャボン玉で覆って護るようなイメージでやるといいよ」

「うん、分かった」

私はアリサに呪詛返しを教えて、怖がるアリサをなだめてから帰宅した。

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翌朝はアリサからの電話に起こされることなく、連休の最終日は無事に過ぎた。

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その翌朝、出勤途中に会社の最寄り駅でアリサと一緒になった。

「おっはよー!」

元気なアリサに私は笑った。

「おー、その様子だと熟睡できたみたいだね」

私が言うと、アリサは私の肩を叩いて笑う。

「いやはや、君のおかげですぞ、ホームズ君」

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「いつから、あんたはワトソン君になった?」

そうやりとりして笑い合う。

だが、呪詛返しした以上、返された相手のことも気になっていた。

「呪詛の相手、誰だったんだろうね?返されて大事になってなきゃいいけど」

「大惨事になることなんて、あるの?」

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「あるよー!その人の呪詛の力量にもよるけど」

「へー、そうなのかー」

私とアリサは、そんな話をしながら会社へと向かった。

会社に着くと、職場は騒然としていた。

「え、なに、この状況…」

私とアリサは、その場で固まる。

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私達を見つけた上司が駆け寄って来ると、状況を教えてくれた。

昨日、お局(つぼね)が自宅マンションから飛び降りたらしい。

お局というのは、勤め先の私達の直属の上司であり、30代半ば過ぎで独身のバリバリの仕事女。

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誰にでもキツく当たるので、あまり良く思われてはいなかった。

遺書はないので、自殺と事故の両面からの捜査になるとのことだった。

「…あ、おはよう!2人とも!」

年の近い先輩が、私とアリサに歩み寄ってきた。

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「聞いた?なんかさ、お局の家からトオルちゃん宛のプレゼントとかラブレターとか、恨み節な手紙みたいのとか出てきて、今日はトオルちゃん、事情聴取に朝から行ってるんだよ。知ってビックリしたわー、私」

先輩の言葉に、私とアリサは顔を見合わせた。

「…呪詛の犯人、お局だったのかも…」

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結局、お局は自殺で処理された。

確かに思い返してみれば、トオルちゃんには優しくて色目を使うこともあるのに、他の部下にはいつものごとくキツく当たってた気もする。

でも、イケメンのトオルちゃんを特別扱いするくらいで、まさかそれが恋い慕ってのことだったなんて思いもよらなかった。

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その後、アリサはトオルちゃんが異動になったのをキッカケに遠距離恋愛になってしまうトオルちゃんと別れ、私は新しく来た上司との折り合いが悪くて退社した。

アリサもその後、実家の商店を手伝うために職場を辞めたそうだ。

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…女の嫉妬は醜い。

女の恨みはネチっこくて怖い。

女は業が深い。

…そう言われるのも、誰もが般若面のような嫉妬心をどこかに持っているせいかもしれない…。

[おわり]

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じゃれ 様

コメントありがとうございます。
まぁ、男女の仲というのは昔からおどろおどろしいものが少なからずありますからね(~_~;)
何かあると男性は自分の恋人を責めるが、女性は相手の女性に矛先を向けるものだそうです。
だからこそ怖い…っていうのも、あるのかも?

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