「ユキちゃん、一緒に帰ろ!」
ホームルームのあと、いつものごとく仲の良いユキちゃんに声をかけた私に、ユキちゃんは首を横に振ると、
「ごめんね、今日は放送委員のお仕事あるから先に帰ってくれる?」
そう私に言いました。
「そっかー、じゃぁ、また明日ね」
「うん、またね」
残念そうにする私に苦笑しながら手を振って、ユキちゃんは教室を出て行きました。
nextpage
翌日、またユキちゃんに一緒に帰ろうと声をかけると、ユキちゃんは困った顔をしながら、
「ごめんね、今日はマノちゃんと帰るんだ」
「マノ…?」
「委員会で一緒の子」
…ああ、他のクラスの子か。
そう納得した私は、「じゃぁ、また明日だね」と笑ってユキちゃんを見送りました。
nextpage
その日からユキちゃんは、マノちゃんと帰ることが増えて、私は別の仲の良い友達と帰るようになっていました。
ある時、一緒に帰っていた友達にユキちゃんのことを聞かれました。
「最近ずっと一緒に帰っていないようだけど、ケンカしたの?」
私はユキちゃんが他のクラスの子と一緒に帰ってるようだと話すと、その友達は不思議そうな顔をしました。
nextpage
「私、ユキちゃんが一人で帰ってる姿しか見てないけどな…」
「え?」
友達の言葉に、私は思わず立ち止まりました。
その時は、<私、何かユキちゃんに嫌われるようなことしたかな?それで、一緒に帰ってくれなくなったのかな?>と思っていました。
それなら謝らないと、って。
だから翌日、ユキちゃんに声をかけようと決めました。
nextpage
翌日、なぜかユキちゃんの方から私に声をかけてきました。
一緒に帰ろうと言うのです。
<なんだ、怒ってたわけじゃないのか>
私はそう安堵して、快く頷きました。
帰り道で、ユキちゃんはポツポツとマノちゃんと帰っていた時のことを話してくれました。
nextpage
元々、お人好しなところがあるユキちゃんは、放送委員の仕事を上級生から押し付けられることがあって、委員会の仕事も遅くまで残ってやっていたことが多かったんだそうです。
そんなユキちゃんに手伝いを申し込んできたのが、マノちゃんだったとのこと。
2人が仲良くなるのに、そう時間はかかりませんでした。
でも、不思議なことに委員会のミーティングにはマノちゃんは来ないんだそうで、ユキちゃんはお家の事情か何かだろうと思っていたそうです。
nextpage
「でもね、昨日、怖いことされたの」
怯えたようにユキちゃんは話しました。
昨日といえば、私が別の友達からユキちゃんが一人で帰ってる姿しか見てない、と言われた日で、その日は午後から雨が降っていました。
ユキちゃんはマノちゃんと帰るべく、昇降口でマノちゃんを待っていたそうです。
でも、その日はいくら待てどもマノちゃんは来ませんでした。
先に帰ってしまったのかとも思ったそうですが、下校時間まで待っていたんだとか。
nextpage
結局マノちゃんは来ることなく、下校の音楽がかかったので帰ることにしたそうです。
雨の中、傘をさして信号待ちをしていた時。
「ユキちゃん」
後ろから声がして振り返りましたが、そこには誰もいません。
「ユキちゃん、こっち」
もう一度呼ばれて顔を上げると、信号の向こう側でマノちゃんが手を振っていました。
nextpage
信号もいつの間にか青になっていたので、ユキちゃんは横断歩道を駆け出そうとしました。
その瞬間、
ププーッ!と激しいクラクションの音がして、ユキちゃんは思わず立ち止まったそうです。
よく見れば、まだ信号は赤。
向こう側にいたはずのマノちゃんの姿も、なくなっていました。
その時、耳元でハッキリ声を聞いたそうです。
nextpage
「…もう少しだったのに」
そして、含笑いの声。
nextpage
後日、先輩から、こんな話を聞きました。
何年か前に、放送室でいじめられていた女の子がいたそうです。
放送委員のその子は、いじめられて雨の日に、ユキちゃんの通学路である交差点で事故に遭い、亡くなったそうです。
その女の子が、真野、という名前だったとのこと。
nextpage
彼女は、お人好しなユキちゃんを気に入って友達になり、自分の仲間にしたかったのでしょうか…。
[おわり]
作者ゼロ
初めまして、初投稿させていただきました!
私が小5の時の実話です。
ユキちゃんは今、二児の母として幸せに暮らしています。
当時は、ただ、ただ、ユキちゃんが無事だったことを安堵したものです。
ユキちゃんと私の通学路は、途中から別になるので交差点での事故は知りませんでした。
6年生のお姉さんから話を聞いて、そのあとに交差点へ行きました。
確かに、背中がゾクゾクしたのを今でも覚えています。
子供は無邪気なだけに、タチの悪い霊となってしまうこともあるんでしょうかね…?