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中編5
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ひろいもの

私は広い場所が苦手です。空間恐怖症とかいうらしいのですが、とにかく広い場所に1人でいると不安どころか恐怖を感じます。

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みなさんの中にももしかしたらいらっしゃるかもしれません。それともまだ自分では気付いていないだけなのかも…。

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私は小学校の頃クラスの体育係をしていました。

係といっても、先生を呼びに行ったりボールを片付けたりするだけの雑用です。

同じ体育係にヒロミという女の子がいました。

ヒロミは少しゆっくりした性格で、よくからかわれたりしていました。

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ある日の6時間目終わりの休み時間に、私とヒロミは急いで体育館に向かいました。明日は体育祭があるので、私達だけでなく他のクラスからも体育係が体育館に集まっていました。

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ボールに空気を入れ磨く生徒、床を雑巾掛けする生徒。まさに戦場のような忙しさでした。

私とヒロミはバトミントンのネットを外し、畳んで体育館のステージ裏にある小さな物置小屋にしまいに行く仕事をしていました。

比較的簡単な作業な上に、ステージ裏という周りから全く見えない場所にある物置小屋なので少しヒロミとおしゃべりをしてサボッてたりもしていました。

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そして、準備も終わり。

みんな帰路に着こうとしたその時、先生が物置小屋の鍵がないぞー。とみんなを見ながら言いました。

物置小屋に出入りしていたのは私達だけだったので、先生は探して持って来る様に私達に言うと。

他の生徒を解散させてしまいました。

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今だから本音を言いますが、私はヒロミがどこかで落としたに違いないと思っていました。

2人で物置小屋に向かうと、不思議な事に物置小屋に鍵がかかっていました。

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やられた!と私は舌打ちしました。誰かがイタズラで鍵を閉めて隠したんだ。そう確信しました

でもヒロミは怪訝な顔をしています。

もう帰ろうよ。私が言いかけた時に、ヒロミが物置小屋に耳を近づけました。

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ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!

中から何かが物凄い勢いで物置小屋のドアを叩いていました。それも2本の手で同じ場所を叩くのではなく、たくさんの手がドア全体を叩いているように

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私は悲鳴を上げ一目散に逃げました。ヒロミの事は全く視野の外。

何かが、助けて、いやだ、お母さん。

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私は体育館入口まで走ると、ドアを開け教室のある棟まで転がる様に走りました。もう夕方すぎの校舎は誰もいません。

ため息を付いて、ふと自分が1人な事に気付きました。

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ヒロミがいない。

追いかけて走ってくる様子もありません。

呆れた気持ちと、少し怒りが私の中に沸いてきました。なんでそんなどんくさいのよ!あたしは知らないからね。下駄箱についた私はまた怒りが込み上げて来ました。

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あぁっ鬱陶しい!ため息と共に声に出してつぶやきました。

体育館に戻るとそこは完全に暗闇で、物音一つしませんでした。ヒロミッ!と大きな声を出した時、私は誰もいない広い空間の反響音の大きさに驚きました。

まるでそこら中にスピーカーがあるかのように自分の声が跳ね返ってくるのです。

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瞬間的に怒りは冷め、私は恐怖でいっぱいになりました。少しずつ踏み出す足音さえ、無音の体育館には大きく響いて聞こえました。なんとか物置小屋に着くとヒロミがいません。私は泣きそうな声で、ヒロミ…ヒロミ…と辺りを探しました。

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物置小屋の前まで来た時に、ドアが半分開いている事に気が付きました。とても覗く勇気はなかったのですが、導かれる様に顔を背けたまま横目で中を窺いました

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中には何もいませんでした。ヒロミも、謎の存在も

その瞬間ガラガラバーンと、入口の方から誰かが体育館に入って来ました。先生?ヒロミ?と、少し安堵しながら奥を覗くとゆっくりとそれはこちらに歩いてきました

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私は固まって動けませんでした。

それどころか恐怖が振り切ってしまい、少し笑いが込み上げて来るほどでした。

そいつは歯を食いしばり、ギッ ギッ と声を出しながらこちらへ向かって歩いて来ます。

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暗やみから段々姿が見えてきた時にはもう私は物置小屋まで走って逃げていました。

そいつには小さな20cm程の足しかなく、物凄い太さと長さの両手で歩いていたのです。

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そいつはゆっくりと物置小屋まで近付いて来ました。そして中を覗きながら、

ギッ かたづけないからだぞ ギッ イッ 畳まないからだぞ!

と、訳の分からないことを言いながら物置小屋に入って来ました。

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その時体育館で、こっちーーー!と聞き覚えのある声が聞こえました。

ヒロミだ!ヒロミの声だ。私はその声に引っ張られる様にそいつに体当りして体育館まで逃げました

ヒロミーー!と叫びながら体育館の真ん中まで走ってくると、ヒロミが右手に何か持って私を通り過ぎ物置小屋に走りだしました。

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あいつはまだいる!ヒロミダメだよ。と私は追いかけていきました。足がもつれて追いつけませんでしたが、視界の隅でヒロミが物置小屋に鍵をかけているのが見えました。

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もう大丈夫だよ。とヒロミが明るい声で私に言いました。何が大丈夫なのか私には分からなかったのですがその時はヒロミの言葉が優しく力強く響きました

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私は帰り道何も話す気力がなかったので、今日のことをヒロミに尋ねられませんでした。一睡もできずベッドで母親にしがみつくように朝を待ちました。

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翌日の休み時間ヒロミを呼び出し、昨日の事について聞いてみました。たくさんの質問を1度にぶつけたのでヒロミは困惑していましたが、一つ一つ説明してくれました。

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あれがなんなのかはヒロミも分からないそうです。

ただ、バトミントンのネットを片付けに初めて物置小屋に入った時に気付いたそうです。

よくないものがいて、今ここから出ていったと。

あれは出してはいけないものだから、この部屋に鍵をかけて入れておかなければいけないと。

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鍵をかけて隠したのはヒロミでした。先生に鍵を返したら、アレを閉じ込められないから。

でもヒロミにとって誤算は、私の存在でした。

私を巻込みたくないと考え、私が逃げた隙に鍵を開け、体育館の隅でアレを待っていたそうです。

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私がヒロミー!と大声をあげながら戻って来た時は本当に焦ったとため息混じりに言われました。

私とアレが物置小屋に消えていくのを見て、大声で叫んだそうです。そして私だけが走ってくるのを確認して施錠したそうです。

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私はヒロミの強さを初めて知りました

友達が守ってくれた嬉しさも。

でも一つ不思議になりました。

アレがさ…物置小屋にいなかったんなら、鍵を探しに言った時に聞こえためちゃくちゃにドアを叩く音はなんだったの?と

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ヒロミは笑いながら言いました。

私には未だにその言葉の意味がわかりません

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だって

ああでもしないと あなた 逃げてくれないでしょ?

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ロビン魔太郎さん
コメントありがとうございます♪

少しでも楽しんでいただけたら幸いっす

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長かった…書くの(´・_・`)

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