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中編6
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代わり

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私は小さい頃から体が弱く、入院しては退院したりを繰り返していた。

そのために学校ではなかなか友達もできず、高校生になった今でもそれは変わらなかった。

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今日で入院して二ヶ月と十日。

まだ退院できる目処は立たず、私は毎日病室で絵を描いていた。

時と場所を選ばずにできる絵描きは私の唯一の趣味であった。

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ある日、私は自身が寝泊まりしている病室の風景画を描いた。

私の病室にはベッドが二台、向かい合うように並んでいるが、向かい側のベッドは空きだった。

そこで、私のベッドから向かいのベッドを一人称視点で見たような一枚を仕上げた。

その出来に満足し、私は絵をいつもどおり引き出しにしまった。

もう数十枚は描いただろうか。

多いときには一日三枚描くこともあった。

定期的に部屋にやって来る看護師さんが、絵を見て誉めてくれるのが喜びだった。

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その日の深夜、私はふいに目を覚ました。

普段なら一度寝ると朝まで熟睡するのだが、何か嫌な気配を感じ、寝起きなのに頭が異様に冴えた。

ふと向かいのベッドに目をやると、誰かいる。

ベッドの背にもたれて座っているが顔はよく見えない。

だれ!?と私が囁くような声を発すると、その誰かはゆっくりとベッドの上を、私の方に向かって這ってきた。

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私は息を飲んだ。

同い年くらいの女の子だろうか。

白いワンピースに身を包み、こちらをじっと見る彼女には

shake

顔がなかった。

顔がないという表現より、黒いモヤがかかって顔が見えないと言った方が正しいだろうか。

私はベッドの上で硬直して彼女を見ていた。

「…かわって」

その言葉を聞いた瞬間に私の体の硬直は解け、無我夢中で病室を飛び出していた。

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かわってって何?あの子何なの?

疑問と恐怖で頭の中がごちゃごちゃになりながら、私はナースステーションに走った。

ナースステーションに着くとすぐに異変に気づいた。

明かりがついていないのだ。

まず人の気配がまったくない。

私が訳もわからずたたずんでいると、後ろから再びあの声が聞こえた。

shake

「…かわって」

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鳥のさえずりと共に私は目を覚ました。

木漏れ日が窓から差し込んでいる。

夢だったんだ、と私は安心したと同時に、あれはホントに夢なのかという不安に駆られた。

女の子の言葉が耳に鮮明に残っている。

しかし、朝の検診に看護師さんがやって来てからはすっかりそんなことも忘れてしまったのだった。

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その日もいつものように一枚の絵を描いた。

私はそれをしまおうと引き出しを開いた。

そこで昨日描いた病室の風景画の絵に目が止まった。

描かれた向かいのベッドの上に小さな黒い点があったのである。

昨日片付けたときはこんなのなかったと思うんだけど、と私は不思議に思いながらも引き出しを閉めたのだった。

その日もいつもと変わらない一日を終えた。

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まただ、またあの女の子が向かいのベッドにいる。

暗い病室の中でも白いワンピースははっきりと確認できた。

これは夢なんだ、と私は自分を落ち着かせようと試みる。

女の子に尋ねた。

「あなたは誰なの?かわってって何をかわるの?」

女の子はゆっくりとベッドから降りて私の方へ近づいてきた。

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「かわって」

彼女はいつの間にか目と鼻の先にいた。

やはり顔は黒くモヤがかかっていて見えない。

私は動こうにも動けず、永遠とも感じるような時の中で彼女と無言で対峙していた。

彼女がゆっくりと私に向かって手をのばす。

彼女の手が私の顔に触れようかというとき、私は現実に引き戻された。

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看護師さんに体温を計ってもらったあと、私はベッドに仰向けになりながら考えを巡らせた。

二日連続であんな奇妙な夢を見るのは絶対におかしい。

何かよくないことが起こるんじゃないだろうか。

その日は絵を描く気にもならず、何もせずにベッドの上で一日を過ごした。

私は少しでも気を軽くしようと、夕食を運んできた看護師さんに夢のことを話してみた。

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「気味が悪いね~。怖かったら今夜ナースステーションの隣の部屋の病室で寝る?」

私は羞恥心から、そこまでしてもらわなくても大丈夫だと断った。

看護師さんが思い出したように言った。

「あ、今日はどんな絵を描いたのか見せて!」

看護師さんは引き出しを開けて、絵を取り出してまじまじと見た。

今日は絵を描いてないんです、と言おうとしたところで彼女が怪訝そうな顔で

「これ何?」

と尋ねてきた。

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彼女の手には二日前に描いた病室の絵。

絵を覗きこんでみると、私はゾッとした。

shake

向かいのベッドの上にあった黒い点が明らかに大きくなっている。

点と言うよりは黒いモヤモヤと言えるまで大きくなっていた。

顔のない女の子が頭をよぎる。

看護師さんは絵をしまって、そそくさと出ていってしまった。

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その日の夜、私はなかなか寝付けなかった。

またあの夢を見るんじゃないかという恐怖に苛まれていた。

だが時期に恐怖よりも眠気の方が勝り、私はまた夢の中へと入っていった。

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私は病院の中を走っていた。

後ろからは例の女の子。

私は夢の中にいると気づくと同時に一目散に病室を飛びしだしたのだった。

女の子に触れられてはいけない、何故かそんな気がしてならなかった。

私は彼女を十分に引き離したと思ったところでトイレに駆け込み、一番奥の個室に入り迷わず鍵を閉めた。

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コツ……コツ……

外の廊下から足音が聞こえてくる。

私は便座に息を殺して座っていた。その足音が通りすぎるのを待っていた。

ギイィィィ……

とトイレの入り口のドアが開く音を聞いて私は戦慄した。

足音は私のいる個室に向かって近づいてくる。

私の個室のすぐ外で足音は止んだ。

しばらくの沈黙の後、扉がガタガタと揺れた。

私は両手で口を押さえて待った、彼女が立ち去るのを。

やがて扉は鳴りやみ、足音はどんどん遠ざかっていった。

私は安心し、身体中の力が抜けて個室の床に膝から座り込んでしまった。

ふと上に視線をやる。

shake

黒いモヤモヤがこちらを覗いていた。

私はまた金縛りに襲われ、彼女がぬるぬると滑るように扉の上から入ってくる光景をただ見るしかなかった。

「……かわって」

その言葉が発せられたのと同時に、彼女の手が私の頬に触れた。

この世のものとは思えないほど、恐ろしく冷たい手だった。

黒いモヤモヤが少しずつ晴れていく。

彼女の顔がもう少しで確認できるというところで私は目を覚ました。

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病室の中は真っ暗だった。

時計を見ると二時半を差している。

全身がぐっしょりと汗で濡れているのを感じながらベッドから出ようとしたところで、ふと足元に何か落ちているのに気づいた。

あの絵だった。

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恐る恐る絵を覗いてみると、黒いモヤモヤはなくなっていた。

あっけらかんとしながら、向かいのベッドの上に目をやると、

shake

いた。

これは夢ではないというはっきりとした感覚があった。

腰から崩れ落ちてしまった私のもとに、彼女がゆっくりとやってくる。

まだ微かに黒いモヤが残っていて顔は確認できない。

再び彼女の手が私の頬に触れた。

ゾッとするほど冷たい手だ。

黒いモヤモヤがどんどん晴れていく。

彼女の顔が確認できた。

shake

そこにあったのは私の顔だった。

私はすべてを悟った。

ああ、彼女が私になるんだ。

「…かわれた」

私の顔から、私の満足げな声で発せられたその言葉を聞いたのを最後に、私は全ての感覚を失った。

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mamiさん

コメントありがとうございます!
昔夢に見たことをヒントに内容を練ってみました笑
楽しんでいただけたなら良かったです(^^)

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くじさん

コメントありがとうございます!
怖がっていただけて嬉しいです(^^)
次回も是非読んでくださいね!

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ともすけさん

コメントありがとうございます!
まだまだですが、これからも楽しんで書いていこうと思います!
また読んでいただけたら嬉しいです(^^)

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さとりさん

コメントありがとうございます!
続きはありますかね~笑

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まりかさん

またまた読んでいただいてありがとうございます(^^)
楽しんでいただけたなら良かったです!

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kokonaさん

コメントありがとうございます!
怖がっていただけてよかったです(^^)

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はなさん

コメントありがとうございます!
力作だなんて(^_^;)
まだまだですが嬉しいです!

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かっちゃんさん初めまして!
さっそく読ませていただきましたが、2作目でここまで恐怖感を出せることに感動しました。怖かったです!

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こ、怖い……続きが気になります。

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キャーーこれは本当に怖いよーー(*≧Δ≦)
スピード感ある力作でした(>_

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きゃーー(*≧Δ≦)これは本当に怖いよー……
スピード感ある力作でした(>_

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