電車の中、
優先席には私含め所謂
【若者】が五人、
向かいの席に二人、
こっち側に三人だが、
二つで十人くらいしか座れないイスには
さらに妊婦一人、
老人三人が座って居て、
もう席に他の人間が座る面積はなかった。
九人しか居ない?
いや、一番出口に近い席にはもう一人、
【人では無いもの】が座って居る。
俯き黒い髪を垂らす白いワンピースの女。
ブツブツと何かを呟いて居るそいつは、
一見危ない人だが血塗れの服に
逆に曲がった腕が、
明らかに化け物だと告げて居る。
しかしこの無関心な現代社会。
気付いて居るのか居ないのか、
はたまた無視なのか誰も女の方を見ようとはしない。
私含め。
プシュー、
扉が開く音。
たくさんの人が車内に乗り込んで来る。
「おばあちゃん疲れたよ~…」
「うーん…座るところは無さそうだね…」
その時だ、
明らかに優先席に優先され座るべき住人、
60代の老婆と、
3才の孫と言う最強コンボが車内に乗り込んで来た。
キョロキョロとする祖母は心なし優先席を見る。
優先席では私含め幽霊以外全員、
「お前が降りろ」
的な視線をチラチラ送り合い、
小さなプレッシャー攻撃祭りと化していた。
そして永遠とも思えたその時間、
椅子から立ったのは…
「どうぞ」
一人の老人。
若者は立たない。
さぁ、これで開ける席は後一つ、
しかし誰も立たない。
「…………」
また誰もが目を伏せた時だった。
スクリ、
「アイツ」が立ち上がった。
そのままアイツは寂しそうにこちらを睨むと、
フワリ、と消えた。
老婆はそのまま孫の手を引き椅子にイン。
孫だけが不思議そうにして居た。
幽霊に席を立たせる電車内が
私は一番怖かった
怖い話投稿:ホラーテラー とちおとめさん
作者怖話