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長編8
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竜神様の飴

 僕は小学校5年生の頃、肺を患い、祖父の住むど田舎で2年ほど暮らしたことがある。

これは、そこで起きた不思議な話だ。

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家の近くに遊び場はなく、また、病気のせいであまり外で遊ばせてくれなかった祖父だが、

一週間のうち水曜日と土曜日は、寄り合いか何かでいつも帰りが遅く、僕はそれを見計らって、よく家を抜け出していた。

遊びに行く場所は決まっていた。

山の入り口に少し入った場所に、綺麗な川辺がある。

そこには小さなお堂のようなものがあって、そこが僕らの遊び場になっていた。

そう、僕らだ。

実は以前、興味本位でそのお堂を見に行ったときに、一人の着物を着た少女と出会ったのだ。

歳は同い年で、僕らは妙に気があったのか、それ以来水曜日と土曜日は、かかさずここに来て一緒に遊んでいた。

山遊びに慣れていたのか、少女は僕にいろんな遊びを教えてくれた。

沢蟹捕りに昆虫探し、山で取れる美味しい果物なんかを二人で探したり、本当に退屈しない毎日だった。

「はい、飴」

僕はそう言ってから、缶に入った飴玉を少女に手渡した。

メロン葡萄にミカン味。たくさんの種類の飴が入っていたが、なぜか少女はその中にあるハッカ飴を好んで食べた。

僕としては大助かり、ハッカの味はどうも苦手だ。

「ありがとう」

少女は嬉しそうに飴を頬張ると、美味しそうに目を細めた。

「なあ、Sはずっとここで暮らすのか?」

少女が何気に聞いてきた。

「何でそんな事聞くの?」

不思議に思い、少女に聞き返す。

「だって、いなくなったら寂しいやん」

はにかみ照れ笑いを浮かべる少女にそう言われ、僕は顔を真っ赤にしてしまい、それ以上何も答えられなくなってしまった。

その日は一日川で遊んでから、僕は夕暮れ時になって家に帰宅した。

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次の約束の日も、そのまた次の時も、僕らはたくさん一緒に遊んだ。

夏から秋、秋から冬、冬から春へと、季節が変わるにつれ遊び方も様々だ。本当に毎日が新鮮だった。

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そんなある日の事、僕は遊びつかれたのか、夕飯を済ませ、早々と布団の中で休んでいた。

が、二時間ほどして目が覚めてしまい、そのまま暗い部屋の中、ぼうっと天井を眺めていた。

「sはやっぱり手術せないかんらしい。来週あたり向こうに迎えに来てもらおう」

祖父の声だ。

手術?誰が?僕が?

どうやら僕の体は思っていたよりも悪いらしく、父と母がいる都会に戻って、手術を受けなければならないらしい。

それを聞いて、何だか僕は急に胸が苦しくなった。

少女の顔が脳裏に浮かび、不意に目頭が熱くなる。

その日は悶々とした気持ちのまま、僕は深い眠りに落ちた。

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木曜日。

約束の土曜日まで、僕は待てなかった。

雨が土砂降りのように降っていたけど、そんなのはおかまいなしに、僕は家を抜け出し、傘を持っていつもの場所へと向かった。

会えるかどうかは分からない。それでも今行かなきゃ、もう会えなくなるかもしれない。

それは絶対に嫌だ、それだけは……

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やがていつもの川辺に辿り着く。

雨のせいで水かさが増しているのか、川の様子がいつもと違っていた。

土色に濁った川が、ゴウゴウと恐ろしい音を立て川を下っている。

僕はふとお堂の方を見た。

こんなとこにあって大丈夫だろうか?川に流されたりしないだろうか?

なんて事を思っていると、

「S……?」

信じられない事に、お堂の裏から少女が顔を出したのだ。

「なんで……今日は約束の日じゃないのに」

僕がそう聞くと、少女はお堂の裏から姿を現した。

「Sの声が聞こえた気がした……」

少女の言葉に、僕は少し照れながらもほっとした。

だが、そんな明るい僕に対し、少女の次の言葉は暗いものだった。

「でも、今日はだめや、帰らんと」

「えっなんで?せっかくここまで来たのに」

「ごめん、お父様が怒ってん、ここも危ないかもしれん……」

「お父様?」

そう言って、僕は首を捻って見せた。

そう言えば、僕は少女について何も知らない。

名前も聞かないままだし、どこに住んでいるかも分からない。

親が何をしているかなんて聞いた事もなかった。

お父様が怒っている……それでなんでここが危ないんだろう?

そう考えていた時だった。

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shake

ドバッ

川の音が一変した。

何かが爆発したかのように水しぶきが辺り一面に上がった。

瞬間少女が叫んだ。

「S、逃げて!!」

それと同時だった。

川上から土砂が混じった巨大な水が一気に流れ込んできた。

氾濫した川は周辺の木々を薙ぎ倒し、一気にお堂と共に僕らを飲み込んでいく。

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口の中に大量の水が流れ込み、瞬く間に息ができなくなった。

手足をばたつかせ必死に抵抗を試みるが、何もかもが無駄な抵抗だった。

やばい!

それほど水の力は凄まじく、僕の体は人形のように流されてしまった。

死ぬのかな……

意識が遠のく感じがした。

あ、あの……子は……!?

頭の中で必死に少女の顔を思い出し、助けなきゃと願った。

すると、

あれ……?なんだ?

突然、嘘みたいに体が軽くなった。

水の抵抗がなくなり、さっきまでの息苦しさが微塵もなくなったのだ。

しかも体が宙に浮いている。いや、正確には浮いているのではなく、何かに下から押されるようにして浮上している。

足元を見た。

何だこれ……!?

ヌルヌルとした感触、鱗のような皮膚、巨大な……蛇!?

一瞬そう思い恐怖しそうになったが、次の瞬間、僕の頭の中に直接語りかけるような声が響いた。

聞き覚えのある声、少女の声だ。

「S、ごめんな……本当にごめんな」

間違いない、少女の声だ。

僕はその声を聞き、妙に安心してしまったのか、急激な睡魔に襲われた。

「ゆっくり休んで、Sは、Sは絶対に私が守ってやるから……」

少女の心地よい声が頭の中に響いた。

それだけで何か嬉しくなり、僕はそのまま誘われるように目を閉じた。

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気がつと、僕は家の布団に寝かされていた。

布団の横には泣き出しそうな祖父と祖母がいて、目を開けた僕は祖父達に力強く抱きしめられた。

あの日、家を抜け出した僕を、雨の中たくさんの村の人たちが探し回ったそうだ。

何か知らせがあったらと、家には祖母だけが留守番をしていたらしい。

そこへ、一人の着物を着た少女が現れたらしい、ぐったりとした僕と共に。

慌てていた祖母は僕を抱え上げすぐに布団へと運んだ、でも直ぐにハッとして庭に目をやったが、そこにはもう少女の姿はなかったという。

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あれから何日かがたったある日の晩、夜中に熱でうなされた僕は、ふっと目を覚ました。

朦朧とする意識の中、暗闇に目を凝らす。

おばあちゃん?

ふと、部屋の隅に人影のようなものを見て、思わず声を掛けた。

が、返事はない。

代わりにしばらくしてから、

「S、大丈夫か?」

と、声を掛けられた。

この声には聞き覚えがある。

混濁した意識がすうっと晴れていくような感じがした。

そう、少女の声だ。

「ど、どうしたの、何でここに?それより……そうだ、元気なんだね、良かった。本当に良かった。それと、助けてくれてありがとう」

「うん、ええよ、Sのためやもん。それよりS」

「な、何?」

僕は少し照れながら返事を返す。

「うち、もう山には住めんくなった。たぶん、もう一緒に遊べんと思う」

少女の悲しい声。

胸が締め付けられそうになった。

別れは覚悟していた。

母親たちの住む家に帰らなきゃいけない、もうすぐここを出て行かなければならない。

だけど……だけどそれを口にする勇気が、僕にはなかったからだ。

それを少女の口から言われたことが、僕には凄くショックだった。

思わず泣きそうになり、誤魔化そうと布団を目深く被った。

「S……Sはうちと一緒に居たい?」

少女の質問に、僕は泣くのを必死に堪えながら答えた。

「あ、当たり前だよ!ずっと、ずっと一緒にいたい……よ」

だめだ、我慢できそうにない。

そう思った瞬間、僕の両目からは熱いものがこみあげていた。

「そっか……一緒に居てもいいんや……うち、妬きもちやきよ?」

「えっ?」

突然の言葉に、僕は思わず涙を拭いて、布団から体を起こした。

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「な、何が?」

「ずっと側に居てもいいんよね……?」

少女の懇願するような声に、僕は思わず、

「う、うん」

と大きく頷いて見せた。

すると少女が僕の側に歩み寄り、側で腰を下ろすと、僕の背中に両の手を伸ばし、抱きつくようにしてから、僕のおでこに自分のおでこをくっつけてきた。

かなり恥ずかしかった。が、それよりも何よりも心地良かった。

あれだけの熱にうなされていたのが、嘘みたいに引いていくのが自分でも分かった。

「大切にしてな……約束やからな」

少女が囁く様に言った瞬間、僕はまたあの水中の中で感じた、深い眠りに襲われた。

どこまでも深い水のそこに沈んでいくかのように。

でもそこに不安は感じなかった。

横には少女が居て、少しはにかみながら、僕の手を握っていてくれていたからだ。

僕はその手を握り返し、そのまま深い水の底へと、どこまでも沈んでいった。

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次に目を覚ましたとき、僕の体は嘘みたいに軽くなっていた。

熱も下がり、健康そのものだった。

それにもっと凄い事が起こった。

病院で検査を受けた結果、僕の肺は至って良好と診断され、これからは病院に通う必要はないと医者に言われたのだ。

みんな凄く喜んでいた。

僕も嬉しくなり、少女に報告しようと、あのお堂の場所へと向かった。

だが、そこで少女と出会うことはなかった。

お堂のあった場所は土砂で埋め尽くされており、子供の僕ではどうしようもない状況だった。

結局、祖父の家から母親たちの待つ実家に戻る日まで、少女と出会うことはできないまま、僕は帰省することになった。

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あれから数年が経ち、僕は中学二年生となった。

たくさんの友達もでき、病気や怪我もなく毎日を過ごしていた。

ただ、一つ気になることがあった。

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僕はあいも変わらず飴の入った缶を買うのだが、なぜか僕の嫌いなハッカの飴だけが、いつも入っていないのだ。

いや、正確には入っていないのではなく、いつの間にやらなくなっているようだった。

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「あれ?」

「どうしたS?」

僕の声に、友達のYが聞いてきた。

「いや、またハッカがなくなってる……」

そう言って僕は顔を近づけ、缶の中を見回す。

「ハッカってあの飴の?知らないうちに食ったんじゃね?」

「ううん。僕、ハッカは嫌いなんだけど……」

言ってから頭をひねり考えていると、

「おいS、見てみろよ!」

shake

突然Yに腕を掴まれ揺すられた。

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「な、何?」

「あれ、すっげえ美人!」

Yがそう言ってから前方に目をやった。

釣られて視線をそっちに移す。

そこには、塀にもたれ掛かるようにして立ち尽くす、和服の女性の姿があった。

銀色に輝くような綺麗な長い髪に、妖しくも美しい瞳、僕らは吸い込まれそうになりながらも、ふらふらとその女性の前を通り過ぎた。

女の人に見とれて歩くなんて、生まれて初めての事だった。

通り過ぎた後だというのに、心臓がまだバクバクと鳴っている。

が、次の瞬間、

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「大切にしろよ?約束だからな……」

「えっ?」

耳元で確かにそう聞こえた。

女の声で、僅かに微笑する声でハッキリと。

ハッとして振り返る、が、そこに女性の姿はもうなかった。

約束……

この後、僕の身の回りで度々変なことが起こるようになったのだが、その話はまたどこかで……

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修行者様、感想ありがとうございます。

いえ、ただまあこんなのもたまにはいいなあと思いまして笑

特に続編などは今のとこ考えてはおりません。

地味な話でもありますし、万人受けするようなものでもないみたいなので。

まあどこかで息抜きしたい時なんかに考えて見ます笑

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あんみつ姫様、感想、ありがとうございます。

売ってますよ。

見かけるとついつい買ってしまいます笑

おや、一人称に気がつきました?

さて、もしかしたら僕っ子かもしれませんよ?笑

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ロビン様、感想、怖ポチ、ありがとうございます。

お久しゅうございます。

しかし……何たる外道……あ、書いたの私か笑

彼にとって、一生のご褒美だといいんですけどね笑

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むぅ様、感想、怖ポチ、ありがとうございました。

さて、この後、彼の身には一体どんな事があったのでしょうね?
厄災か?いや、災い転じてという言葉もありますからね笑

読み易いですか?ありがたきお言葉!

常に回りくどい言い回しが多いと、自分では本当に悩んでいるとこなんですが、そう言って頂ける事で、少し心が晴れました。
本当にありがとうございます。

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続きが気になりますな。
コオリノ殿のお話しは読み易い上に奥深い( • ̀ω•́ )✧

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