むかしむかし、あるところに老夫婦が山で自給自足の生活をしていました。
ある日、どこかの山から追い出された若い娘がこの老夫婦のところへ流れてきました。
「追われているの、たすけてください」
それを見かねたおじいさんはその若さと美しさにひと目で惚れてしまい、「あっしにまかせろ!」と自分の胸をたたいて見栄をはりました。
家に連れて帰り、扉の隙間からのぞかせると、婆さんはまだ川から戻ってきていないようでおじいさんはその娘を家に入れ、このあとのことを考えました。
「婆さんにどう説明したらいいんじゃろうか・・・」
悩み悩み、結局考えが浮かぶままおじいさんは寝てしまいました。
娘さんはおじいさんを寝たのかどうかを確認を終えると、おばあさんを探しに外へ出ていきました。
絹を裂くような声がしました。
おじいさんはその叫び声に驚きその場へ駆け出します。
声の方角はどうやら川で、おばあさんがよく川で選択しているところでした。
川には赤い血が上流から流れて来ていました。
おばあさんが危ないと悟ったおじいさんはおばあさんを探しに歩き出しますが、ふと娘さんのことも気になりました。
目が覚めたとき、部屋には娘さんの姿はなかった。
逃げてきたといっていた。
だれかの叫び声が聞こえてきた。
それを察したおじいさんはおばあさんの行方を捜しました。
けれども、日が落ちてもおばあさんの姿は見当たりません。
見知っている山とはいえ、日が落ちてしまった山はとても危険です。
もしかしたら戻っているかもしれないと思い、家に戻りました。
家に帰ると、そこには娘さんだけが料理をして待っていてくれていました。
「おや、まあ、食事を作ってくれるなんてすまないね」
「いえ、きえたおばあさんの代わりです」
「すまないね」
出された食事はお味噌汁、米の泡、わずかな漬物、細く小さな魚。
娘さんが微笑みながらその食事をいただき、味わっていただく。
そのとき、扉からドンドンと音がした。
娘さんは顔が青ざめていくのが見えました。
おじいさんは娘さんが追っ手がここに来てしまったのだと思い、奥の部屋へ隠れているように促しました。娘さんはそのまま家の奥へいき隠れました。
おじいさんは扉を開けました。
そこにいたのはびしょ濡れたおばあさんの姿がありました。
おばあさんは部屋に入るなりこう言いました。
「あの娘はどこだい?」
おじいさんは答えました。
「どんな子だい?」
おばあさんは詳しくその姿を説明しました。
奥の部屋にかくまっている娘さんそのものの姿と同じだと悟りました。
しかし、あれだけの美しさだ。
おばあさんに教えてもらったら娘さんは殺されてしまうか、それとも追い出すのか、それとも追っ手を招くのか、嫌な予感が湧きます。
回答に答えられないおじいさんを見かねたおばあさんは大所にあった包丁を持ち、おじいさんに向けながらこう言いました。
「白状しなさい! さもなければ殺すわよ!」
「ひぃぃぃぃぃ」
おじいさんは渋々答えました。
包丁をもったおばあさんに歯がたたないと悟ったおじいさんは渋々、おばあさんに娘さんは部屋の奥に居ると伝えました。おばあさんは包丁に舌でぺろっと舐めながら奥の部屋へ歩いて行きました。
おじいさんは娘さんが殺されるのではないかと思い、咄嗟に農業作業に使う桑(くわ)を掴むなり、後ろからおばあさんに向かって桑を振り下ろしました。
ガッ!
どれくらい時間が経ったのだろうか、おじいさんは目を開けるとそこには無残に殺したおばあさんの姿が床に転がっていました。とても悔しくて憎くて怒った顔でおじいさんを睨みつけるかのように倒れていました。
おじいさんは桑を放すなり、おばあさんに申し訳ないことをしたと詫びた。
そこに、娘さんが出てきておじいさんにすがるようにこう言いました。
「これで、晴れて私とあなたの生活が始まりますね」
と、娘さんは微笑みながらおじいさんにそっと顔を寄せました。
おじいさんは泣きながら娘さんの頬に近づきわんわん泣いていました。
翌日、おばあさんの死体を隠し、農業作業をしていると、遠くから来たのか侍さんたちが数人やってきました。
おじいさんは追ってなのだと思い、軽く返事をして返す予定でした。
だが、侍さんたちはおじいさんに刀を抜くなりこう言いました。
「おマイさんから血の匂いがする。最近、人を殺したな」
おじいさんは顔を青ざめました。
たしかにおばあさんを殺したのは事実だ。
匂いなんて、川でかなり荒い流したのに・・・なぜだ?
「この辺にすむ若くて美人の女に教えてくれたんだ」
”この先に住むおじいさんが私の祖母を殺したのです。あのおじいさんが怖い。助けてください”
と、おじいさんは悟った。
嫌なことが的中した。
林が囲む薄暗い木のそばから微笑む娘の姿があった。
刀を振り上げたとき、おじいさんは娘さんの声が聞こえたような気がした。
「あとは、私にお任せ下さい。ゆっくりとおやすみください」
作者EXMXZ