私は歯科衛生士です。
数年前に実際に私が職場で体験したお話です。
診療は全て終え、患者さんもみんな帰り、スタッフ4人で最後の後片付けをしているときのことです。
その日は私が掃除機当番の日でした。
ガーガーと待合室を掃除機をかけていると、患者さんが入ってくるドアが開きました。
「こんにちは~」
明るい声で入ってきたのは、レセプト(保険点数を計算してくれる)Oさんというおばちゃんでした。
彼女は毎月、月末と月始めに来る方です。
もう何年もの付き合いです。
Oさんが待合室に入ってきてすぐその後ろから白髪の、オジサン(…どちらかというとオジイチャンに近いのですが)も入って来ました。
Oさんはいつも一人で来るのに今日は人を連れてきて珍しいなー
と思いながらも私は、その方にも笑顔で
「こんにちは~」
とご挨拶しました。
その方はとても素敵な笑顔で微笑みながら私に軽く会釈して挨拶を返してくれながら私の横を通って行かれました。
そんなことも忘れて掃除も全て終え、スタッフルームでスタッフ4人で白衣から着替えてるとき、あっ、と思い出してみんなに、
「そーいえば今日Oさんと一緒に来たオジサンって誰?」
と、尋ねました。
しかし、みんな「はぁ?」という反応。
「何言ってんの?Oさん一人で来てたよ。いつも一人じゃん。今まで誰も連れて来たことないしー」
誰も見てないって言うし、
「でも今日はオジサンも一緒に入ってきたよ!だって私挨拶したもん!」
って反論しても誰も信じてくれず。
しまいには、
「もう恐いからやめてぇ~」
って言われてしまったので、私は納得できないままにその話はもうやめにしました。
…けど私、しっかり挨拶したし、見たし…
私は自分でも不思議なくらいそのオジサンの服装から姿格好まで、かなり鮮明に頭に焼き付いているんです。
白髪まじりで、メガネかけて、背筋がシャキーンと伸びていて姿勢が良くて、ボーダーの綿のポロシャツを着ていて、ズボンは麻系の軽い感じのものをはいていて、きちんと黒のベルトでしめていて…
昔は絶対モテただろうって感じのオジサン…
普通なら忘れても良さそうなことでしたが、
あまりにも脳裏に焼き付いていて、絶対Oさんに確認しなくっちゃ…って何となくそんな感じがしてそれから1ヶ月経ってまたOさんが来た日、私は尋ねてみました…
私はちょっとビビりながら(←実はちょっとビビってた)
「先月来た時、オジサンと一緒に来ましたよね?」
と、Oさんに尋ねてみました。
しかしOさんは、
「いや、私一人よー。私は一人でやってるから人は連れて来たことはないわー。」
って。
みんな、「ほらぁー」って感じでしたが私はOさんに、一緒に来たそのオジサンの風貌を全て伝えて、
その人が確かにOさんのあとから入ってきたことを伝えました。
そしたらOさんは次第に真剣な顔になって行き、
「あら…。そぉ…。
その人…私の旦那のお義父さんかも…」
と、言いました。
でも話が飲み込めない私たち。
一人でしか来たことないって…
そしてOさんはゆっくり話してくれました。
Oさんのお義父さんは昨年、脳梗塞でトイレで倒れたまま亡くなったそうです。
お姑さんは意地悪な人でしたが、お義父さんはとても優しい人で
遅くから仕事に出かけるOさんのことをいつも心配して「気をつけて行ってきなさい。」
と言ってくれていたそうです。
「だから、私のことを心配してついてきてくれたのね…。」
と言っていました。
そして私がしっかり脳裏に焼き付いているその服装は、お義父さんが外に出かけるときは必ずその格好をしていたという服装で、お姑さん(奥さん)に、
『いつも出かけるとき同じ服装でたまには変えなさいよ。』
と言われても
『俺はこの服装が好きなんだ。』
と言っていた服装だったそうです。
背筋がシャキーンとしててかっこ良かったことを伝えたら、それは昔お義父さんは船の船長さんで、本当にきちっとした人でかっこ良かった方だったそうです。
今でも忘れられないくらい、あまりにも鮮明に覚えていて、気になって、きっとお義父さんはOさんに、
『ちゃんと守ってあげてるからね。』
ということを私に伝えて欲しかったんだろうな。と思います。
すごく素敵なお義父さんでした。
怖い話投稿:ホラーテラー ぴぴさん
作者怖話