私は背が高い事をコンプレックスにしていました
幼いころからからかわれ
少しでも背を低く見せるために
背を丸め、俯きました
自然と上目遣いになり、
目付きが悪いと言われました
それを隠すために髪は常に長く顔を隠すようにしました
暗いねと言われ、友達も出来ませんでした
笑い合う人もいなくなり
笑顔の作り方を忘れました
両親は世間体を気にする人でしたので
そんな私を疎ましく見ていました
両親にも笑えと言われ
笑おうとすると口が引きつるので気持悪いと言われました
両親との関係も悪くなり家でも部屋に閉じこもることが多くなりました
高校生になっても背は伸び続けました
同級生があまり進学する事のない他県の
高校に進学したので
静かに高校生活を一人で過ごす事が出来ました
その頃には合うサイズの服は男性の物だけになっていたので
私は服を作り始めました
高校を卒業する頃には服を作ることだけは得意になっていました
服飾の専門学校へ進み
服を作り上げることで
自分の居場所を見つけました
女性の多い学校は特に私をからかう者もいなく
今までとは違い服を褒めてもくれました
友達も出来て
俯く事も少なくなりましたが
長年笑っていなかったせいか
笑うと左の口角だけが上がりました
仲間もそれをからかいましたが
悪い気はしませんでした
私は成績も良くアパレルメーカーに勤めることが出来ました
両親との関係も少しずつよくなってきていました
しばらくして会社の同期の友達も来る食事会に誘われました
男性も来るということで
昔の記憶から怖い気持ちが先行しましたが
自分を変えるためにもと参加しました
私はそこで彼と知り合いました
彼も背が高く、そのことをコンプレックスにしていた、とそんな話で緊張もほぐれ
私たちは付き合うようにりました
左側しか口元の上がらない笑い顔も彼はそれが綺麗だと言ってくれました
小学校の教師の彼は真面目で、責任感もあり将来を約束しあうにも時間はかかりませんでした
布の裁断や縫製もしている私の仕事を知り
彼は2人の名前が刻まれた裁ちバサミをプレゼントしてくれました
まだ貯金があまり無いからと
それが私たちの婚約指輪の代わりようになりました
そんな彼は担任する子供達にも職場の先生たちにも
笑顔が綺麗な人と結婚するんだと自慢したと言って笑っていました
私が恥ずかしがって笑うと
それそれ、その顔
と、からかわれました
私はその鋏で少しずつ白いドレスを作り始めました
その鋏で生地を裁断している時
私は幸せを実感していました
職場の同僚に打ち明けると祝福され
両親も喜んでくれました
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彼に私以外の女性との子供が出来たのは
ドレスが出来上がるころでした
あと、3ヶ月で産まれると言われました
職場の同僚で飲み会のあとに一度だけ関係をもったようだ、と言いました
泥酔していて記憶はないんだと
でもそのお腹の子供に責任を感じている、と
その女がいま不安定な状態なんだ、と
子供が産まれるまではその女のそばに
いなければならない、と
産まれて落ち着いたらまた君のところに戻ってくると言いました
信じて欲しい、と
今はお腹の子供が無事に産まれてさえくれれば君のところに帰ってこれるんだ
そんな風に泣かれました
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もう産まれて何ヶ月ぐらいになるのか
産まれたと一度連絡はありましたが
その後は連絡はありません
携帯もつながりませんでした
アパートに行ってみましたが引っ越したようでした
彼の職場だった小学校に一度電話してみたら
あの女と一緒に退職したと言われました
夫婦で退職したと言われました
夫婦で…
女の実家が大きな会社を経営しているそうで
そこを手伝う為だと
その時、彼が結婚した事を始めてしりました
私はもう少し待てばいいんでしょうか
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あれから1年ぐらい過ぎました
職場では何時までも結婚しそうにない私に
噂が流れ始めました
結婚の話は嘘だったんじゃないか、と
まだ式場も決めていなかった私には
噂を否定出来るものはありませんでした
私は職場でも親しい人には事情を説明しました
誰もが私を憐れんでみました
彼は帰って来ないよ、と言う人もいました
職場では腫れ物に触るように扱われなぜが周りから人がいなくなりました
職場で何が分かるんだと1人づつに言って回りました
私は勤め先にいられなくなりました
両親にも彼が戻ってくる事はないと言われました
私が彼の誠実さ責任感の強さを必死で説明しても無駄でした
また両親との関係は悪くなりました
ご近所さまにもなんて説明すればいいんだと罵られました
私は家に居られなくなりました
そして
また笑えなくなりました
髪をのばし顔を隠し背を丸めました
でも
私はもうすこしだけ待っていようと思います
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彼からの連絡を待つ携帯はもう鳴ることもありません
もうどれくらい食べていないのでしょうか
喉の渇きにも慣れました
長いこと寝ていた気がしますが
昨日彼の夢を見ました
私と彼と子供が遊ぶ夢を
そして私はその女の子供と彼と3人で暮らしてもいいと思いました
彼は私がその子と暮らすのを躊躇していると思っているのではないか
その彼の想いに気がつくと待っているのが辛くなりました
今、もう一度彼の職場だった小学校に連絡してみました
事情を説明して住所を聞いてみたのですが
何人も電話の向こうで人が変わり
そのうち警察に連絡しますよ、と言われて切られてしまいました
私は彼を救おうとしているんです
彼の子供も
彼が悩み続ける姿…
もう待つ必要はないと思いました
彼が私の事を考えない日が1日でもあるわけがないんです
私は今、自分の愚かさに悔いています
震えています
彼の気持ちに早く気がついてあげられなかった事に
あの女にずっと夢だった教師の仕事も奪われたんです
大きな会社の一人娘だかなんだか知りませんが
この2人の名前が刻まれた裁ちバサミを見せて説明すれば彼のいた学校のみなさんもわかるはずです
かなり黄ばんでしまいましたが
せっかくですからこのドレスを着ていきます
だいぶ痩せて身体には合わなくなりましたけど
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女は鏡の前に立ち
顔を覆う艶の無くなった髪を手で払い
肩の落ちるドレス姿を見つめた
白く濁り窪んだ目と肉の削げ落ちた頬
笑うことの出来ないこの顔では彼に申し訳ないと
手にしていた裁ちバサミを左の頬にあてた
僅かに開いた口に開いたハサミを奥まで通し
ゆっくりと閉じていく
ハサミは抵抗なく閉じられ
支えが無くなった下顎と
頬の皮がだらしなく垂れ下がった
女はもう一度鏡を見て
少し首をかしげた
笑顔に見えるかしら、と
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外へ出ると街の日は翳り始めていた
脚を早める女が手にしたハサミが
僅かに残る日を反射させていた
ぎこちない脚の運びとは逆に速さばかりが増していた
左だけが落ち歪んだ口元からは
笑いがこぼれた
彼に会える、迎えに行ける
その高揚感に笑わずにはいられなかった
1時間ほど過ぎただろうか
女は彼の勤めていた小学校の前に立っていた
すっかり日が暮れたが
わずかに一角明かりが見えるところがある
女はそこが職員室だと理解した
再び歩を進めようとする女の目に1人の子供の姿が映った
居残りさせられたのだろうか
ぽつぽつと校門に向かってくるその児童に
女はふわふわと近づいた
児童も女に気がつき身体を強張らせ上を見上げた
女はゆっくりと髪をかき上げ
顔を覗き込む様に聞いた
ねぇ
わたし
きれい?
作者退会会員
細井ゲゲさんの
口裂け女に触発され
前から書いてみたかった同じ題材のものを
書きました
難しい〜
始めて三人称の文章も入れてみましたが
やっぱり難しかったです
最後まで読んでいただいた方、ただただ感謝です
今回は粗も多いと思います
アドバイスなどもいただけたらと思いますm(_ _)m
今回はコンプレックスを題材にしているので
気を悪くされて方がいらっしゃるかもしれません
純粋さを描くための描写として描かせていただきました
申し訳ありませんでした