蒸し熱い夏の夜、私はお風呂でさっぱりした身体を冷やそうと、一番北側にある部屋でノートPCを広げて陣取った。
夜9時からの私の楽しみな時間の始まりだ。
ネットサーフィンやショッピングを飽きるまで、時には0時過ぎてもやっている。
リラックスパジャマに左手には冷たいグレープフルーツのジュース、
右手にはポテチの大袋といういでたち。
愛猫の茶美が今夜も助手として膝の上に納まります。
今日も経済ジャーナリストの記事から始まって、
ジャンルは問わずにブログや動画を見て回る。
おっとこれ欲しいけど高いな~・・・なんて言いながら、ふと目に留まった実話怪談サイト。
今夜のおかずはこれですな~ってな感じで、ポテチを頬張りクリッククリック。
100話怪談を読み始めた。
今夜だけでは読めない量だから、眠たくなるまで読んでは数日が過ぎた。
さて、最期の夜の100話目になっても、私はお決まりの大事なことをすっかり忘れていた、
というか考えもしなかったんだけど、
何故こんな重大な規則に気が付かなかったのか、相当に後悔することになった。
そうです、100話語ると怪現象が起こるんでしたよね。
100話目を読み始めた頃、愛猫チャミが膝の上から私の背後をじっと見始めた。
何度も何度も背後を仰いではガンミしている。
・・・・私は、虫でもいるのね、と気にも留めずに読みふける。
そして、半ば程まで読み進めたころにそれは起った。
スクロールが勝手に高速動作したのだ。
「えっ?!」て思う暇もなく、マウスに掛けた人差し指が尋常ではない速さで勝手に動いた、
いや動かされた。
チクチクチクチクチクチクチクチクチクッ。
あんな高速クリックが出来るとしたら多分宇宙人だろう。
あんぐり口を開けたまま勝手に動く自分の指を見る。
他人の指のような自分の指に、激しい恐怖が噴き上がると同時だった。
助手として膝にいた愛猫の様子が異常な動きを始めた。
チクッという人工音に合せて瞼がけいれんし、
頭が顎が跳ね上がるように高速上下している。
「・・・・と、止めて!」
言葉にはならないか細い声でそう言った瞬間、
チャミは膝から50㎝ほど飛び上がり、フローリングの床をかき鳴らしながらリビングへ走って行った。
「チャミ!チャミ!」と猛ダッシュで追いかけた。
チャミはテーブルの下で硬直し泡を吹いていた。
舌を噛み切らないように口の中に夢中で指をいれた。
背中を摩ったり叩いたりしながら名前を呼んだ。
長い長い時間そうしていたように感じたが時計を見ると1分も経っていなかった。
硬直が解け意識が戻っても、チャミはテーブルの下から出ようとせず、
キョロキョロと周囲を警戒して怯えていた。
何処かから、私を見据える気配に鳥肌が止まない。
そこへ、
「なになに何なのどうしたの?」
と息子が心配して出てきた。
チャミを抱き上げ撫でながら、奇怪な現象の一部始終を説明した。
すると、あり得ない事柄が息子の口から飛び出した。
「お母さん北側の部屋で一人でキレてただろう、何キレてたの?
電話で誰かと喧嘩でもしてたの?低い声ですっごい怒ってたよ。」
というのだ。
「ホントに?お母さんしゃべってないわよ。」
やめてくれよ、私はたった一人でしゃべったりしないし、ましてやキレるなんて・・・
まぁたまにはあるけど年に一度くらい、仕事で仕方なく・・・
とにかく、どんな音も出していないはずだ。
家中の電気を付け、珍しく暖かい緑茶を息子が用意してくれた。
そして、
「・・・アレ・・・、そういえばアレお母さんの声とは違うわ。」
きっと興味本位で見ていた私に、どなたかの霊が怒ったのでしょう。
翌日、チャミはかかりつけ動物病院で診察を受けました。
「脳圧が上がっていますね。」
とのことで、発作予防のために、毎日シロップ薬を欠かさず飲む事になりました。
時折、目覚ましの電子音でも硬直発作を起こす前触れが見えます。
チャミはそのたびごとに、
周囲の気配に耳を澄まし、怯えるのです。
以来、
あらゆる音を慎重に取り扱い、静かに暮らしました。
うかつに心霊サイトに立ち寄ってはならないと反省しながら
懲りずにこのこ怪談サイトに投稿します。
作者wind
はじめての投稿です。10年前の実話です。
愛猫チャミは1年ほどで回復し、その5年後、22歳の冬、安生として逝きました。
私のせいで罪のない可愛い猫に辛い思いをさせてしまいました。
怪談は人の死を悼む心で聞かせていただき読ませて頂くよう心がけております。