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中編3
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帽子屋のアルバイト

大学生のころ、ショッピングモールの帽子屋でアルバイトをしていた。

始めてすぐ、私はブログに新商品の記事を載せる際の、モデル役をすることになった。

と言っても、私が特別キレイだったわけじゃない。

その時、一番新人の子がモデル役をやるという、店の決まりごとがあったからだ。

ブログをチェックしているお客さんは、思ったよりも多かった。

「この前の記事に出てたあの新商品、ありますか?」

そんな風に指名買いしてくる人は、珍しくない。

お得意様たちの物欲をあおるためにも、私は気合いを入れて化粧なんかして、少しでも売上に貢献するモデルとなるべく頑張っていた。

ある日、お客さんの一人からこんなことを言われた。

「最近、ブログに出てる店員さん、めっちゃキレイじゃないですか?

本職のモデルさんだったりするんですかー?」

正直、めちゃくちゃ嬉しくて、顔がにやけた。

「えー、ありがとうございますー。

あれ、実は私なんですよー」

「え・・・?」

そのお客さんは、しばらく微妙な目つきで私を見つめた後、腑に落ちない様子で帰ってしまった。

(現実の私はイメージと違うってか!?)

喜んだのもつかの間、ひどい反応を返されて、ムカムカした気持ちが湧いてきた。

(ていうか、そんなに盛れてたのかな?私の写真)

気になったので、休憩時間にスマホでブログを確認してみると、

「は・・・?」

異常だった。

私が写っているはずのブログの写真には、すべて別人が写っていた。

いや。

体型も、服装も、私とまったく同じ。

ポーズも同じ。かぶっている帽子も、すべて記憶のまま。

しかし、顔だけが明らかに変わっている。

私よりも数倍キレイな、芸能人レベルの美人になっているのだ。

鼻が高く、目もキリッとしていて、かっこいい。

「店長。ブログの写真に、変な加工するのやめてもらっていいですか?

私、そんなにブスですか!?」

業務が終わった後。

私は店長を問い詰めていた。

無断で、ひとの顔を加工してブログにアップするなんて、失礼すぎる。

そう思ったのだ。

しかし、店長はまったく身に覚えがないと言う。

実際にブログを見せると、店長も本気で驚いていた。

「ウソでしょこれ?なんで顔変わっちゃってんの?」

「こっちが聞きたいですよ。

てっきり、店長が私の顔を加工して、美人にしたんだと思いました」

「いやいや。そんな技術ないし。

そもそも、俺がアップする時は、いつも通りの顔だったんだよ?

じゃなきゃ、アップなんてしないって」

他の店員に聞いても、その写っている女性の顔に見覚えのある人はいなかった。

というか、顔以外は完全に私なのだ。

気持ち悪すぎる。

店長に頼んで、しばらくブログはお休みさせてもらうことにした。

次の日。

午後からシフトに入っていた私は、いつものように部屋で身づくろいをしていた。

化粧をし、服装を整える。

特に、帽子が似合うコーディネートになるよう、気を遣わなくてはいけない。

店で取り扱っているアイテムを、接客の時は必ず身に着ける。

アパレルの常識だ。

その日、私は紺色のキャップをかぶり、鏡で全身のコーディネートをチェックした。

息が止まった。

鏡に映っている私の顔が、ブログの女と同じ顔をしていたからだ。

私はきっと青ざめていたと思う。

けれど、鏡の女は笑っていた。

声の出ない私に向かって、鏡の女はゆっくりと口を開けた。

「あ」

「と」

「す」

「こ」

「し」

「だ」

「か」

「ら」

私はキャップを鏡にぶん投げた。

傷ひとつつかなかった鏡の中で、私の顔はもとに戻っていた。

すぐ店に電話して、バイトを辞めることを伝えた。

その店は、今でも残っている。

ブログも継続している。

私の知らない、新しく入った子が、新商品の帽子をかぶって記事に載っている。

たれ目で、唇がぷっくりしたその子は、まるでアイドルみたいに可愛い。

だけど、店に行ったら、本当にその子に会えるのだろうか。

私には確かめる勇気がない。

Concrete
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