長編8
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山の女神伝

嫁の実家が山持ち。

今は廃集落だが昭和中頃までそれなりに民家があり人もそれなりに住んでいた。

もっと山間部にも村はあるが、そこは

独立した「村」なので普通に民家もビルも道路も信号もたくさんある。

しかし、冒頭の集落は「田舎町に付属する山あいの小さな集落のそのまた集落」であり、民家以外なにもない。道も一本だけ。ある意味、山奥ではないが本当に山の中。

そんな廃集落。今は何にもないが、関係機関の方と当時の事に詳しい老人方数人で年に一度「境界線を決める作業」を行なっている。

かつて住んでいた人の多くは、その土地を放棄していて、また若い息子や孫世代(俺は孫世代)もそのような行事には参加しないので集まるのは老人7人くらい。

ある夏の日、その作業に参加した。義祖父や義父も体が弱ってるからね。

集まった他の人は「関係機関」の人(以下Aさん)を除き皆老人。40歳の俺が小僧扱い。つうかこの集団にいると自分が20歳くらいに見える。

慣れない山歩きは苦痛だが山慣れしてる老人達は本当に元気だ。

また、俺から見たら同じ景色の山も老人達は「ここは◯◯の土地」とかAさんに教えながら進む。いや、本当に「集落があったというかけらもない山の中」なんだよね。平坦な土地とかじゃなくて。普通に木がしげってる。

彼らが「覚えてる」てのもあるが、木の種類(境界線に植える木の種類とかあるみたい)で見分けたり、または廃集落になってからも何10年も定期的に目印を付けにきたりしてる人もいるらしい。

てなわけで俺は疲れた。タバコも吸いたいし小便もしたいしオヤツも食べたい。別にカネ貰ってるわけじゃないし老人達に遠慮する必要ないのだが、小便はもちろん、色々やればゴミとか出るだろ?

ゴミ袋とか携帯灰皿ないし。捨てたらさ、「山を愛する」老人達に叱られそうだし(まぁそれはそれで当たり前の事だが)

だから我慢してたんだ。

ところが!!

ひたすら下を見ながら歩いてて気づかなかったが、こいつら!(老人達)、タバコ吸って火をちゃんと消してるとはいえ山にポイ捨てしてるわ、飴ちゃん舐めては包み紙ポイ捨てしてるわでww。

と、やりたい放題。

「なんだよ!」と思いながら、とりあえずは小便をした。。

その瞬間!

老人のひとりが「おい!こら!やめんか!」

俺「え?!え?なに?ゴミ捨てまくってるお前らに小便で文句言われんの?」な状態。

とっさにイチモツを俺はパンツにしまった。

すると老人達の中では一番若くて俺の近所に住んでる人が血相を変えて走ってきて「あ、お義父さんとかに何も聞いてない?とりあえずチンチンしまって」と。かなり焦っていた。

Aさんは老人達に「あ、先日きいた例のアレですか?」と言ってる。

とりあえず場の空気最悪。

俺もカチンときたので、老人達の中で一番リーダー格で常に怒ってるようなBさん(俺を叱った奴)に「小便したらマズかったスかね?」と不貞腐れ気味に言った。

ところが、温厚な他の老人達も顔が真剣モードになり「マズいどころじゃないぞ!あんちゃん!」と。

意外に、B老人は冷静に「まぁ、教えなかった俺達やオマエのジイさん達にも責任あるでな、とりあえずもう昼だし一旦小屋に戻る」と皆に降る準備を促した。が、他の老人達は明らかに動揺しているようだった。

小屋に着き、俺は説明を受けた。

「山には神様がいる。神様といっても、いわゆる皆が思ってる神様とは違う。人々に恵みをもたらすだけではなく災いももたらす、悪くいえば妖怪的な部分もある」

「山の神は、どこの山でもそうだが「男」である場合と「女」である場合がある」

「ここの山の神は女。これはこの山だけの事かもしれないが、山の中で若い男が男性器を出す事はこの山でもっともしてはいけない事」

「なぜしてはいけないのか、それは山の女神が怒るというわけではなく、魅入られてしまうから。俺らみたいな老人ならまだいいが若い男は本当に危険」

という話だった。

ん、なんかあるような伝承だな。また、山に昔から住んでる老人達はこのような伝承を真摯に受け止め守るという部分はあるのだろう。

だけどさ、

俺は無神論者ではないが、さすがにやっぱり昔話のような伝承程度な話であそこまで真剣に怒らなくてもなぁ、と思ったよ。

だから、「今度から気をつけなよ」で終わり、昼飯食ってまた午後からの作業になる、と思ってた。

しかし!

終わらなかった。老人達にとって「単なる昔話のような伝承」ではなかったのだ。

俺、Aさん、近所の優しい若老人の3人を小屋に入れと促し、他の老人達が、、

なんと、ズボンを下ろしパンツを脱ぎ、、

イチモツを振りながら踊り出したのだ!!

皺々の下半身を艶めかしく動かしながら、小屋の周りで「ホー!」とか甲高い声を出しながら。

鳥肌が立ったよ。「自分は本当にダメな事をしたんだ」って気にもなったし。

ここまでの事、こんな事までしなきゃいけない事だったのかよ!と。

返す返すも、単におじいちゃんおばあちゃんが「悪い事すると神様おこるで~!」「妖怪が迎えにくるで~」と孫に言い聞かす的な話だと思ってたのに。

10分くらいやって、小屋に入ってきたリーダー老人は「今日はとりあえずもう作業やめじゃ。弁当食って帰ろう。あ、それとあんちゃんは半年くらいはこの山に入ったらあかんぞ」と。

なんか気分悪い話なんだがね。ただ、帰り道が同じの若老人が、

「キツい事言った人もいるけどあの人達を嫌いになっちゃいけないよ、あのイチモツ出して踊ってた行為は神様の目線を君のイチモツから逸らす為のもの(俺もなんとなく分かってた)、つまり自分達が身代わりになる覚悟での事なんだから。あの人達は若い中(先述した老人達の子供世代や孫世代、30人くらいはいる)で唯一山の行事に参加してくれてる君をとても大切に思ってるし普段からそう言ってるんだよ、だから身代わりになるために行動したんだ。伝承が単なる伝承か分からないけどとりあえずはあの人達の中では本当なんだから」

と、言ってくれた。

なんだか口うるさく感じた老人達をウザく思ってた自分を恥じたよ。

ちなみに、踊り中の「ホー!」な甲高い声は、山の中で人を呼ぶ(今回の場合を神に気付かせる)ためのものらしい。

とまあ、俺の身にその後なにかおきたわけでもないし、霊能力のある神主や住職が登場するわけでもない。

しかし

後日、一連の話をきいた義父は、事前に俺に教えなかった事を詫びつつこんな話をした。

伝承自体は昔からある。俺(義父)が産まれる前から。

ある年、義父の同級生のM(ちょっと頭おかしい人)が掟を破った。当時中学生だったMは、その後廃集落になり麓の町に住んでからも、60歳になって死ぬまで毎日毎日(中学生の時から)自転車で遠い遠い廃集落までどんな天気の日も通い続けた。何しに行ってるかは誰も知らないが、「魅入られた女神に呼ばれてる」て集落出身者は言っていたと。

その話聞いてちょっとゾっとしたね。廃集落出身はあくまで嫁の家系で俺は関係ないんだけど、麓の町でも俺の家系は廃集落寄りの場所で、Mさんの存在は小学生の頃から知ってる。嫁がいなく免許も持ってない(それもちょっとおかしい人だからってのも知ってた)、また、自転車でどんな雨の日も廃集落向けて走ってる姿も俺は小学生の時から大人になってからも何度も見てるんだよね(彼の家は更に遠い)。

彼は60くらいで死んでるんだけど、その年齢くらいになっても続けてた。

更に後日、義父が話を続けた。

「実は、事あるごとに山に頻繁に行ってる連中はたくさんいる。お前も知ってるだろう?」

と。

うん、知ってる。「山の手入れのため」とか聞いてるけど、なんの手入れもしようもない単なる山だ。でも、度々行ってる人は何人かいるのは知ってる。義父の父、つまり義祖父もそうだ。今では痴呆で施設にいるが、ヨボヨボになる寸前まで軽トラで本当に毎日山に行っていた。義祖母とケンカしても決まって山に「プチ家出」とかしてた。80歳とかになっても。

俺も思ってたよ、返す返すも本当に手入れとか何にもする事ない山に何しに一部の人は行ってるんだと。

義父「まず、Mがおかしいのは生まれつきだ。あの件のせいではない。しかし、山に毎日通うのはやっぱりあの一件は関係あると思う」

義父「Mの場合は頭がおかしいのと自転車で遠い距離を通うから目立つだけで、車とはいえ毎日通ってる連中は実は5~6人はいる」

義父「実はな、魅入られし者は山に通い山の女神の化身と交わってるって噂がある日たったんだ。しかも女神の化身は相当な美人だという尾ひれ付きで。ちなみにこれはMの事がおこるもっと昔の話な。俺の親父世代の話だ」

義父「それを知った一部の者が羨ましく思い、山の中でイチモツを見せびらかして女神の気を引いた、そいつらが通ってる連中。俺の親父もそうだ。」

義父「当時は廃集落ではなく文字通り山に皆住んでたわけだから、毎日夜な夜な家から歩いて山頂部にある溜池あたりに出かけていた奴が親父含め何人かいた」

という事だった。

ちなみに、義父がこの伝承を信用する理由として、「山に通い詰めてる連中」は全員、例の行為に及んだのが若い頃だったらしい。義祖父世代もMも。年食った連中が何人かやっても「通うような事」にはならなかったらしい。実は義父も羨ましくおもい40代の頃にイチモツを出しまくったそうだが、なんともなかったらしい。だから40代のお前も大丈夫だろうと伝承を話さなかったらしい。

まぁMさんは頭がちょっとアレだし、何もない山に通い詰める人達は本当に山の手入れをしているだけかもしれない。実際に昔住んでた土地の草刈りを頻繁にしてる人もいるし。伝承を信じてる老人達があのような(俺のために腰振り行動)しただけで、俺としたらやっぱり単なる「昔話」的な伝承だと思った。

翌年、また冒頭の作業の日がやってきた。

また俺が参加。去年来てた老人達は皆来てなく、初めて会った老人3人と去年来てた関係機関のAさんと俺だけだった。

今年は山頂部の溜池あたりに行くらしいのだが、近付くにつれ老人が俺とAさんに「初めてか?来るか?」とニヤけながら聞いてきた。溜池って廃集落になる前やなった後も「例の奴らが通い詰めてた場所」と義父が言ってた場所か。

俺は事情は知ってますと言わんばかりの顔で「行きますよ」と言い、Aさんも来た。

しかし

いざ付くと、なぜ老人が「来るか?」と聞いてきたのか分かった。

小さな溜池の周辺にはあちこに古びた毛布が敷かれ、大量のティッシュや避妊具があちこちに散らばっていた。

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ある意味男性のパワースポットですね。面白かったです。

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