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中編4
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ブラックジョーク

皆さんは笑っている人を見て恐怖を感じた事はありますか?

笑いながら酷い事をしたり、笑っているのに目は笑って無かったりと日常生活の中では意外と少なくはないと思います。

個人的には、笑いながら怒るという芸をやっていた竹中直人さんは怖くないとしても、笑いながら殴るという試合をしていたヴァンダレイ シウバ選手(プロ格闘家)には恐怖を感じました。

まぁ、このパターンだと肉体的被害が及ぶ可能性を危惧しての恐怖ですので、あまりいい例ではないですね。

誰でもヴァンダレイ シウバの対戦相手になったら怖いでしょう…

今回の話はもっと精神的な怖さを感じた話をさせて頂きます。

幼い頃から平屋で育った私は高層マンションに住みたいという願望がありました。

どちらかと言えば高所は苦手なんですが、夜景を観ながらJAZZが流れる部屋でウイスキーグラスを傾けるという映画のようなワンシーンに憧れていたのです。

仕事も段々落ち着いてきて、給料も多少アップしたということもあり、念願の高層マンションへの引越しを検討し始めました。

まずは物件探しという事で、休日を利用して不動産屋へ向かいます。

金銭面の希望など色々伝え、最後にバルコニーから夜景が観える事を条件として提示しました。

担当してくれたのは富田さんという男性で年の頃は40代前半くらい、髪は短く整髪されており感じのいい方でした。

受け応えもスムーズで、こちらの話もしっかり聞いてくれそうだったので、電話番号をお伝えし、良い物件が見つかり次第連絡して頂くようにお願いしました。

ただ少し気になった事がありまして、やたらと目が充血していたんです。

あと書類を書いてる時に手が小刻みに震えていたんですが、その時は寝不足でお疲れなんだろうくらいに思い深く考えてはいませんでした。

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一週間くらいたったある日希望に近い物件が見つかったという連絡がありましたので、次の休みに内見させて頂くようお願いました。

そして当日。

不動産屋へ一旦出向き、そこから担当者である富田さんの車で物件マンションへと向かったんですが…

以前会った時よりも富田さんの目の充血が酷くなっていたんです。

それと移動中、車の中で色々とお話した際、落ち着いた口調ではあったものの声が小刻みに震えるんです。

会話の内容は普通の世間話で、時折ユーモアを挟みながらやりとりしていたんですが、何処か空元気と言うか…

精神的にヤバイんじゃないか?

と思うほどにお疲れの模様でした。

「見えてきました。あちらが物件マンションになります」

富田さんが言いました。

この台詞を言う頃には完全に覇気がなくなっており、息も続かなくなっています。

車を降り、マンションを見上げます。

20階建てで内見予定の部屋は15階。

豪華なエントランスを通り過ぎ、エレベーターに乗り込みます。

上に上がるまでの間はお互い無言でした。

途中で隣に居る富田さんの横顔をチラッと見たんですが、怖いくらい無表情だったのが印象的です。

15階に到着しエレベーターを降りると部屋の前まで来て鍵を開けました。

すると…

「それではご案内致します!」

先程とは打って変わってハキハキした声と満面の笑みで富田さんが振り返りました。

テンションの変わりようにびっくりしつつ、部屋に入ると富田さんの物件アピールが始まります。

「凄く洗練されたデザインの玄関ですよね!

収納棚もしっかりしてて、こちらのスペースなんかは傘立てを置かれるのもイイと思いますよ」

耳障りにならない落ち着いたトーンで的確な説明でした。

お疲れ気味だったんだろうけど、物件現場へ到着したらしっかり仕事モードに切り替えるなんてプロだなと感心してしまいました。

富田さんが続けます。

「こちらがリビングになりますねー

かなり広々していてゆっくりとくつろいで頂けると思います。

家具の配置など考える楽しみもあり想像が膨らみますよね!」

自分だったらどういう家具を置くのか?

色々と妄想してしまいました。

「ちょっとトイレも見てみましょう。

結構広いでしょ!」

「こちらがバスルームです!

ゆったり浴槽に浸かれますよ!」

「キッチンも使いやすそうでしょー!

IH対応ですし、レンジなど置けるスペースもバッチリあります!」

「こちらは寝室にぴったりな部屋です!!

グッスリと一日の疲れを癒して下さい!!」

…。

先程とは声のトーンが変わっている事に気付きました。

なんだか声を張り上げてる感じで、落ち着きを失い少し耳障りです。

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「そしていよいよやって来ました!!

今回ご希望されてましたバルコニーでございます!!!」

声は一段と大きくなりましたが、満面の笑みは部屋に入ってから終始変わりません。

「どうでしょうこの景色!!!

正面には東京タワー!

日が落ちると最高の夜景を楽しめますよ!!

辛いこともあるでしょう?

仕事で落ち込むこともありますよねー??

そんな時にはテーブルと椅子を持ち込みお酒でも呑めば気が晴れますよ!

お洒落なJAZZでも流して洗練された雰囲気を味わうのもイイですしね!!

恋人とお別れして傷つく事もありますよねー?

そんな時はバーベキューセット持ち込んで仲間とのホームパーティーでしょー!!!

それでも人生に疲れて、どうしても立ち直れない時ってありますよね??

でも大丈夫!!!!

そんな時はこのバルコニーから身を乗り出して飛び降りちゃいましょう(笑)

15階の高さですから直ぐ楽になれますよー!!!」

笑っていた富田さん。

目の充血は一層激しく、血走ってました。

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その後この物件は断り不動産屋も変えました。

恐らく何らかの理由で富田さんは精神を病んでたんじゃないかと思っています。

今までの人生でここまで笑っている人に恐怖を感じた事はありません。

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