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長編9
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清田さん

ある所で女子高生がトラックに轢かれた。

赤信号を無視して突っ込んで来たらしく即死だった。

葬儀で号泣していたのは同じ学校に通う友人のA子。

彼女は罪悪感に苛まれていた。

実は事故当日の放課後、A子は被害者の女子高生に教室で相談を持ちかけていたのだ。

その後、学校を出た被害者は轢かれてしまった。

「私の相談なんかで、学校に引き留めてさえいなければ、あの子が死んでしまう事は無かった…」

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ある所で青年が工事現場から崩れてきた鉄柱の下敷きになった。

高層工事中のミスらしく即死だった。

葬儀で号泣していたのは同じ会社に勤める上司A。

彼も罪悪感に苛まれていた。

事故当日、仕事が終わり帰ろうとする被害者の青年を引き留めて、喫煙に付き合わせていたのだ。

その後、被害者は帰り道で崩れ落ちてきた鉄柱の直撃を受けた。

「俺が喫煙所に誘ってさえいなければ、あいつが死んでしまう事は無かった…」

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「はじめまして。私達は70~80年代のロックソングをカバーするバンドで、そこのリーダーを務めている清田と申します。

毎月第3土曜日、スタジオでリハーサル予定なので是非参加して頂けませんか?」

このメールが届くのは何回目だろうか?

僕はイライラしていた。

ことの発端はバンドメンバー募集サイトに投稿した事がきっかけだ。

確か「当方ボーカル希望。楽器はギター、ベースが弾けます。

ジャンルはロックが好きです。

月に2回くらいのペースで活動されてるバンドに加入希望します。」

このような内容だったと思う。

バンドメンバー募集サイトというのは、音楽系の募集記事を投稿したり、その投稿に応募したりするネット掲示板である。

昔は楽器屋や音楽スタジオに募集チラシを貼るのが主流だったが、ネットが普及した現代、サイトを利用するのが一般的だ。

送り主の清田という男は以前そのサイトに投稿していた。

ただ1日に何通も連続投稿したり、サイトを通じて知り合ったであろうと思われる人の愚痴を掲示板き書き込んだり、マナーの悪さが目立っていた。

その内、他のユーザーから

「清田という人にしつこく勧誘されました。」

「断ると逆ギレして暴言メールを送ってきます。」

といった苦情書き込みが増えていき、サイト管理人は清田の投稿アクセス禁止に踏み切ったようだった。

投稿出来なくなった清田は色んな人に応募メールを送りまくっていた。

ただ特徴的な文体とハンドルネームだったためマナーの悪い清田だというのはバレバレで、返信する投稿者は殆ど居なかったと思う。

僕もその中の一人だ。

奴はかなり過去の投稿にまで遡り不特定多数に自分のバンドの勧誘メールを送っていた。

うっとおしかった僕は以前清田に返信したことがある。

「すみませんが、バンドに参加する気はありません。

今後勧誘メールはお控え下さい」

こんな感じだったと思う。

すると直ぐ「了解しました。誠に残念です」

と返事が来た。

所が一週間くらい経つと「失礼を承知でメール差し上げます。どうしても諦めきれないのでもう一度参加を検討してみて頂けないでしょうか?」

と送ってきた。

それに対して僕は「以前申し上げた通り参加する気はありません。正直迷惑なので今後一切送ってこないで下さい」と返した。

すると「迷惑とはなんだ無礼者!あなたが参加すると言うまで勧誘メール送り続けるからな!」と…

この相手には何言っても通じないと諦めた僕は今後スルーすることに決めた。

そして掲示板には清田に対する苦情の書き込みが以前にも増してあがるようになった。

「定期的に清田さんから勧誘メールが送られてきます。

断っても御構い無しで大変悪質です」

「清田さんの勧誘を断ったら暴言を吐かれ、脅迫まがいの事を言われました。投稿だけじゃなく、応募メールも送信出来ないようにして下さい」

こんな具合だ。

やはり僕以外にも被害者はいる。

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その日僕はいつも以上にイライラしていた。

仕事のトラブルやプライベートな問題が重なりストレスに押しつぶされそうになっていたのだ。

そんな時、清田からの勧誘メールが届いた。

あれ以来ずっとスルーを決め込んできた僕だったが、頭の中の何かがキレたのが分かった。

「もう我慢出来ない。好き放題しやがって…徹底的に振り回してやる」

清田に制裁を加えると決めた僕が考えたプランはこうだ。

まず捨てアドレスを作り、清田からメールを受けた者を装う。

そしてバンド参加するに当たっての顔合わせを希望し、清田を遠方の駅まで呼び出す。

勿論僕は行かずに遅刻しそうな旨を伝える。

1時間おきくらいに新たな遅刻理由を伝え続け、待ちぼうけ状態にさせた後、ドタキャンする。

僕は適当な偽名を使い清田にメールを送ると直ぐに返信が来た。

話はトントン拍子に進み、明後日の15時に清田の最寄り駅から10駅くらいの喫茶店で待ち合わせする事に決まった。

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待ち合わせ当日。

「喫茶店の前に着きました。帽子を被りサングラスかけているのが私です」

とメールが来た。

時刻は15時10分前。

それに対する返信メールを15時15分くらいに送った。

「すみませんが仕事で少し遅れます」

清田から「了解しました」と返ってきた。

そして16時近くになり清田からメールが来た。

「仕事の具合はどうですか?何時くらいになりそうですか?」

それに対して「16時30分には着くと思います」と返した。

17時近くになり清田からメールが来た。

「まだですか?疲れたので店の中に入ってます」

おやおや、御苦労な事に約2時間店の前で立っていたみたいだ。

「遅れてすみません、もう少々お待ちください」と送っといた。

やがて17時30分くらいになりメールが届いた。

「18時までに来なかったら楽譜を店員に渡して帰ります」と。

そして18時まで返信せずにいたら、「3時間待ちました。今日は帰るので店員から楽譜を受け取って下さい。次は私の最寄り駅で待ち合わせしましょう」と来た。

「了解しました。今日はすみませんでした。次は清田さんの最寄り駅まで伺います」と伝えておいた。

我ながら悪趣味だなと思ったものの、制裁を下してる充実感みたいなものを感じた。

そしてドキドキ感を楽しんでいる自分がいた。

意外と清田は理性を保っておりメールの文言に暴言はなかった。

とりあえず3日後の14時に清田の最寄り駅で待ち合わするアポを取り付けた。

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待ち合わせ当日。

長くなるので詳細は省くが大体の流れはこの前と同じだ。

遅刻する旨を伝え続けて待ちぼうけ状態にさせる。

今回清田は妻を連れて来ていたらしく随分ご立腹だった。

結局3時間待たせた後ドタキャンした。

「前回からどれだけ待たせるんだ!

いい加減にしなさい!

次は日曜日に私の最寄りのコンビニまで来なさい。

絶対に遅刻厳禁!」

皆さん大体お察しだと思うが、清田は大変頭が弱い。

普通ここまで酷いと待ち合わせする気など無く、自分を振り回す事が目的だと分かりそうなものなんだが…

まぁ此方からしてみれば、振り回し甲斐がある男なのである。

勿論コンビニの待ち合わせも行く気なく遅刻からのドタキャンコースをプレゼントする。

すると、「お前ふざけるな!舐めた真似しやがって、約束は守れよ!」とのお怒りメールが。

それ以来も「待ち合わせ場所へ向かってはいたんですが、道中レンタルビデオ屋を見つけてしまいどうしてもロッキー4が観たくなったので貸りてしまいました。現在DVDを家で鑑賞中です。すみませんが今日はキャンセルさせて貰います」と待ち合わせ時刻より1時間程オーバーして送ったり、完全に清田を弄ぶようになっていた。

流石にこの時は怒り狂ったようで罵倒メールの嵐が来た。

「もうお前とは2度と約束をしない!」

とまで言っていた。

僕も段々飽きてきて、次の約束で終わりにしようと思い3週間の間を開けてメールを送った。

「今までの無礼お許し下さい。貴方の寛大な心に甘えて大変申し訳ない事をしてしまいました。

しっかりと反省し、貴方のバンドに尽力する事を決めました。

どうかもう一度顔合わせをして下さい」

すると、「分かった。お前を信じるのはこれが最後だ。絶対に遅れないで来い」と返信が。

待ち合わせは清田と最初に待ち合わせた喫茶店に15時だ。

今回は最後ということもあり、清田からのメールに一切返信せず最上級のストレスを与えてやろうと決めた。

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そして最後の待ち合わせ当日…

時刻が15時を回った。

いつもだったら「もう喫茶店に着いてるぞ。また遅刻する気か?」

とメールが来る筈なんだが中々来ない。

10分…30分…1時間…2時間…と一行に来る気配が無い。

「なるほど~。奴も喫茶店へ行って居ないんだな。

騙されてるという事にようやく気付いたようだ。

最後にド派手な待ちぼうけを喰らわせてやりたかったが、バレちまったら仕方が無い。

まぁストレス解消にもなったし清田も少しは反省するだろう。

この遊びもこれにて終了だな」

最後は相手に感づかれて終わるという歯切れの悪い結末になったのだが、充分にお灸を据えてやったつもりだったし楽しませても貰ったので満足感に溢れていた。

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そのメールは一週間後、突然送られてきた。

清田からだった。

内容を見た僕は全身が震えた…

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「清田の妻です。一週間前の午後主人は亡くなりました。

バンドメンバーとの顔合わせをしに行く途中交通事故で死にました。

生前主人からあなたの事を聞いていました。

遅刻癖が酷いメンバーが居てどうしようもないと。

何回もドタキャンされ、もう相手にしないと決めたが、誠意の感じられる謝罪メールが来た為、最後に喫茶店に行くと。

履歴を遡りあなたと主人のメールのやり取りを全て見させて頂きました。

第三者である私から見ればあなたが主人を弄んでいるのは明白です。

どの約束も最初から待ち合わせする気など無かったんでしょ?

主人は人を信じやすく純粋な人でした。

至らぬ点も多かったですが、殺す事はないじゃないですか。

あなたのせいで主人は死んだんです。

人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、

一生恨んでやる、

人殺しめ。」

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やってしまった。

メールの通りだ。

「僕の悪戯で喫茶店へ呼び出してさえいなければ、清田は死んでしまう事は無かった…」

震えは止まらず頭の中はパニックだ。

まず考えたのが、ドタキャンが罪になるのか?

故意のドタキャンが原因で相手を死なせてしまった場合、殺人罪が適用されるのか?

「そもそも清田の悪質な勧誘メールが原因じゃないか。

僕以外の人にも脅迫じみたことを言ったり。」

とりあえず弁明のメールをしようと思い、事の経緯を詳しく書き込んで送信した。

すると…

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メール送信エラーとして返ってきた。

アドレスを変えられてる…

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色々考えられる事がある。

1番僕的に助かるのが、清田が妻に扮してメールを送ってきているパターンだ。

待ち合わせに絶対現れない僕にダメージを与える方法。

それは自分が呼び出した事が原因で相手が亡くなり一生罪悪感を背負って生きていかねばならなくさせる。

しかもメールアドレスを変更することによって相手は真相を確かめられない。

それに対し1番避けたいのは、あのメールの内容が全て真実の場合だ。

僕が殺したことになる。

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冒頭で挙げた2件の事故を思い出して欲しい。

女子高生A子と上司A。

両者共に自分が起こした行動によって相手を死なせてしまっている。

しかしその行動には全く悪意が無い。

・相談を聞いて貰う

・タバコを付き合って貰う

日常にありふれてる光景だ。

だが物理的にこれらの理由で相手の行動を制限していなければ死ぬ事は無かったはず…

これは殺人?

今回のバンド青年Aも清田が本当に死んでいるとすればやってる事は同じだ。

・喫茶店に呼び出す

という行動により相手を死なせてしまった。

ただ、上の2件とは明らかに違う事がある。

悪意があったんだ。

裁判になったらどうなるのか?

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清田の妻と名乗るメールが来てから一ヶ月になる。

好きだった歌を歌ってもギターを弾いても全然楽しくない。

警察に聞けばその日あった死亡事故の事など簡単に分かるだろう。

でも…もしも事故が事実ならば…

僕は立ち直る自身がない。

だから警察にも聞けない。

これから一生、人殺しの可能性の罪悪感を背負って生きていかねばならないんだろう。

何をしても楽しくない。

あんな悪戯をしたばかりに僕は重過ぎる代償を背負ってしまった…

Concrete
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