俺は寝不足が続いている。
最近では丸2日寝れてない日もあった。
今日は20分くらい寝れたかな。
とにかく寝るのが怖い。目が覚めなくなるとかではない。
アイツが... 来るからだ。。。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
事が起こり始めたのはつい最近、大学を卒業して就職も決まり、一人暮らしのためマンションに引っ越してから。
最初の方は特に何もなく、仕事も順調で職場仲間もすぐに出来たしプライベートもそれなりに上手くいっていた。
ところが引っ越して1ヶ月が過ぎた頃だった。
俺はいつも仕事は電車で通っていて朝は7時過ぎ、夜は早い時で21時、遅い時は終電ギリギリくらいまで仕事をしているのだが、この日初めての残業で終わったのが0時過ぎ。
『やべっ!電車間に合わねー!』
1人ブツブツ言いながら急いで帰る支度をして、会社を出た。
この日残業していたのは俺1人だからオフィスの電気を消し、鍵を閉めて警備員に鍵を返してダッシュで駅に向かった。
駅に着いたのは0時半。
終電が0時58分。帰る駅は15分くらいだから本当にギリギリだった。
『間に合った〜。』
ホッと胸をなでおろし、40分発の電車を待った。
『...ん?』
何気なく向かいのホームに目をやると、女の人が1人立っていて俺の方を見ていた。
服装はTシャツにロングスカートだったか、少々破けていて髪も寝癖のひどい感じでクシャクシャだ。
見た目だけだとかなり気味が悪い。
というか逆方向の電車は確か最終が0時26分だから、もう間に合わないはず。
ホームレスか何かか?
そもそもホームに入る前に駅員に止められるはずじゃ⁇
普段ならこんな事気にならないのに、その日が初残業なのと俺の居るホームも最終だから俺1人しか居ないこともあってか、その女の人が気になり俺も目が離せずにいた。
その時
【間も無く電車が到着します。この電車は最終○○行きです】
終電のアナウンスが流れ、俺は立ち上がり電車を待った時だった。
そのホームレス女性はホームから飛び降りてスタスタと線路内を渡り、俺の居るホームに向かって来た。
『なっ、何を!あんた危ないよ!ちょっと!誰か!』
そんな事を言ってる間に電車が来て、あっさりそのホームレス女性は電車の下敷きになった。
俺は思わずその場で吐いてしまった。
俺のさっきの叫び声と、今の俺の現状を見て駅員が駆けつけてくれたので到着した電車の出発を待ってもらい、事情を駅員に話した。
すぐに応援を呼び、駅員数人で停車中の電車の下を隈なく
確認してもらったが、女性の姿はもちろん電車の先頭部分にも何かがぶつかった形跡すら無かった。
駅員にこっぴどく叱られた後電車に乗った俺は、自分が見たのは夢なのか幻なのかよくわからない状況にあった。
確かに女はいた。
確かにホームを降りてこっちに向かって来た。
目こそ見えなかったがその時の表情覚えてる。
.....ニヤついていた。
電車に轢かれるまで...
でも現に駅員の確認の元、そんな形跡は全くない。
俯き考えていた顔を上げた俺は向かい側の席を見て声にならない悲鳴を上げた。
さっきの女が座っている。
女はニヤついた顔で俺の方へ近寄り、何かを呟いていた。
・
・
・
『うわぁ‼︎ ...⁉︎』
気付くと俺は家に居た。着ているパジャマは汗でビッショリ。
俺は寝ていたのだ。
枕元に置いてあったスマホを見ると、日曜日で仕事は休み。
『夢かぁ... リアル過ぎて怖かったなぁ。。ハハハ』
夢だった安堵感から少し笑えた。
この時までは...
・
・
俺は汗だくになったパジャマを洗濯に出し、シャワーを浴びて気分転換に出掛けることにした。
所詮は夢であるとわかってながらも昨日の今日というのもあって、あえて電車には乗らず近くのデパートに向かった。
中のレストランで昼食を済ませ、タバコを吸いながら前の席に目がいった俺はギョッとした。
【あの女... まさか】
服装、髪型... 後ろ姿だが夢で見たのと一緒だ。
どうする...
早く店を出たいが、レジに向かうにはどうしても女の横を通らないといけない。
女が先に出るのを待ちたいが、いつ出るかもわからないし俺も長々と店に居座りたくない。
決心した俺は女の横を通る時に顔を掻く素振りで顔を隠し、女に気付かれないよう早々とレジを済ませて店を出た。
出て行く際、振り返って見ると女も振り返っていた。
首だけが180度回った状態で。
俺は逃げるようにデパートを出て、マンションに戻った。
そしてここから俺の中での地獄が始まった。
・
・
その日の夜、早めに寝床についた俺は色んなことがあり過ぎてすぐに眠りについた。
翌朝、目覚ましで起きた俺はとても気分が良かった。
嫌な夢も見なかったし、しっかり寝れた。
朝飯を済ませ、服を着て仕事に向かった。
しかしその気分も一瞬で消されてしまうのだった。
朝の通勤ラッシュ、いつもの事だから慣れたもんだが今日は違った。
人混みに揉まれてる中にまたあの女が居た。
同じ服装、同じ髪型。そして夢に出て来た時と同じ、ニヤついていた。
その場から逃げ出したかったが車内は満員で動くことが出来ない。
後10分ちょっとの我慢だし、俺は外の景色を見るようにして女から視線をはずした。
その時。。
『痛ぇ!!』
右腕に高熱を浴びたかのような激痛が走った。
咄嗟に腕を見ると、女が俺の腕に噛み付いていた。
喰い千切るんじゃないかってくらい鋭く噛み付いている。
『やめろ!誰か、誰か助けてください!』
しかし誰も助けてくれない。
俺は溢れ出る血を見ながら気を失った。
・
・
・
目が覚めると、俺はマンションに居た。
パジャマ姿、日が差し込んでいる。
時間は7時前、朝だ。
また... 夢だったのか。でも今日は違った。
右腕が強く痛む。
だが腕のどこを見ても傷も何も無い。
病院に行きたかったが、とりあえず仕事に行かなきゃいけない。
痛みを我慢してわざと電車に乗らず、タクシーで向かった。
職場に着いて早々に仲間の巻原が心配そうに声を掛けてきた。
巻原『おぉ、お前大丈夫か?』
『え?何が?』
巻原『何がって、お前先週の土曜日遅くまで残業してくれてたんだろ?』
『土曜?俺... 仕事してたのか?』
巻原『はぁ?お前じゃなかったら誰が残業したんだよ。その証拠に警備員の鍵渡し表にお前の名前が書いてあったんだから。 ボケるには早すぎるだろ。ハハハ』
巻原の言葉で俺はさらに頭がおかしくなっていった。
土曜の残業は確かにしていた。
終電に間に合わないから焦り気味で会社を出た。
その際警備員に鍵も返した。
ギリギリ電車に間に合った。
そして奇妙な女に遭遇した。
電車が到着する間際、女は線路内に降りて俺の方に向かって来ながら電車に轢かれた。
だが電車にはそんな痕跡はなかった。
しかし電車内に女が居た。
でもそれは夢だった。
なのに今日の巻原のあの言葉。
一体何が夢で何が現実なのかわからない。
ただ、確かに言えるのは夢でも現実でもあの女は現れる。
とにかく今日は余計なことは考えないようにして、仕事に集中した。
18時、仕事を終えた俺は帰りもタクシーを使った。
マンションに着き、周りを見渡す。
女がいないことを確認し、早足で部屋に入った。
だが、そこに居た。
【オカエリナサイ】
ニヤついた口で女は立ち上がった。
【ウデイタイ?】
ウデイタイ?... まさかあの時の?
あれは夢だったはずじゃ。。
全身から嫌な汗が流れ出る。腕の痛みも増す。
【マタクルネ】
女はそう言って部屋を出て行った。
俺はその場から動けずにいた。
.....
.....
俺はマンション近くの公園に居た。
ひどく疲れているのが顔を見なくてもわかる。
また女がやってきた。
逃げ出したいけど、力が入らない。
女は俺の目元に口を当て、力一杯歯を食い込ませ一気に引き抜く。
『うぐあぁぁ...』
痛さのあまりにもがき苦しむ俺を、女は突っ立ちニヤついている。
その口には俺の目を咥えている。
俺はこのまま死ぬんだ...
・
・
・
目が覚めた俺は立ったまま、壁にもたれかかるように眠っていたようだ。
そう、あれもまた夢だった。
未だ腕は痛いし疲れはピークに達し、これからどうしようか考えながら仕事に行く支度をしてる時に違和感を感じた。
何か目がおかしい。
痛みこそ無いが視界範囲が狭く感じる。
洗面所に立ち、手で片方ずつ目を隠す。
左目...ちゃんと見えてる。右目... ⁉︎見えない。
完全に視界は真っ暗。でも目は付いてる。
これも夢と現実が一緒になってるのか。
どちらにせよこのままでは本当に死ぬかも知れない。
俺は会社に長期にわたる休暇をもらい、まず病院に向かった。
眼科、整形と受診したが特に異常は無いとの事で、鎮痛剤と点眼薬処方のみで帰された。
その日はマンションで寝ずに一晩過ごした。
寝れば夢にあの女が出てくる、寝なくてもどこかで見られてる恐怖と戦いながら。
翌朝、俺はネットでこういうのに詳しい神社とかを探した。
すると神社ではないが、ごく普通の民家で数々の問題を解決してきたという記事を見つけた。
縋るような思いでその民家に向かった。
場所は隣の県の林道先で電車なら安くで済むが、必ず奴に会う気がしたのでタクシーで向かった。
1時間ちょっとはかかったか、目的の民家に着いた俺はフラつきながらチャイムを鳴らす。
【♪〜】
お婆さん『は〜い、どちらさんかね?』
『突然すみません。。助けてください。。』
出てきてくれたのは70代のお婆さんだった。
お婆さんは俺を見るなり、肩を支え居間へ通してくれた。
お婆さん『とりあえず訳を話してくれるかね?』
お婆さんの問いに俺は引っ越してきてから今までの経緯を話した。
そして女が夢と現実にという話の途中で、お婆さんは目の色を変えて言葉を返してきた。
お婆さん『あんた、それ夢現(ムゲン)に憑かれとるじゃないか!』
『夢現?何ですかそれは』
お婆さん『普通ではあり得ない、神話に近いものじゃよ。』
お婆さんの話によると、あの女は夢現(ムゲン)と呼ばれる悪魔のようなものらしい。
また夢の中で女が起こした行動から、ゆめくい(獏)に似た悪魔だと。
そしてお婆さんは続けた。
お婆さん『夢現を祓ったりは出来ん。悪魔であり自然由来の生き物でもある。また姿形も子供から年寄りまで自在に変えることも出来る。言ってみれば惑わし、とり憑きのプロと言ったところじゃ。』
『何でそんなに詳しく知ってるんですか?』
お婆さん『以前におぬしと同じ目に遭ってる子を見たからな。』
『俺と... 同じ?その人は助かったんですか?』
お婆さん『自ら命を断ちよった。何度も引き止めたんだけどね。』
『じゃあ憑かれたら絶対助からないんですね。なら俺もいっそのこと...』
お婆さん『いや、これを持っておきなさい。肌身離さず持っておれば夢の中での夢現は手を出す事は出来ん。』
そう言って渡してくれたのは真っ黒のお札だった。
見るからに呪われそうなお札だが、今は誰かに救われたい思いでお婆さんを信じて受け取った。
お婆さん『それから、おぬしに異常を起こしてる腕と右目だが、長期にわたるが治せるかも知れん。
しばらくここに住むようになるが。』
『本当ですか?ぜひお願いします。』
お婆さん『うむ。とにかく今日はゆっくり休むといい。』
ニヤつき微笑むお婆さんに促され、俺は用意されてる布団に入り数日振りに不安なく眠りに落ちた。
~
~
~
~
ここは俺のマンション...?
そうか、夢の中だな。
辺りを見回すが女はいない。手にはお札を握っている。
お婆さんの言った事は本当だった。
俺はお婆さんに助けてもらえた。
部屋に入るとお婆さんが座っていた。
俺の方に振り返り、ニヤつき微笑む。
【オカエリナサイ】
【タダイマ】
俺はもうお婆さんから離れない。離れられない。
お婆さんこそ、夢現なのだから。
《夢現は子供から年寄りと自在に姿形を変える》
【モウズットイッショダヨワタシノカワイイイケニエ】
俺の意識は消えた。。。
作者新ともすけ
皆様、大変ご無沙汰しておりました。
ともすけ改め、新ともすけとして帰ってまいりました。
一昨年の受賞の際は皆様のたくさんのお力添えをいただき本当にありがとうございました。
久々に一作書いてみましたが、あいも変わらず文才がなく申し訳ありませんが、暇つぶし程度に見ていただけたら幸いです。
これからも宜しくお願い致します。