僕が中学2年の頃の話です。
当時、僕の通っていた中学で霊が出たと噂になったことがありました。
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その頃、期末テストも終わり、学校がもうじき夏休みということで、海水浴に行くとか旅行に行くとか、学校中が夏休み前の楽しい雰囲気に包まれていました。
僕も夏休みには毎年、母の実家に遊びに行く予定になっていて、親戚の中でも特に叔母とは友達のように仲が良く可愛がられているので、叔母からお小遣いを貰えるのを楽しみにしていました。
そんな感じで皆がワクワクしている中、同時に話題になったのが、学校で生徒が霊を見たという話でした。
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部活で帰りが遅くなった男子生徒がひとりで廊下を歩いていたとき、誰もいないはずの教室に女子生徒が席に座っているのを見たというのです。
驚いて、通り過ぎようとしていた足を止めて、見間違いじゃないかと恐る恐る廊下側の窓から教室の中を見返してみたら、ちょうど教室の中央くらいの席にやはり間違いなく女子生徒がいたそうです。
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教室には外から鍵が掛かっていて、電気もつけていない。
何より夏なのに長袖のセーラー服を着ていて、暗い教室の中でも青白い肌が目立っていたらしく、生きている人間とは思えない。
何故か目が離せなくなってそのまま見ていたら、女子生徒が振り向いて、目が合うなりこう呟いたといいます。
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『お前じゃない…』
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「聞いた?3年3組の教室の幽霊の話!美術部の生徒が見たんだって」
「あの教室にセーラー服着た霊が出るって話、結構前からあるらしいよ。卒業した先輩も知ってるって言ってた」
噂はすぐに学校中に広まりました。
目撃したという生徒はその後、恐ろしくなって走って逃げるように帰宅した…とのことでした。
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僕は心霊現象とか信じない方なので、その話が本当だとしても霊とは思えないし、正直くだらない噂だと思っていましたが、そういう怖い話が好な生徒達は話に夢中になっていました。
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中には女子生徒の霊を見てみたいと、用もないのにその教室の前を通ったり、わざわざ教室の前で霊が現れるのを待っている生徒達もいるほどでした。
それで霊の姿を見れなくても、それがまた新たに話のネタとなり「あの女子生徒は好きな男子に告白して振られて、それがショックで自殺したから、その振った男子と似ている生徒の前にしか現れない」などと更なる噂となっていました。
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霊を信じない僕は無視していましたが、ある日その霊を見たという美術部の生徒というのが、僕の部活の後輩の友達だと知りました。
「クラスも僕と一緒なんです。…みんなは面白がってますけど、本当に怖かったそうですよ。女子生徒は教室の中にいた、でも声は耳元で聞こえた、とか言っていて…」
そこで初めて少し興味が沸き、後輩に「どんな霊だったか聞いてみて欲しい」と頼んでみました。
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すると後日、その女子生徒の霊の絵を描いてもらって来たと、スケッチブックを渡してくれました。
さすが美術部員なだけあって、絵は色付きでかなりリアルに描いてありました。
これが知っている人の絵ならば、誰だか特定出来てしまいそうなほどでした。
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ですが、絵自体はやはり単に長袖のセーラー服を着て髪を三つ編みにしている女子の姿が描かれているだけですし、描いてもらっておいてなんですが無関心なのには変わりなく…。
そんなことよりも、早く夏休みにならないかな、叔母に会いたいな、ということばかり考えていました。
他の生徒達も、現れない霊に次第に興味が薄れていったようで、徐々に噂は話題からそれていきました。
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そして噂話のことなんか忘れて過ごしているうちに、学校が夏休みになりました。
予定通り母の実家へ行くと、仲良しの叔母は嬉しそうに出迎えてくれて、楽しみにしていたお小遣いをくれました。
それから、茶の間にジュースとケーキを持って来るなり「学校はどう?」とか「好きな子はいるの?」とか色々と聞いて来たので、僕は話題の一つとして、噂の霊の話を叔母に話してみました。
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怪談話が好きなのか、叔母は興味ありげに聞いていました。
そこで僕は、美術部員が描いた女子生徒の霊の絵をスマホで撮っておいたことを思い出し、それを叔母に見せてあげました。
「こういう子だったらしいよ?」
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shake
「!!?」
すると、絵の画像を見た途端、急に叔母が目を見開いて立ち上がったんです。
「叔母さん?」
「・・・・・」
驚いた僕が声をかけても聞こえていないのか、叔母は返事もせずスマホの画面を凝視しているだけで…。
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そのうち「…なんで?…なんで?」と呟き始め、そんな叔母に僕も戸惑いました。
どうしたのと声をかけようとしたら、それより早く叔母は部屋から出て行って、少しして戻って来たとき手に古いアルバムを持っていました。
「…実はね、叔母さんも昔あの中学に通ってたの」
そう言って、アルバムを開いて中学の頃の自分の写真を見せてきました。
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shake
「!!??」
僕は絶句しました。
写真に写っている中学時代の叔母の姿、それが噂になっていた女子生徒の霊の絵とそっくりだったんです。
それは…ただ似ているというだけじゃない、何というのか『これは間違いなく叔母だ』と確信させるような強い思いが写真から感じ取れるような感覚でした。
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唐突すぎる展開に驚いている僕に、叔母が言いました。
「…夏休みでも登校日ってあるよね?…そのときは、私も一緒に学校に行くね」
僕が理由を聞こうとする前に
「迎えに行ってあげなきゃ…」
そう呟き、自分の昔話を僕に話しました。
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中学時代、その3階の3年3組の教室の生徒だった叔母は、当時ひどいいじめにあっていたそうです。
詳しくは聞けませんでしたが、男子生徒達に席を囲まれては暴力をふられ、それを女子生徒達は楽しそうに笑いながら観賞…。
教師に相談しても何もしてくれない…。
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いじめは毎日毎日、卒業式の日まで続き、心身ともに壊れてしまいそうだったと辛そうに話してくれました。
中学を卒業後も傷は癒えることはなく、いじめられているときの夢をみては自分の悲鳴で目が覚めたり、自殺未遂で入院もした…と打ち明けてくれました。
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「…あの教室にいた女子生徒の霊は叔母さんってこと?でも、叔母さんはこうして生きてるじゃないか?」
「それは、きっと…」
僕の問いかけに、叔母はこう答えました。
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…いじめをしていた生徒達を許さない、許せないという強い思い。
その恨みが、卒業して何年も何年も経った今でも念のように残っていて、それが当時の自分自身の姿となって『生霊』として未だに学校に憑いているんじゃないか…と。
「私が心のどこかで、いつまでも忘れられないでいるのかも。人を恨み続けるのも苦しいものね。迎えに行って、もういいんだよって教えてあげなきゃ…」
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そして後日、夏休みの登校日、僕と叔母は学校の3階の3年3組の教室に行きました。
2年生の登校日で3年生は休みだったので、教室は鍵が掛かったままでした。
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叔母が「見るだけで入らなくていい」と言ったので、廊下側の窓から教室の中を2人でしばらく、ただ黙ったまま見つめていました。
「・・・・・」
「・・・・・」
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昼間だったので怖くもなく、そもそも女子生徒の霊の姿なんて見えませんでしたが、叔母がどこか懐かしそうな悲しそうな表情をしていて「見つけたのかな…」と思いました。
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霊なんていない、こんな出来た話がある訳ない、単なる叔母の思い込み。
…そう思いながらも、心の中で「叔母さんのもとに帰れたんだよね?」と、彼女に語り掛けている自分がいました。
作者Match